格下女をハブる傲慢な美女。身勝手な振る舞いを男に指摘された彼女は…

「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

誠は親友の恋人・真紀に、できたばかりの恋人・咲良のことを「やめた方がいい」と言われてしまう。その言葉に何度も翻弄されるが、誠は咲良のけなげな愛情に心打たれ、彼女が大切な人だと改めて感じるのだった。

▶前回:「ずっと夢だったんだ…」男が初めて家を訪れる恋人のために用意した“あるモノ”とは?

2019年9月


プロ野球のペナントレースが終盤に差し掛かった9月初旬。誠は咲良を連れて数少ない趣味の1つである野球観戦に訪れていた。スタジアムは心地よい海風が吹いている。

「誠さん、阪神ファンなんだよね。私、ユニフォーム持ってきたんだ」

そう言いながらスタンドで彼女がとりだしたユニフォームは、成績が振るわずだいぶ前に退団した外国人選手のものだった。

「メンチ…!?」

フリマアプリで今日のために購入したのだという。大笑いする誠に、彼女は恥ずかしそうに言った。

「だから選手名鑑に載っていなかったんだ。この日のために徹夜で勉強したのに…」

しょぼんとする咲良だが、誠は顔がほころんでしまった。野球には興味がないはずなのに、自分に合わせようとしてくれている…。けなげなその気持ちがとてつもなく嬉しかったのだ。

試合は一進一退の攻防の末、相手チームの主砲によるサヨナラホームランで幕切れという、誠にとっては最悪の結果だった。

しかし、ともにハラハラし喜びや悲しみを分かち合う経験は、2人の結びつきをより強固にしたように思えたのだ。

誠はこの先の人生にあてはめて妄想し、1人で静かに興奮してしまう。彼の心はすでに決まっていた。

― プロポーズって、どうすればいいのだろうか…。

咲良と結婚を決意した誠。だが、またあの女が近づいてきて…

こういうときに的確なアドバイスをくれそうな圭一と、現在、距離があることが辛い。

人生の一大決心こそ、自分の頭で考えろという天からの思し召しなのだろうか。

― 景色のいいレストランを予約して、指輪を渡せばいいんだよな?

観戦帰りの電車の中で同じチームのユニフォームを着た咲良と肩を並べながら、そんなことをずっと考えていた。夢見心地に溺れながら…。



しかし、その翌日。誠は一瞬にして夢からさめた気分となった。

会社の昼休みにスマホを見ると、“あの女”からメッセージが届いていたからだ。


『彼女と順調そうね』

どうやら昨日の野球中継で、誠と咲良の応援する姿がテレビに映っていたのだという。

― そういえば、真紀は相手チームのファンだったな。

誠と圭一、そして真紀の3人でよく野球観戦に行っていた。実のところ、真紀は圭一以上に野球に詳しい。だからこそ、誠と打ち解けることができたと思う。

しかし、そんな楽しかった日々はもう昔のことだ。

『はい。それが何か』

これ以上何も返さないと決心して、誠は返信する。だが、彼女から来たのは一方的な約束のメールだった。

『今日の18時、この前のお店で待ってます。伝えたいことがあるの』

今、作業中のプロジェクトは順調に進行しているので、スケジュールに余裕がある状況ではある。定時上がりも十分可能だ。

― だからと言って、また彼女に会うのも…。

しかし『伝えたいことがある』というのがやけに気になった。まるで秘密でも握っているかのような意味深なメッセージ。

LINEで聞こうと考えたが、文面を考えているうちに昼休憩が終わってしまった。誠の会社は機密保持のためオフィスに私物を持ち込むことが厳密に禁止されている。

結局、返信することができないまま、誠は仕事を時間内に終わらせ真紀の指定する店へ向かったのだった。



「よかった。来てくれた」

虎ノ門のバーの前回と同じ席で、真紀はひとりワイングラスを傾けていた。

「もう会いたくないんじゃなかったの?」

「基本的には、ね。やむを得ない場合は別」

“やむを得ない場合”とは、今のことなのか…。誠はそんな疑問を抱きつつ、冷ややかに真紀を見つめた。

背中が見えそうなほど襟ぐりのあいたニットに、長い髪を片側に寄せている彼女。髪をかきあげる腕には、いつも身につけているエルメスのバングルが輝いている。

誠は彼女と同じワインを注文し、隣の席に座る。

「今日は、飲むんだ」

真紀は安心したような笑みを見せる。その笑顔に騙されぬよう、誠は目をそらした。ワインを頼んだのは、多少の酔いに助けられたい気持ちがあったからだ。

「で、何なの?伝えたいことって」

誠は強い口調で尋ねた。すると真紀は背筋を伸ばし、にらむような流し目でこう言ったのだ。

真紀が呼び出してまで伝えたかったことは…?

