「馬の目利きは“夢”と堅実さが重要」一口馬主界の風雲児、DMMバヌーシーが求める新馬

―[あのすごい企業の「中の人」に聞いてみた]―

 日常に何気なく溶け込んでいる商品やサービスの裏には、知られざる逸話や並々ならぬ努力が隠されていた……。そんな“実はスゴい”エピソードを持つ企業を紹介する連載企画第6回目は、一口馬主サービス「DMMバヌーシー」の運営メンバーに焦点を当てる。前編では立ち上げからダービーへの2頭出走など、運営について話を聞いた。

 今回はその後編としてDMMドリームクラブ株式会社代表代行/ゼネラルマネージャー椎名竜大氏とDMMドリームクラブ株式会社取締役兼株式会社DMM.com証券リスク管理部長の青木正男氏に運営メンバーについて話をきいた。業界外出身者ばかりの個性的な運営陣は、それぞれの持ち味を生かして馬とクラブ会員のために奮闘しているようだ。

◆競馬未経験メンバーが金融商品取引の要に

 前編でも言及した通り、DMMバヌーシーは愛馬会法人であるDMM.com証券の口座を介して、クラブ法人であるDMMドリームクラブの競走馬に出資するかたちで成り立っている。こうしたサービス開始にあたり、JRAに対しては馬主の法人資格を、金融庁に対しては金融商品取引業者として登録する必要があった。

 DMMドリームクラブ株式会社取締役兼株式会社DMM.com証券リスク管理部長の青木正男氏が経緯を語る。

「他の一口馬主クラブと違って我々は超小口の1万口でスタートした(現在は2000口に変更)ので、そうすると、配当以上に振込手数料がかかってしょうがない。そこで、証券口座を開設するかたちで対応しました。

 このサービスを成立させるには、愛馬会法人とクラブ法人の両方が第二種金融商品取引業として登録しなければなりませんが、もともとDMM.com証券は株式を取り扱う一種業の登録をしており管理体制も整っていたので、二種を取得する際もスムーズでしたね」

 愛馬会のDMM.com証券は、もともとは馬とは無縁の会社だったが、事業を進めるうちに馬にハマった人が多数いるそう。青木氏もそのひとりだ。

「仕事で覚えて競馬を見ているうちに興味が湧いて、自分でも一口馬主に出資するようになりました。レースを見ていると馬券の方もついつい……。もちろん、馬を見ているだけでもかわいいですけどね(笑)」

◆元スポーツ新聞記者の椎名氏は高校時代に自作の競馬新聞を作り……

 DMMドリームクラブには、スポーツ新聞記者から転身したゼネラルマネージャー椎名氏をはじめ、馬術経験者や、牧場で働いていた者など、馬と所縁のあるメンバーが多い。なかでも椎名氏はゴリゴリのウマキチと言っていいだろう。彼が競馬に初めて触れたのは、小学3年生の頃だった。

「シンボリルドルフが走っている頃、ませた友だちが競馬の話をしているのを聞いて、意識をするようになりました。本格的に競馬を見始めたのは、中学1年生のとき、たまたまテレビで流れていた競馬中継がきっかけです。

 イナリワンが勝った有馬記念で、スーパークリークとの叩き合いが妙に印象に残りました。そこから父の買ってきたスポーツ新聞の競馬面を穴が開くほど読み込み、高校生になってからは、競馬新聞を自作して友だちに見せて回ってましたね。

 競馬の予想がしたくてスポーツ新聞社に入って、運良く競馬担当になり18年間続けましたが、取材や予想をするのとは違うかたちで競馬にかかわりたいなという気持ちが出てきました。そんな折、縁あってDMMドリームクラブに移籍したんです」(椎名氏)

◆代表代行自ら馬の動画を撮りに全国を飛び回る

 DMMバヌーシーでは、会員に向けて毎週所属馬の動画を配信するサービスを行っているが、椎名氏自身も毎週現場に足を運びカメラを回しているそうだ。

「牧場で働いていたメンバーは、牧場やトレーニングセンター、競馬場など、現場を飛び回りながら情報を収集して動画を撮影しています。私も現場に駆けつけては、レース映像を撮って、勝ったら会員様を口取り(記念撮影)に案内し、騎手と調教師にインタビューして……と、そこそこ忙しくやっております(笑)。ひとりで現地に行くことも多いですし、簡単な動画編集もしていますよ」(椎名氏)

