村上春樹「こういう人は他にいないから」…大好きだと語る「モーズ・アリソン」の魅力に迫る

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。9月26日(日)の放送は、「村上RADIO~モーズ・アリソンを知っていますか?~」と題して、村上さんもファンだというジャズピアニストでボーカリストのモーズ・アリソンの名曲をアナログ盤でオンエア。村上さんが解説するモーズ・アリソンの足跡のエピソードや、名だたるアーティストがカバーした楽曲など、さまざまな視点からひもといていきます。

この記事では後半5曲と“収録中のつぶやき”、クロージング曲、“今日の最後の言葉”についてお話された概要をお届けします。

村上RADIO

◆Ben Sidran「If You Live」

◆Georgie Fame「WAS」

今日は僕の大好きなモーズ・アリソンの音楽を特集しています。

次にモーズ・アリソンの作った曲を、彼をリスペクトするミュージシャンたちがカバーした曲を聴いてください。まずはベン・シドランの歌う「If You Live」。

人間、生きていれば、また良いときも来るさ、太陽は照り、穀物は育ち、先のことを案じる必要もきっとなくなるさ……という歌です。モーズ・アリソンの作る歌って、なんか基本的に、どことなく明るいんです。オプティミスティックというほどでもないんだけど、「まあ人生、そんなたいしたものでもないけど、そんなに捨てたもんでもないよな」みたいな感じですね。変に深刻ぶらないっていうか、するめを噛むようなさりげなく長持ちする味わいがあります。

   

それから、これも今の「If You Live」と同じCDアルバム『Tell Me Something』に入っているものです。ジョージィ・フェイムの歌う「WAS」。

僕が「過去形was」になってしまったとき、そして僕らが「過去形were」になってしまったとき、君の美しい顔は、まだその気配をあとに残しているだろうか、僕の好きなサウンドはまだ誰かが奏でているだろうか、若い男女が古い写真を見て昔はどんなふうだったんだろうねと言い合うだろうか……という内容です。なかなか味わい深い歌です。

<収録中のつぶやき>

The Whoの「Young Man Blues」、これは「Young Man」という題でモーズ・アリソンが歌っていて、それはすごくさっぱりしたアレンジメントなんだけど、The Whoのほうはハードロックなんだよね。全然違う。何回か聴いてみて、どうしようか考えたんだけど、やっぱり今回はThe Who は遠慮してもらおうと思って。あとジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズも「Parchman Farm」をカバーしていて、これもいいんだけど。エリック・クラプトンが入っているジョン・メイオール。ディレクターの伊藤くんが喜びそうだけど。でもこれもちょっと、ベン・シドランとジョージィ・フェイムのほうがカバーとして面白いと思って。

◆Mose Allison「The Song Is Ended」

◆Mose Allison「Please Don't Talk About Me When I’m Gone」

僕の好きなモーズ・アリソンの歌をさらに2曲聴いてください。どちらもちょっとシブいスタンダード・ソングです。まずはアーヴィング・バーリンの作った「The Song Is Ended」。歌は終わったけど、メロディーはまだ響いている、という歌です。間に入るピアノ・ソロがすごくヒップでかっこいいんです。しびれます。

それから“Please Don't Talk About Me When I’m Gone”「僕がいなくなったあとで僕の話をしないでね」、フォー・フレッシュメンの歌で有名ですが、アリソンのバージョンもやたらかっこいいです。こういうの、大人の歌ですね。悪いけど、子どもにはたぶんわからない。まあ、いいじゃないですか。世の中にそういうものが少しくらいないと、歳を取る値打ちがなくなります。

◆Mose Allison「Stop This World」

これもモーズ・アリソンの書いた曲です。“Stop This World”「世界を止めてくれ、ちょっと降りたいから」。アリソンらしいぴりっとした、うーん、ユーモアのきいた音楽です。バックのトロンボーンはジミー・ネッパー。チャールズ・ミンガスのバンドでトロンボーンを吹いていた人ですね。

<収録中のつぶやき>

モーズ・アリソンのどこに惹かれるんでしょうね、よくわかんないけど。こういう人は他にいないから、こういう人は他にいないというミュージシャンには必ず客がつくんです。だから、この番組でモーズ・アリソンをこれだけ1時間かけても、モーズ・アリソンがいいなんて思ってくれる人は少なくて、20人に1人くらいかもしれないけど、1人いたら大正解なんです。そういう人がずっとモーズ・アリソンを聴いてくれるだけでもありがたい。だからこういう音楽を特集するのは有意義だと思う。でも20人に1人、いるかなあ(笑)。

<クロージング>

Steel Love World Wide「Je T'aime Moi Non Plus」

今日のクロージングは、トリニダード・トバゴ(カリブ海の島国)のミュージシャンたちがスティールパンで演奏する「Je T'aime Moi Non Plus」。スティールパン、もともとは捨てられたドラム缶から作った(音階のある)打楽器ですが、ほんとにきれいな音ですよね。電気を一切使わない楽器なので、聴いていてほっとします。癒やされます。20世紀に新たに生まれた楽器は2つしかないと言われています。シンセサイザーとスティールパンです。電気を使うほうがシンセサイザー、使わないほうがスティールパンです。

    

今日の最後の言葉はジョン・レノンさんの言葉。彼は40歳の誕生日を前に、オノ・ヨーコさんと一緒にインタビューを受けて、このように語っています。

「僕は40歳になろうとしている。人生は40歳から始まるんだって人は言う。ほんとにそのとおりだと思うよ。だって今の気分、最高に素敵だからね。そしてしっかりエキサイトしている。なんだか21歳を過ぎて、また21歳になるって感じだ。そしてとても楽しみなんだ。さあ、この次にいったい何が起こるんだろうってね」

その数ヵ月後にジョン・レノンはニューヨークのアパートメントの入口で射殺されます。それが「その次」に起こったことでした。そう思うと切ないですね。

ジョン・レノンが亡くなったのは、僕が小説家としてデビューした翌年のことでした。ひとつの時代が終わってしまったという、たしかな実感がありました。

   

10月は村上作品に出てくる音楽特集の続きをやります。8月に第1回目をやったんだけど、そのときに紹介しきれなかったので、その続きをやりたいと思います。ご期待ください。

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<番組概要>

番組名:村上RADIO~モーズ・アリソンを知っていますか?~

放送局:TOKYO FM/JFN全国38局フルネット

放送日時:9月26日(日)19:00~19:55(※放送日時が異なる局があります)

パーソナリティ:村上春樹

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

2021/9/27 6:40

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