40男のスニーカーブームが再燃。90年代カルチャーに答えはあった

―[ロスジェネ解体新書]―

 あらゆる年代の人がいる職場はまさに“世代のルツボ”。特に社会に出て間もない人にとって、過重労働が社会問題になっている時代にあって嬉々として“徹夜仕事”をしたり、なんでも電子化、レンタルできる世の中で“モノにこだわる”40代以上の世代は奇異に映るかもしれない。

 社会の文脈的に“ロスト”されてきた世代は、日々どんなことを想い、令和を楽しもうとしているのか。貧乏クジ世代と揶揄されつつも、上の世代の生態をつぶさに観察し、折衝を繰り返してきたロスジェネ世代の筆者ふたりが解説していく。

◆「ストリート元年」世代が再びハマる、スニーカーの魅力とは?

「会社のBBQに行った時、上司と話して驚いた。Air Jordanシリーズの知識が自分の数倍あって。バルセロナ五輪('92年)の時、男子バスケのアメリカ代表が”ドリームチーム”と呼ばれ、当時、マイケル・ジョーダンがAir Jordan7を履いてたけど、自分的には微妙で、『やっぱりAir Jordanは1と4と5が格好いい!』みたいな」(25歳・証券)

「課長とお酒を呑んだ時、『いま流行ってるダッドスニーカー(※おしゃれに無頓着なアメリカの父親世代が履いてそうなスニーカー)っておじさんが履いたらただのスニーカーになっちゃう?』と言われた時は返す言葉がなかった(笑)。『予算的にも年齢的にもバレンシアガのダッドシューズは買えないので、いまはホカオネオネのボンダイ6を履いてる』と言われ、底知れないスニーカー愛を感じました」(27歳・広告)

 なぜ、ロスジェネ世代の男性は(じつは)スニーカーに詳しいのか。彼らが”若かりし頃”だった1990年代を振り返ってみると、その答えに辿り着けます。

◆90年代は「特別な10年間」だった

 ロスジェネ世代が青春を謳歌していた1990年代は、ストリート発のさまざまなカルチャーが花開き、「ストリート元年」と呼ぶに相応しい時代でした。

 渋カジやアメカジの流れを汲んだヴィンテージブームに始まり、中性的な着こなしで個性を主張するフェミ男、ストリートにこだわるウラ原宿系……その詳細は割愛しますが、スニーカーカルチャーにとっても「特別な10年間」だったのは間違いありません。

◆過去の名作が機能を一新して登場

 当時のスニーカー市場は、特定の人だけが魅力的に感じるサブカルチャーだったという見立てもできますが、他方では、本来の実用性重視のスポーツシューズから、音楽やファッションと結びついて足元を飾るファッションアイテムとして認知されはじめた時代でもありました。

 1970年代〜1980年代のクラシックなシューズが人気となり、ナイキ ダンクやオレゴンワッフルなどを筆頭に、地方のスポーツ洋品店を巡って”掘る”人が現れたり、海外のフリマに買い付けして日本で転売する人も多くいました。

 ブームのピーク時には一足のスニーカーが数十万円のプレミア価格になり、”エアマックス狩り”が社会問題にもなりました。エアマックス95と前後し、リーボックポンプフューリー、ナイキフットスケープといった”誰も見たことのない”ハイテクなデザインを採用したモデルも登場し、スニーカーブームに拍車をかけました。

◆たかがスニーカーと思うなかれ

 前述のとおり、スニーカーブームの最中にある現在は、スニーカーブランドの数が急増し、数え切れないほどのモデルが毎週のようにリリースされるので、全ての新作を把握するのはムズかしい。

 でも、先鋭的なモデルばかりがリリースせれているかといえば、じつはそんなことはありません。冒頭、アラフォー男性が「Air Jordan1、Air Force、Air Maxには完成された”格好よさ”がある」と話したことからも分かるように、1990年代に人気だったモデルが最新テクノロジーを備え、世代を超えていまなお、多くのスニーカーヘッズたちを虜にしているのです。

”あの頃好きだった”スニーカーが今も現役で活躍している姿を見るにつけ、キュンキュンするロスジェネ世代が多くいることも納得がいきます。筆者もそんなひとりですから。

 たかがスニーカーと思うなかれ。スニーカーには”あの頃の夢”が詰まっていると、心得ておきましょう。

<文/ディスコ☆セリフ イラスト/押本達希>

―[ロスジェネ解体新書]―

【ディスコ☆セリフ】

数々の雑誌を渡り歩き、幅広く文筆業に携わるライター・紺谷宏之(discot)と、企業の広告を中心にクリエイティブディレクターとして活動する森川俊(SERIFF)による不惑のライティングユニット。

森川俊

クリエイティブディレクター/プロデューサー、クリエイティブオフィス・SERIFFの共同CEO/ファウンダー。ブランディング、戦略、広告からPRまで、コミュニケーションにまつわるあれこれを生業とする。日々の活動は、seriff.co.jpや、@SERIFF_officialにて。

紺谷宏之

編集者/ライター/多摩ボーイ、クリエイティブファーム・株式会社discot 代表。商業誌を中心に編集・ライターとして活動する傍ら、近年は広告制作にも企画から携わる。今春、&Childrenに特化したクリエイティブラボ・C-labを創設。日々の活動はFacebookにて。

2021/6/20 8:51

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