堤真一、56歳の現在地。「人前で演技するのは、今でも恥ずかしい」
存在感のある演技派として、一線で走り続けている俳優・堤真一さん。『弾丸ランナー』『ポストマン・ブルース』『アンラッキー・モンキー』『MONDY』『DRIVE』と、今から20年ほど前に、エネルギー溢れる作品をともに送り出した盟友SABU監督と久しぶりに組んだ『砕け散るところを見せてあげる』が公開になりました。
そんな堤さんに、SABU監督との仕事について、本作で主演を務める中川大志さん、石井杏奈さんの印象、さらに56歳となった現在の、役者としての心境を聞きました。
◆忙しくても受けたのは、SABU監督からのオファーだから
――堤さんとSABU監督の久しぶりのお仕事に、特に私は世代的にも興奮しました。
堤真一さん(以下、堤)「『こういうオファーが来てるよ』と。ただそのころ、スケジュール的にきつかったので、断っていた可能性もあったんです。でも脚本が面白かったし、何よりSABUからのオファーだったので。参加できてよかったです」
――SABU監督は特別な存在ですか?
堤「同じ年で昔からの付き合いですし、今はもう家族ぐるみなんです。年に一度は家族同士とか、何かしらで会っているので、僕としては久しぶりという感覚はあまりなくて。いまSABUは沖縄に住んでいるので、しょっちゅうは会えませんが、もしSABUが東京にいたら普段から会いすぎて逆に仕事がしづらくなっていたかもしれません」
◆中川大志さん、石井杏奈さんの印象
――実際の撮影現場で、SABU監督の声や居ずまいに懐かしさを感じたりは?
堤「以前からあまり大きな声を張り上げる人ではなかったので、相変わらずボソボソと言ってるなと思いました(笑)。SABU組は楽しいし、今回は物語的にはキツイ部分があるけれど、SABUが優しい人なので、監督からの変なプレッシャーというのもなくて、まずは自分が思った通りに演じて、それをちょこっと修正しにきてくれる。若いうちにSABUと仕事ができるのは良いことだと改めて感じました」
――若い人というと、今回の中川さん、石井さんの印象は?
堤「中川くんは前にもご一緒したことがあって、屈託のない伸び伸びした青年ですね。今回の役にもぴったりだし。杏奈ちゃんのほうは初めてでしたが、運動神経がよくて明るいから、いじめられる役というのが、どうなるのか最初は少し心配ではありました。自分と極端に違う役柄のときは、極端に「可哀そうアピール」のような芝居になりがちなんですが、全般を通して、彼女には全くそういうところがなくて、すごく良かったです」
◆人前で演技するのは、今でも恥ずかしい
――SABU監督と組まれていた1990年代後半から2000年代前半の頃と比べて、役者としてご自身の変化を感じる部分はありますか?
堤「結婚もして今は子どももいますが、役者としても人間としても、正直あまり変わったと思ってないんです。それに、自分が20代の頃にイメージしていた50代、60代の先輩たちとは、あまりにもかけ離れているというか(笑)。経験は積んでいるのだろうけど、自分が変わったと思えるところはなかなかないですね」
――俳優さんは満足ができない仕事だと思います。経験は積んでも、常に楽しい?
堤「この年齢になったからこその楽しみ方とか、関わり方というのが、きっとあると思うんです。そのあたり、まだまだ自分は楽しめるレベルまでは行っていないような気がするんですよね。人前で演技したりするのは、今でも恥ずかしいんです。なんでこんなことやっているんだろうと思ってしまったり、どこかでまだ恥ずかしいと思っているところもある。もっと堂々と芝居ができるようになれればとは思いますが」
◆今が役者としての過渡期かもしれない
――それでも続けている原動力は?
堤「やめられないのは、この仕事以外を知らないからです。“物語”はすごく好きですが、演じるのは、むしろだんだん難しくなってきている気がします。勢いやノリでやれていた若い頃とは違ってきましたね。僕らがやってきた演劇って、60年代70年代の安保闘争の流れがまだ残っている頃だったので、反発心とか反抗心といったものがエネルギーのベースにあったんです。
それが年月とともにどうしても薄れてくるなかで、何をエネルギーにして役者として舞台に立つことができるか……。そう考えると、いまが過渡期のようにも感じています。ひとつひとつの作品をより大切にしながら、作品のなかからエネルギーをもらっていこうと思っています」
――役者人生を歩んでくるなかで、特に影響を受けた人はいますか?
堤「演劇を始めた頃に出会ったデヴィッド・ルヴォーというイギリス人演出家です。基本となるものすべてを教えてくれました。『お客さんは、あなたを見にくるのではなくて、物語を観にくる。関係性から物語を汲み取っていく。セリフは自分をアピールするものではなく、関係性を見せるもの。あなたのファンにではなく、お芝居のファンのためにやってくれ』と言われました。そのころ、僕にファンなんていませんでしたけど(笑)。そうした部分をきっちり教われたことは、すごく良かったと思っています」
◆日常のシーンに、SABU監督の歴史を感じた
――最後に、久しぶりのSABU監督との完成作をご覧になって、感じたことを教えてください。
堤「前半、日常的な学校のシーンが描かれていきます。その日常の淡々とした部分を、淡々と撮っていたのがすごくいいと思いました。どうしても後半のドラマチックなほうへ早く持っていきたくなるものだけど、序盤の、10代の若者たちの葛藤とか日常がきっちり描けていた。
僕らが一緒にやっていたころは、『ありえねー』みたいなことばかりを楽しんでいたけれど、こうした部分をちゃんと描いているのを観て、SABUの歴史を感じましたし、これからも今回の経験を経ていくのだろうから、変化し続けているんだなと感じましたね」
(C) 2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会
<文・写真/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi