業務スーパーの強さは“非常識”にあり。牛乳パックデザートだけじゃない
―[あの企業の意外なミライ]―
◆「業務スーパー」の勢いが止まらない
「業務スーパー」を手掛ける神戸物産の大躍進が続いています。
現在、株価は右肩上がりで、8月9日には年初来高値(その年最も高い値段)を記録。時価総額はなんと1兆1,500億円を超えています。店舗数も前年から64店舗増加し928店舗と、1000店舗に迫る勢いです。
事実、滋賀出身の筆者も、業務スーパーは同志社大学時代、京都大学大学院時代とよく利用していました。
商品ラインナップを見ると、「冷凍ほうれん草」「揚げなす乱切り」をはじめとした冷凍野菜のほか、「ベルギーワッフル」や、新商品の「モンブランムースケーキ」といった冷凍デザートも好調のようです。
そんな業務スーパー、なんと直近2年間で営業利益が毎年約40億円ずつ拡大する凄まじい成長を遂げています。今期の着地は、約50億円拡大する見通しです。一体、あの緑背景の白字で描かれた「一般のお客様も大歓迎!」の看板の奥に、どんな経営戦略が隠れているのでしょうか。
同社を表すキーワードは「儲かる仲間づくりのプロ」です。
◆ポスト・タピオカの時代に大躍進
神戸物産が展開する業務スーパーの名を一躍有名にしたのはコロナ以前のタピオカブームです。当時、業務スーパーで販売されていた冷凍タピオカは、売り切れ店が続出した大人気商品でした。
あれから2年――。
「タピる」も「やりらふぃー」も女子高生の口から聞こえなくなった現在。業務スーパーは一般の消費者に愛される店舗として成長を続けていました。
その理由は大きく3つ。
1.独自商品の開発力
2.FC展開による高利益率
3.製造と小売を一貫するSPA
順に説明していきましょう。
◆プライベートブランド商品への尋常ではないこだわり
業務スーパーと言えば、個性的なPB(プライベート)商品の展開でも有名です。
「牛乳パックデザート」と言われる、牛乳パックに水ようかん、杏仁豆腐、珈琲ゼリーなどを入れて冷やし固める見た目の面白さから同商品のファンも多く、SNSではアレンジレシピも紹介されているほどです。
実は、この「牛乳パックデザート」のようなPB商品は業務スーパーの柱となっています。
2020年10月期を初年度とする同社の3カ年の中期経営計画の基本方針では、「PB商品を強化し、基幹事業である業務スーパー事業の拡大を目指す」とPB商品を強化することがアナウンスされています。現在、神戸物産では季節限定商品を含めて約300アイテムのPBを展開しており、PB比率は33.01%で、その数は年々増え続けています。
このPB商品を製造するために、現在、同社はノウハウを持つ工場を次々と買収しています。
従来、小売りチェーンは「工場を持たない経営」が理想とされてきた中で、神戸物産は経営不振の工場を買収して再生し、大容量で低価格の独自商品を生産する道を選んでいるのです。
業界の当たり前を覆す、その“非常識力”がむしろ強みとも言えます。
特に、同社のM&Aは、基本的には取引先で経営不振になった企業の工場などを救済する形が大半。そのため、元手があまりかからず、業務スーパーのことを理解している工場と直接取引ができるメリットもあるのです。
◆直近の神戸物産が買収した工場と品目
・オースターフーズ(08年) リッチチーズケーキ
・マスゼン(09年) 大入りおでん、杏仁豆腐
・秦食品(09年) 冷凍讃岐うどん、ポテトサラダ
・豊田乳業(13年) 牛乳パックデザート
2020年4月に岡山県のスイーツ工場を取得、7月に神奈川県で食肉加工工場、2021年1月に宮城県で食品製造工場を稼働させたことにより、国内のグループ工場の数は24に。
食品スーパーとしてその所有数は日本最大級です。こうして次々とオリジナル商品を生み出しているのです。
◆フランチャイズ経営も“非常識”だった!
