<ホラー映画ナビ>顔を浸すだけで美人に! 韓国が放つエグい異色アニメ『整形水』

 次々と日本上陸を果たす最新ホラー映画から選りすぐりの注目作をピックアップ。独創的でスリリング、おもしろコワイ、観て損なしの「この1本」を独断と偏見でチョイスし、関連度の高い「おすすめ作品2本」とあわせてご紹介! 今回は整形大国として知られる韓国が放つ、エグい異色アニメ『整形水』がアツい。アニメ畑出身で『新感染』シリーズを大ヒットさせたヨン・サンホ監督も「新たな領域を開拓したジャンルアニメ!」と大絶賛。思い通りの美顔になって人生の「お直し」にトライできる「整形水」は、果たして神の奇跡か、悪魔の罠か―。

 韓国芸能界で働く太めのメイクアップアーティスト、イェジは少女時代から容姿に強いコンプレックスを抱いてきた。職場では女性タレントに「豚女、見苦しいからマスクしろ」と罵られてパワハラ三昧。憂さ晴らしにコンビニでスナック菓子と酒を爆買いして帰宅すれば、同居する両親の小言が背中に痛い。しかも、通販番組の代打エキストラで嫌々披露した大食い映像がネットで「閲覧注意」と悪意まみれの大炎上。やり場のない怒りと絶望で引きこもり生活に突入した彼女に、巷で噂の「奇跡の整形水」が届く。

 使い方は簡単! 原液を水で4倍に薄め、顔を浸して20分。これで整形準備は完了。あとは無駄な肉を削ぎ、満足するまで粘土のように顔面をこねくり回す。気に入らなければリタッチ可能! さあ、新しい人生のスタートです(原液は皮膚が溶けるので用量・用法は厳守!)。

 整形水の代金2億ウォン(約1800万円!)は親に払わせ、誰もが振り返る超絶キュートな女神フェイスと完璧な肢体を手に入れたイェジは、おしゃれな偽名「キム・ソレ」を名乗り、一発逆転のチャンスを求めて芸能界入りを狙う。

 原作はLINEマンガで独占配信中のホラーアンソロジー『奇々怪々』。世にも不思議な物語がバラエティ豊かに並ぶ原作のなかでも、この「整形水」は屈指の名作と評判の一篇。ネタ一発でサクッと読めるのが魅力のウェブ漫画に、恐怖の旨味をどう肉づけし、一本の映画にどうやって「整える」か。期待の新鋭監督チョ・ギョンフンの腕の見せどころだ。

 顔面偏差値ですべてが決まる極端な「外見至上主義」に囚われた自意識の闇を、韓国ならではのパンチの利いた娯楽篇に昇華した本作。「既存の日本のアニメとは異なる味わいを、アニメというよりホラー映画として気軽に楽しんで欲しい」とギョンフン監督はコメント。韓流ドラマ顔負け、ハイスペック美男子との甘いロマンスに、グログロな猟奇趣味、さらには衝撃のサプライズ展開と、韓国映画界の力強いエンタメ魂はここでも健在だ。

 「顔は時間と経験と心がつくるもの」「容姿より中身」などと諭しても無駄。あれこれ悩んで辛い時間を過ごすなら、整形した方がいいと考える合理的思考も韓国ならでは。主人公のイェジ=ソレが根っからの善人ではなく、打算上等のしたたかさを見せ、罪悪感に心揺れるのも共感度が高い。人間の欲望をくすぐり、不安を拡大してみせる奇々怪々な美の寓話。―あなたも一度、キレイになってみる?

 映画『整形水』は9月23日より全国公開。

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【美しさに固執した人々の顛末 『永遠に美しく…』&短編ホラー「dumplings」】

◆あの女(ひと)より断然、美しくいたいの! 『永遠(とわ)に美しく…』(1992)

 若い頃から互いをライバル視して常にいがみ合ってきた女優と作家を、演技派メリル・ストリープとゴールディ・ホーンが怪演するブラック・コメディ。中年を迎えて肉体の衰えを恐れる女優は、突然若返って美しくなった宿敵の作家が秘伝の霊薬を飲んだと知り、大金を叩いて同じ薬をゲット。見事、アンチエイジングに成功するが、階段から転げ落ちて全身を骨折。霊薬の効果で死ぬこともできず、恐怖のグニャグニャ人間になってしまう。当時の先端VFXを駆使した、女性の意地と憎悪が激突する過激な人体潰し合いバトルのすさまじさ。鬼女2人の間を右往左往する男をブルース・ウィリスがこれまた好演。娯楽巨匠ロバート・ゼメキス監督の悪趣味感性が随所に溢れ出た痛快作。

◆美女がふるまう謎の若返り餃子 『美しい夜、残酷な朝』より「dumplings」(2004)

 韓国、日本、香港の鬼才監督が競作したホラーオムニバスの一篇。『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク、『着信アリ』の三池崇史を相手に、『THE JOYUREI 女優霊』のフルーツ・チャンが描くのは、美に固執する女性の飽くなき欲望と現代社会の闇。実業家の夫に若い愛人がいると知ったセレブマダムが、中国大陸からやってきた年齢不詳の妖しい美女が振る舞う、特製若返り餃子を食して鮮やかな美魔女に。高価な餃子はコリコリと歯応えがあって美味だが、その食材には思いもよらぬ秘密が隠されていた…。おぞましい主題と、『恋する惑星』のクリストファー・ドイルが撮影を務めた洗練された映像のギャップがユニーク。結末の異なる91分のロングバージョンもあり。

(文・山崎圭司)

2021/9/11 8:00

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