 出走予定馬や注目馬に限らず、全所属馬の動画をアップしている。レース前調教、放牧で草を喰む様子、藁や砂に寝転ぶオフショットなど、その内容はさまざまだが、やはりレースで走っている姿を見たいというのが馬主心のようだ。

「実際に一口クラブに入ってみて、単に馬券を買うだけではない、当事者の楽しみというのは感じます。ただ、自分の馬がなかなかレースに出られないとなると、『また放牧しているのか〜』と、もどかしい気持ちも出てきますね」(青木氏)

「記者時代はレースに出てくる馬しか見ていませんでしたが、いざサービスを提供する側になると、デビュー前や休養中の馬のことも同じように大事です。映像というかたちでも還元して、会員さまに楽しんでいただきたいですね」(椎名氏)

◆馬の目利きは“夢”と堅実さのバランスが重要

 新興のクラブにして勝ち馬を多く輩出しているDMMドリームクラブだが、馬の目利きも、先述の牧場出身者と椎名氏が主に行っているという。

「長年せりを見てきた経験から、この馬はいくらぐらいの値段で売りに出されて、いくら賞金を獲得するだろう、と計算しながら大体の予想を立てていますね。また、セレクトセールの前には必ず牧場に行きますし、調教師さんや牧場関係者の意見も参考にさせてもらっています」(椎名氏)

 DMMドリームクラブ設立当初は、関連会社がキタノコマンドールを1億9000万円(税抜、以下同)で落札し、2017年にはラヴズオンリーユーを1億6000万円、ダブルアンコールを3億7000万円で落札と、注目度が高く血統のいい馬を億単位の高額で落札していたが、最近は馬選びの傾向が変わってきたそうだ。

「高額の馬は投資として考えると、どうしても回収が難しい点がネックになります。かといって安いだけでは出資者は満足しないと思うので、どこかに“夢”の要素は入れないといけない。

 同じ世代の馬が何頭かいるなかで、堅実に走ってくれそうな馬もいれば、一発大物になりそうな可能性のある馬もいて、全体の予算感でバランスを取るようにしています」(椎名氏)

 2020年度は、サービス開始の初年度(2017年)に募集した馬の仔を募集にかけ、めでたく満口を達成した。

「引退した初年度募集馬アイワナシーユーの仔で、すでに満口となりました。競馬のロマンは血の継承だと思いますので、事業を継続することで少しでもその魅力を伝えられたらいいですね。応援した馬の仔を応援するという循環ができればいいと思っていますし、そうなりつつあるのかなと感じています」

◆目新しさで興味のない層を取り込みたい

 昨今、競走馬を擬人化したキャラクターが登場する育成シミュレーションゲーム「ウマ娘」がブームになっており、競馬と無縁だった層も、馬を愛でる・見守るという視点で興味を持つようになっているのではないだろうか。

「後発のクラブですから、伝統や格式という点では劣ると思います。一方で、DMM関連ということもあり、目新しさや敷居の低さで、競馬に興味のない層を取り込みやすいのかなとも思っています。ちょっと競馬に興味を持ちだした方々が、より深く競馬を楽しむきっかけになれたら本望です」(椎名氏)

 参考までに、2020年度の募集馬の一口金額は4000円〜26000円(全2000口)。入会金無料で、会費と維持費を合わせたランニングコストは月額1125円からスタートできる。一口馬主という新しい楽しみは、案外手の届きやすいところにある。

文/松嶋千春

―[あのすごい企業の「中の人」に聞いてみた]―

【松嶋千春(清談社)】

様々なメディア媒体で活躍する編集プロダクション「清談社」所属の編集・ライター。商品検証企画から潜入取材まで幅広く手がける。

2021/7/11 15:52

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