もう一つ、同社の強みを支えるのがFC(フランチャイズ)店舗展開。現在、全体のおよそ9割を占める926店舗がFC店、直営は2店舗しかありません。しかし、神戸物産がFC店から得るロイヤリティは、仕入れ額のたったの1%です。これは業界水準ではかなり低いほうです。
ところが、営業利益率は8.2%と、他の商品スーパー(ライフC:2.0%、ヤオコー:4.5%)に比べて高利益率を誇るのです。なぜこんなことが可能なのでしょうか? そもそも、神戸物産のFC展開の目的がおもしろいです。
それは、「業務スーパーの仲間を増やすこと」。
◆FCオーナーの裁量に幅を持たせる
“仲間”を短時間でたくさん集めるために、FCロイヤリティを低くし、FCオーナーに裁量に幅を持たせて自由に経営させる。そして、店舗の利益が上がるように、効率化をしたほうがよいところは本部のやり方を取り入れてもらう。そんな方針なのです。その代表例が、お酒の販売。業務スーパーは、開業当初、酒類を扱っている店舗が多かった。というのも、当時は酒販店が業務スーパーに業態転換したケースが多かったからです。
その場合、すでに仕入先が決まっていたり、もともとの商売の繋がりがあります。その繋がりをFCに加盟したことで一掃するのではなく、むしろ強みとして続けてくださいという姿勢をとったのです。業務スーパーの加盟店は、本部に申請すれば加盟店で独自の仕入れができるようになっており、業務スーパーの商品を扱いながらも、もともとの酒販を続けることができる仕組みになっています。
この柔軟性、FC業界では“非常識”と言えませんか?
◆FC加盟店がフランチャイザーになれる?なんそれ!
さらにすごいのが、FC加盟店がフランチャイザーになれること。サンドイッチマン富澤さん的に言うと「ちょっと何言ってるかわかんない」ですよね?
フランチャイザーとは、加盟店を募集する企業であり本部機能を持つ立ち位置です。
神戸物産から見れば、FC店舗の下に、さらにFC構造は広がる形となっています。こんな、驚きの“ゆるい”構造が認められているのが神戸物産なのです。一方で、抑えるところは抑えているのが神戸物産。ノウハウとして効率化できる部分は本部の知恵がふんだんに使われています。
例えば、物流センターからの流通は袋単位では運ばず、段ボールで運ぶのが決まり。これにより、店舗内の陳列の効率化が徹底されます。こうした売れるノウハウは、“ゆるく”ない。さすがです。
◆企画、製造、販売を垂直統合
業務スーパー、最後の強みは企画から製造、販売までを垂直統合させるSPA(speciality store retailer of private label apparel=製造小売)を取り入れている点です。
ここまで見てきたように、業務スーパーは製造も、販売も自社で行う仕組みが整えられているのがおわかりいただけたと思います。
さらに、神戸物産はいま新しいステージに入ってきています。ソフトバンクと業務提携を行い、AI活用による次世代型スーパー「業務スーパー天下茶屋駅前店」(大阪市西成区)を実験店舗としてオープンさせました。
◆AIでレジ待ち時間がわかる
具体的な取り組みは以下の3つです。
一つ目は、AI カメラで品切れを自動検知できる点。陳列棚の映像を AI カメラで解析し、品切れを自動で検知してスタッフに知らせるシステムを導入することで消費者はスムーズに買い物を楽しめます。店舗側は、スタッフの業務量や人件費を削減でき、業務スーパーの強みであるローコストオペレーションのさらなる強化を実現できることになります。
二つ目は、消費者が選んだ商品に応じておすすめ商品やレシピを提案するレコメンドカートも導入されていること。これにより何を買うか決めていない消費者の買い物のお手伝いを担うことができるのです。
三つ目は、AI を活用してレジの待機人数を予測できること。スーパーのレジの混雑は、ラーメン二郎に並んでいるときのようなワクワク感がほとんどありません。このストレスを解消できるメリットはとても大きいと言えるでしょう。
今やスーパー界でも最先端のテクノロジーを取り入れ始めている業務スーパー。あなたの街にも、あの緑背景に白いゴシック体の看板が次々と増えていく予感です。
<文/馬渕磨理子>
―[あの企業の意外なミライ]―
【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi