借金500万円男。マンションの契約更新を断りホームレスになる
―[負け犬の遠吠え]―
ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。
「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は51回目を迎えました。
今回は、住んでいたお部屋を追い出されたお話です。
◆更新料を支払うことは間違っているのではないか?
かつて地球人類は信じていた。太陽が地球の周りを回っている、と。
かつて地球人類は疑った。もしかして回っているのは地球の方なのではないか?と。
常識を疑うことで科学は発展してきた。科学だけではない。言葉や貨幣文化、食物だって最初はすべてが未知のものだ。人がよりよい進化を、生活を手に入れるための貪欲な好奇心はいつだって人の世を前へ前へと推し進めてきた。
僕は金がなかった。目の前には賃貸の更新料についての契約書が入った封筒がある。漠然と社会からハミ出た罪を濯ぐため、何にも気がつかないフリをしながら生きていた。
啓示というものは突然訪れる。大して信仰もしていない神からの強引なお告げ。いつもは誘惑に負けてパチンコへと連れ去るくだらない偽物の神の言葉が、貧乏人の渇いた心の財布に突き刺さる。
この言葉だけは信じてもいいかもしれない。
「常識を疑え」
もう2年このマンションに住むために更新料を払うのは、もしかしたら間違っているのではないか?
そもそも、この部屋を借りる時に僕は管理会社に30万円近く払っている。当時は会社に勤めていた上にカジノで勝った金があったから全く気にせずに払っていたが、借金を抱えた今となっては大金だ。
◆東京は冷たい……のか?
こちらにも事情がある。仕事が見つからずに家賃を払えなかった月がポロポロと出始め、当然管理会社も、僕の財政状況は滞った支払い履歴からも見て取れるだろうから、更新料を請求すること自体が酷な話だ。ただでさえ毎月の7万円を工面するのに精一杯な人間から、さらに7万円を請求する。
「東京は冷たい」
と言われる所以は、こういった血の通っていない仕打ちにある。
更新料は東京にしかない文化らしい。関西の人が言っていた。知れば知るほど許せなくなってくる。僕や、これからのすべての人たちが
「更新料払うのがバカバカしいからこんな部屋出て行きますわ」
と部屋を次々に出ていくことで、不動産を持つすべての人々が、更新料というシステムのせいで家賃収入が途切れることに気づき、いつか世界は変わるかもしれない。
そう考えると、更新をせずに部屋を出て行くことが、ある種の抗議運動に思えてくる。金がないから更新をしないのではない。更新料が許せないから部屋を出て行くのだ。
革命の一歩目となる足跡は、いつの世も一人分だ。ここから僕が世間の、みんなの常識を変える。
◆毅然とした態度で更新を拒否
更新をするかどうかは、契約満了の約1ヶ月前までに伝えなければならない。ちょうど家賃の金の工面を考えている頃だ。そんな時期に更新料の話をされて冷静になれる人間がいるだろうか。
「お部屋の更新、今日明日中に決めないといけないんですよぉ!」
「僕には必要ありません。出て行きます」
悪の手先からの電話に、毅然とした態度で応じる。
「では電気やガスの解約を忘れないようにしてくださいねぇ!」
ちょっといいヤツだった。
さて、解約を決めたらやらなければならない仕事はたくさんある。日々の日雇い仕事と並行して電気、ガス、水道、インターネットなどの解約を進めなければならない。ちなみにガスだけは基本的に立ち合いが必要になるので、解約の手続きを早めにしておく必要がある。インターネットは解約時に違約金が発生するケースが多々あるので、住所変更と解約のどちらが損をしないのか計算した方がいい。
そうして家の諸々のしがらみを取り去った後に残るのが「転居」だ。住所がなくてはできないことがたくさんある。僕の場合は金貸業者との裁判の進捗が特別送達で届くので、かなり大事になってくる。後ろめたい人間ほど住所の果たす役割は大きい。木を隠すなら森の中、人を隠すなら家の中。
