「勘違いすんなよ、ブス」拒否できない自意識過剰な私は、いつも無力を感じてしまう

いい人だけど、過剰な態度の担当者

by Kinga Cichewicz

今週中に引越しをする。理由はいろいろ……更新月が迫っているとか今の生活になんとなくうんざりしてきたとかペットが飼えないだとかあるけれど、何よりも狭い。コロナが流行る前は寝に帰るだけの部屋だったのだが、リモートワークがはじまってからはそうもいかない。この8畳にも満たない小さな部屋で毎日を過ごしている。今までよく発狂しなかったな、と本気で思う。それくらい狭くて、色んなことが嫌になってしまって、深夜の思いつきで不動産に問い合わせる。わがまま放題の細かい希望とマッチした物件は1軒しかなかった。いざ内見してみたら、なんとなく住んでいる自分の姿が想像できる。「まあ、別にいいか」という煮え切らない気持ちもあったが、大金を叩いて契約してしまった。

家具や収納はどうしようとか、家の近所の飲食店で気になるところを探したりとか、そういう楽しみができた。かなりワクワクしている。自分の好きなものがたくさん詰まった理想の部屋で、今よりもずっと好きに生活できたらいいな。

審査も通り、手続きを済ませて無事に契約も済んだわけなんですが、物件を探す際に担当してくれた人が、明らかにコンプラに引っかかるくらいガッツリ口説いてくるタイプの人で、少し悩んでいた。

担当してくれた人は、23歳で私よりもずっと若かった。私は私でちゃんと理想の部屋が見つかればそれでよかったし、不動産に全くの無知な私より遥かに知識があるのは当然だろう。年齢は特に気にしない。初めて電話をしたとき、細かく希望を聞いてくれた。直接話をしたときも親身になって具体的に話を深堀りしてくれたし、物件へのアドバイスもしてくれた。きっと性別も世代もライフスタイルも違うさまざまな人から色んなことを言われて、毎日うんざりしているはずなのに、少しも面倒臭がる素振りを見せなくて、「誠実でいい人だな。若いのにちゃんとしていてすごいな」というのが第一印象ではあった。

けど、「僕、今彼女いないんですよね~」と言われた時点で不審に思って、ちゃんと距離を取っておくべきだった。内見に行くときに「じゃあ、今から僕とデートしましょう!」と言われたりとか、内見中も「僕が同棲した気持ちになって考えると~」と言われたりとか。「今度飲みに行きましょう!」とか、何か趣味の話をしているときに「僕たち、気が合いますね!」とも言われた。実年齢を答えたら、そのあとすぐに「女性ってやっぱり年上が好きなんですかね?」とも聞かれたし、恋人の有無や好きな異性のタイプを尋ねられたりもした。

ひとつひとつ「ん?」とは思ったのだが、どれも決定打にはならないというか。「こんな年下の男の子が私くらいの年齢の女に好意を持つなんて、そんなことあんのか?」という案と、「相手も相手で『こんな女、適当に手のひらで転がしておけばいいだろ』と思って、ちやほやしてくれているのでは? そういうマニュアルでもあんのか?」という案が常に頭のなかを駆け巡り、どうも感覚がマヒしていたように思う。ちゃんと客観視できなかった。

無事に契約が終わった今、当然だが無駄な連絡が来ることはない。私の心配しすぎだったし、杞憂だった。でも普通、仕事先で出会った人に踏み込んだこと聞かないじゃんね。「おかしかったのかも」とそうはっきり思ったのは、引越し先の契約をほとんど済ませたあとだった。相手は私の今の住所、電話番号、引越し先の住所、職場、保証人である母の連絡先まで知っているわけで、その気になればストーカーとか会社に嫌がらせの電話をするとか、どんな行為もできてしまうってことにも。

