愛猫が23歳でガンに。もう声も出せない子が「ニャッ」と返事してくれた日
【○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.50】
「人間の子には恵まれなかったけれど、私にはかわいくて賢い美しい娘が、たしかにいました」
亡くなった愛猫・めすねこすちゃんをそう語るのは、飼い主のみったまりおさん(@himeouji)。
11年間を共にした“めすねこすちゃん”は、まるで日だまりのような存在でした。
◆夫が散歩中に保護した猫と関わるようになって
双子だっためすねこすちゃんは愛犬の散歩中に旦那さんが見つけ、保護した子です。当時、旦那さん宅にはすでに猫が1匹いましたが、里親が見つからなかったため、めすねこすちゃんと兄妹の“おすねこすくん”もおうちの子になりました。
「犬は義姉が飼っていたので名前がついていましたが、猫には名前がついてなくて、猫、オス、メスと呼ばれていました」
なんとも味気ない。そう思ったみったまりおさんは当時、自分の中で流行っていた「名前の最後にすをつける」というルールを適用。ねこす、おすねこす、めすねこすと呼ぶようになりました。
しかし、2~3年前にお姑さんから「メス、オスじゃなくてクロスケと姫子って名前があったのよ」と聞かされ、仰天。
「そして、めすねこすが亡くなる前には夫から自身が名づけ親であったことや、本名は姫子ではなく、姫だったことを告げられ、さらにびっくり。もっと早く教えてよって思いました(笑)」
◆猫パンチ大会を仲裁することも
生前、めすねこすちゃんは人に対して甘えん坊で、他の子の前ではクールなツンデレさんでした。
おすねこすくんとの仲はあまりよくなく、近寄れば猫パンチ大会。爪を出さずにパンチ&甘噛み攻撃を仕掛けるおすねこすくんに対し、めすねこすちゃんはバッチリ爪を出し、噛みつき攻撃も交えて応戦していました。
そんなとき、みったまりおさんは右手でめすねこすちゃんに大好きな尻ポンをし、左手でおすねこすくんをなでなでし、喧嘩を仲裁。自身の体を使って、お互いが視界に入らないようガードし、メンタルケアを行っていました。
◆新入り猫にも深く愛された、めすねこす
でも、2匹の間には絆もあったよう。おすねこすくんが17歳で亡くなると、めすねこすちゃんは毎夜、鳴きながら家中を歩き回るようになりました。そんな痛々しい行動は白猫のもんたろすくんを迎えるまで続いたのです。
もんたろすくんは、自宅の裏庭で出会った子。尻尾を失い、お尻から太ももまで毛皮が剥がされ、お肉が見えてしまっていました。みったまりおさんは心も体もボロボロだったもんたろすくんをおうちの子にしようと3年間も奮闘しました。
晴れて家族の一員となると、もんたろすくんはめすねこす先輩にべた惚れになりました。猛アピールを行いましたが、ツンデレなめすねこすちゃんはその度にキツイ一発をお見舞いします。
「だからか、いつしか、めすねこすが寝ている時にそっと近寄っては匂いを嗅いだり、尻尾を触ったりするようになりました。起きてる時には必ず、パンチをお見舞いされていましたが(笑)」
◆11年共に過ごした愛猫がガンを患って
そんな幸せが何年も続いていたある日、23歳になっためすねこすちゃんは顔が破れてしまいました。
慌てて病院へ行くと、老化で歯茎が化膿して膿の袋ができていると告げられ、すぐに処置を受けることになりました。これで元気になる……。そう安堵しましたが、半月後に再び顔が破れてしまい、精密検査をしてもらいました。
その結果、判明したのは悪性腫瘍があるという悲しい事実でした。
「骨は溶けてしまっていたため、ほとんどなくて……。年齢を考慮して、治療ではなく緩和ケアにしたほうがいいと言われました。長くて2か月、何もしなかったら明日、目が覚めるかどうか分からないとも……」
◆看病の日々に癒しをくれた同居猫
その日以降、みったまりおさんは点滴のため通院を続けました。闘病中、めすねこすちゃんは目が見えず、歩くことがままならなくなっても、自力でトイレへ行き排泄していました。
「だから、動線上に何も物がない状態をキープしていました。トイレ補助もプライドが許さないのか嫌がったので、粗相した時にすぐ蒸しタオルで体を拭けるよう、レンジの中に濡れタオルをセットしていました」
そんな姿を目にしても、もんたろすくんは相変わらずめすねこすちゃんに好き好きアピール。
「ほんとにのんきちゃんでしたが、そんなところがかわいくて辛い気持ちが少し薄れたので、感謝しています」
◆「もう頑張らなくていいよ」と伝え続けた日々
でも、病は確実に体を蝕み、めすねこすちゃんはついに声も出なくなってしまいました。辛そうな姿を目にしたみったまりおさんはある日の通院帰り、車の中で「もう辛いね。なにもしないで、ねんねこりんしよっか?」と声を掛けました。
すると、めすねこすちゃんは小さな声でニャッとお返事したのです。
「久しぶりに聞いた声がかわいくて愛しくて。車を停め、声を出して泣いてしまいました」
本心を知ったように感じたみったまりおさんは点滴治療を止め、最期までおうちで過ごしてもらうことに。
「けいれんや一時的な呼吸停止を繰り返す姿を見て、ごめんね、お母さんが頑張れなんて言っちゃったからだよね。お母さんは、めすねこすがいなくても大丈夫。お母さんのためなら頑張らなくていい。もう、ねんねこりんしようねってずっと思っていました」
点滴中止から、1週間後。めすねこすちゃんは、とても静かに永遠の眠りにつきました。
「死後はもう痛くないね、頑張ったねとホッとすると共に、2度と声が聞けないことへの悲しみや、本当はまだ生きているのではという想い、置いていかないで、帰ってきてという気持ちで胸がいっぱいになりました」
◆緩和ケアの中で私たち飼い主にできることとは?
「闘病中、大変だと思ったことは何ひとつありませんでした。しいて言うなら、どんな状態でも可愛かったので、仕事に行く前は離れたくなくて辛かった」
そう語るみったまりおさんは共に過ごした11年間を、夢みたいな時間だったと思っています。
「本当に“かわいいちゃん”でした。尻ポンをおねだりする顔も撫でるとブニャッと鳴く声も、カリカリを一粒ずつ噛む音も、もわっと匂うおケツも、体の割に太くて長いシッポも、3kgちょっとの軽くて暖かくてお日さまの香りがする体も、全部全部かわいいしかなかったです」
そして、してあげられることが少ない緩和ケア中のもどかしさを知ったからこそ、同じような思いをしている飼い主さんにはこんなメッセージを贈っています。
「何をしてもしなくても、きっと後悔してしまうと思うので、それならば、そのときにしてあげたいと思うことがあったら、してみてください。してあげれば良かった……と後悔するより、あれができて良かった、これができて良かったと思える未来のほうが、自分の気持ちが、ちょっぴり救われると思います」
11年間、共に生きてきたかけがえのない存在のめすねこすちゃん。彼女はこれからも、みったまりおさんの中で永遠に生き続けていきます。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291