「本当に、あのコでいいの?って話よ」

「またその話…?いいかげんにしてくれ」

拍子抜けの言葉にため息をつき、誠は運ばれてきたワインを口にする。

「圭一から誠くんの話を聞いて、改めて思ったの。誠くんと私って似た者同士だと思うのよ。だから、きっとあの人と誠くんは合わない」

「は?」

才色兼備で家柄もよい真紀と非モテの地味男である自分が同じカテゴリに入るはずがない。どこかバカにされているような気がした。

「そんなこと、なぜ真紀さんに指図されなきゃいけないんだよ」

「あなたのためを思っているだけ。もし結婚でもすれば、一生をともに過ごすことになるのよ」

「君が庶民的な彼女と合わないだけだろ」

違うわ、と彼女は否定するが、慌てる様子は肯定しているようなもの。この際、言いたいことははっきり言うしかないと誠は腹をくくった。

「僕は咲良みたいな、互いに素の自分を出せる子が好きなんだよ。真紀さんみたいな女性は、正直疲れるんだよね」

「素の自分?あなたはそうかもしれないけどね」

「どういうことだよ」

ひるむ様子もなく返答する真紀に、誠は逆に身がすくんでしまった。やはり、咲良に何か秘密があるとでもいうのか。

「…別に」

真紀のそんな様子を見て、いくら話しても平行線だろうと誠は諦めた。

「僕は、結婚するつもりだよ。誰が何と言おうと彼女を幸せにしたいんだ」

もし、真紀が嫌ならそれでいい。圭一とは疎遠になるかもしれないが、致し方ない。誠はきっぱりと言い放ったあと、ジャケットを羽織った。

言いたいことは言った。身体じゅうに達成感が満ちていた。

しかし、横から聞こえてくる鼻をすする音が、誠の後ろ髪を引いたのだ。


― え、なんで?

真紀の大きな瞳からどんどん流れ落ちる涙。小さな嗚咽も聞こえる。

自分は彼女を傷つけることは何も言っていないはずなのに。咲良との結婚が、彼女にとってそんなにショックなことなのだろうか…?

「ダメ!絶対に嫌!結婚なんて許せないんだから!!」

真紀はダダをこねるように叫ぶ。店内も騒然とした。

「はぁ?」

誠が眉をしかめると、ハッと我に返ったようだ。

「…ごめんなさい」

止まらない涙を拭きながら、真紀は会計を置いて逃げるように去って行った。

誠はワケもわからず、呆然と立ちすくむ。女の武器は涙だと、昔の男たちは言った。しかし、真紀の涙は誠をさらにイラつかせただけだった。

― ずっとそれで思い通りになっていたかもしれないけど、僕は違うからな。ガキじゃあるまいし。

酔いが回り、心の声は乱暴になってくる。気持ちを落ち着かせるため再び席に座り、お冷を口に含んだ。

ふとスマホを見ると圭一からLINEが届いていることに気づく。後ろめたさもあり、誠は恐る恐る内容を確認する。

『なぁ。週末はゴルフの練習場に行かないか?取引先のコンペに誘われてさ』

なんてことのないメッセージ。だが、どこか引っかかる。

『大丈夫だよ。真紀さんは来る?』

『来るわけないじゃん。ゴルフできないだろ』

相変わらず真紀は咲良の件について、圭一に一切話していないのだと悟った。結婚するからこそ、心の闇を見せたくないのだろうか。

真紀の裏と表―。

どちらが裏で表なのかわからないが、彼女に恐怖を覚えるとともに圭一の聡明さが心配になってくる。

―「互いに大人なんだから、信じようよ」

咲良の言葉が頭に響きながら、誠はどうしようもない葛藤の行き場を探すのだった。


▶前回:「ずっと夢だったんだ…」男が初めて家を訪れる恋人のために用意した“あるモノ”とは?

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真紀の理解不能な言動を圭一に報告する誠。すると圭一は…

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