7万円を超えない家賃の家を探しまくり、4件の不動産会社に連絡をし、審査のお願いをする。我ながらこの辺りの手続きの手際がよい。気づいたら携帯も止まっていて実家に帰ってしまっているフリーターの仲間がたくさんいる中で、僕が東京でギリギリ生き残り続けている理由でもある。この街では「知らないフリをした方がいいもの」ほど、しっかり理解しておかなくてはならない。無知なフリと無知は決定的に違う。
◆部屋を借りられる身分ではない
退去の一週間前、なんと全ての家の審査に落ちてしまった。どうやら家賃の滞納とカード会社への未払い、どちらも引っかかってしまったらしい。慌てて不動産の会社で働く友達に連絡をし、「なんとか探してくれ」と頼むも、
「お前は何か勘違いしているみたいだけど、そもそも部屋を借りる身分ではないのよ」
と返されてしまった。晴れてホームレスへの扉が開かれる。そうか、「身分ではない」か。
確かに虫がよすぎる話なのかもしれない。初期費用もまともに払えない人間が来て、家賃未払いの前科がある上に裁判を3件も掛け持ちしている。借金をして信用情報を真っ黒にして、それでも生活ができるのはあくまで自分自身の心持ちの問題であり、こうして普通の人が普通に暮らしていくような事をする時、僕にしか見えなかった大きな壁にぶち当たる。
そして金が無いのに気丈に振る舞っていた自分を騙し、僕自身が壁を見ないようにしていたのだ。
◆ホームレスになる心の準備
心の準備もできないうちにホームレスが確定した。戦場での死は突然と言うが、東京での死も突然なのかもしれない。
項垂れても仕方がないので、とりあえず家中の荷物を様々な場所に預けた。友達の家やレンタル倉庫。こうして僕が生活した証はドラゴンボールのように東京中に散らばっていった。
僕は海外旅行用のバカデカいスーツケースにゲームと着替えを詰め込む。空元気のスイッチを入れる。
「家賃を払わない生活の方が得。ひろゆきも家賃に金を払うのは馬鹿馬鹿しいと言っていた」
最近よくYoutubeでオススメされるひろゆきの動画でそんな事を言っていた。
荷物をまとめていると、2年間お世話になったマンションの管理人が訪ねてきた。
「あの! 次に転居する場所いい加減決まったでしょ! 早く教えてください!」
ヒステリックな口調で捲し立ててくる。彼女は入居した時の挨拶が3日遅れた時も同じように怒っていた。
「すいません。実は結局決まっていなくて……家が決まったら連絡するつもりです」
「は? 普通はもう決まっているでしょ。嘘なんじゃないですか?」
「すいません、決まらなくて……」
「普通は決まっているんですけどねえ、普通の人なら」
普通、と繰り返して管理人は去っていった。そうだ、僕は普通ではない。貧乏で、信用が無い。それでも、これからも普通に働いていく。日雇いの現場はこんな事情を汲んではくれない。
◆耳を傾けたのは貧乏神だった
もう取り返しがつかない所まで話が進んだ後に、正直なところ、普通に更新した方が良かったと思っている。
またも、僕が耳を傾けた相手は貧乏神だったのかもしれない。
日差しが強い。
革命の1日目を、太陽が照らしていた。
〈文/犬〉
―[負け犬の遠吠え]―
【犬】
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
Twitter→@slave_of_girls
note→ギャンブル依存症
Youtube→賭博狂の詩
観音寺六角
5/29 20:20
無くなって気が付くことは世の中金💰️時の沙汰も金次第😶
しよく
5/29 13:41
更新料は別に東京だけの文化ではないな。管理会社によって有無は異なるのだろうが、都市部やその近辺だと普通にある気がするが
コースケ11・お仲間感謝◎
5/29 13:07
今の日本では、住所が無いと色んな行政のサービスや就職活動に支障が有るそうだね※、先ず住所(住まい)が無いと暮らしを作れない〃、けど本当に困ってる人は家賃すら払えない訳だからなあ※