いい人だとは思う。普通に知り合っていたとしたら、友達になれたかもしれない。けど、私たちはただの不動産の担当者と客で、お互いにどんな人なのか知らない。冷たくあしらうこともできないし、かといって相手に過剰に期待させるようなことも絶対に言いたくないし、対応に困っていたのだった。まあ、契約しちゃったんですけどね。別に、私の過剰すぎる反応であればそれでいいんだ……。何事もなく時間が過ぎてくれることを祈る……。

「受け流せてこそ、いい女」に失望した

今思い返してみると、私は何かサービスを受ける際、男性が担当者になると高確率でトラブルに発展する。ここ数年は特にそうだ。整体師に髪を触られたりセクハラ紛いの発言をされたり、美容師に「なんでこんな髪型にしちゃったんですか(笑)」とか「まあ、どうせ教えてもスタイリングとかしないじゃないですか」とか、失礼なこと言われたり。何度か通って顔見知りの店員ができた居酒屋の店員にも「早く子ども産まないと」とかなんとか、鼻で笑われたこともある。

なんでなんでしょうね、馬鹿にされやすいのかな。でも、嫌な気持ちになる確率が高いからといって性別を理由に態度を変えるのはなんか違う気がするし、何より個人の信念に反する。何度も同じような目に合っているのに、正しい対応ができない自分にも、その場でただへらへらするだけで直視しない自分にも腹が立つ。本当にマズい段階にならないと不快感を露わにしないし、行動に移すことができない。でも、私はどうしたらよかったんだろう。何が正解なんだろう。いまだに具体的な解決策が見いだせないでいる。

この手の、私が女性でなければ受けなかった出来事から生まれた不快感を、早い段階で気づいて認めて行動できないのは、過去の自分が受けた経験や記憶がいつも現在の私を馬鹿にするからだと思う。「勘違いすんなよ、ブス」「好きになってもらえるだけマシだろ」「そんなことする人じゃないよ、勘違いなんじゃないの?」「過剰に反応しすぎでしょ」「受け流せてこそ、いい女」とか。セクハラを受けたとき、失礼なことを言われたとき、全く恋愛感情を持ち合わせていない人からしつこいくらい連絡が来たとき、やっとの思いで誰かに相談すると、その度に私は失望した。

今回だってそうだ。「自虐風自慢でしょ」と言われそうだなと、思いながら書いている(女に生まれ、ある程度以上のコミュニケーション能力があり、男性の友達・知り合いが増えると、容姿の優劣関係なしに「こいつくらいなら俺だってヤれるだろ」「いつも挨拶してくれるし、俺のこと好きなんじゃないか?」「彼氏もいなくて寂しいだろうから、俺が相手してやろう」みたいな人が近づいてくるんです)。

女でいる自分にうんざりする。こんなことで悩んでいる自分が馬鹿みたいだ。心配しすぎなのも自意識過剰なのも、よくわかる。けど、「万が一」や「もしも」の場合があって、それは大げさではなく、「恐怖」や「身の危険」がすぐそばにあるのと同じだ。

つくづく、面倒臭い性別に生まれたなと思う。男性も男性でそれなりの悩みはあると思うが、女って嫌だなと心底思う。仕事関係に恋愛感情を持ちこんできたり、あり得ない距離感で接してくる人に会っても、どうしても力では勝てないし何をしてくるかわからないから、面と向かって拒否もできないし、相手が傷つかぬようにやんわりと優しくやり過ごさなければならない。これが、かなり精神的にくる。そして、他に特に方法もない。無力だ。それから、私はもう男性から恋愛感情を向けられるような立場にはいないと思っているのに、その輪の中に無自覚のうちに立ち続けていた自分が、憎くて憎くて嫌いになる。

女友達に話をすると、大体みんな同じような目に遭っていて私たちはいつもお互いに慰め合う。「そうだよね」「辛かったよね」と言いながら。みんな、どうしているんだろう。どうしたら、私たちは上手く切り抜けられるんだろう。ただ、普通に暮らしたいだけなんだけど。女でいる自分を認識するとき、私はいつも無力だと思う。その無力さが、私をいつも少しずつ苦しめるのだ。

Text/あたそ

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  • 10/12 11:00
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