大谷翔平の大活躍から考えるお笑い芸人の二刀流

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―[芸人は今日も炎上する]―

◆大谷翔平の二刀流もすごいが……

 アメリカでも日本でも、メジャーリーグ・エンジェルスの大谷翔平選手の「二刀流」が“炎上”ならぬフィーバーを起こしています。

 先日のヤンキース戦では投手&打者としてのリアル二刀流が初回の大乱調で残念な結果になりましたが、「大谷翔平も人間だった」というツイートが寄せられるなど、一度や二度の失敗で彼のここまでの実績・功績が損なわれるものではないでしょう。

 故障なくシーズンを乗り切ってもらいたいと野球ファンとして日本人として心から願っています。

◆霜降り明星・粗品を初めて見たときの衝撃

 大谷選手のように同じフィールドだけども違う形で活躍することを「二刀流」の定義だとして、芸人の世界で考えてみると……お笑い第7世代のトップランナーとして奮闘する霜降り明星の粗品君がピン芸の「R-1」と漫才の「M-1」で優勝しており、文字通り「リアル二刀流」かもしれません。

 余談ですが、粗品君がNSCに入らず、現役大学生のままオーディションを勝ち上がり、当時の若手の劇場「5upよしもと(現・よしもと漫才劇場)」に出演した初舞台を偶然、私は袖から観ていました。

 これまで見たことのない切り口のフリップ芸に驚き、一緒に観ていた舞台監督と「この子は近い将来R-1で優勝する素材やね」と話をしたことを思い出します。

 話を戻して……最近ではドラマにも出演、絶対音感を持っていると言われる彼は音楽の世界へも進出して活躍のフィールドをさらに広げていきそうです。

◆実は長い歴史を持つお笑い芸人の二刀流

 少しジャンルを広げるとキングコング・梶原君も劇場でコンスタントに漫才をやりながら、登録者数が220万人を超える芸人YouTuberの第一人者としての地位を確立しています。

 今年、残念ながら吉本を退所した相方・西野亮廣君も劇場で漫才をやりながら、絵本作家としてベストセラーを出し、映画も作り、会員が6万人を超えるオンラインサロンもやっています。

 時間を遡ると「やす・きよ漫才」で上方漫才を全国区に知らしめ一時代を築かれた西川きよし師匠は漫才師として参議院議員選挙に当選され、3期18年間に渡って議員活動をされていました。

◆島田紳助氏は実業家としても成功

 引退された島田紳助さんもテレビで何本ものレギュラーを持つ超人気タレントでありながら、不動産業、飲食店業と幅広く仕事をされていました。

 昔から芸人さんがバー、スナック、飲食店のオーナーをされていたケースは数多くありますが、それはあくまで「副業」という扱いでしたが、現在は「副業」ではなく共に「本業」と呼べる「二刀流」「三刀流」のレベルになってきていると思います。

 YouTubeをはじめ露出できる媒体が増えたことで、活躍の場が広がりその才能がいろんなところで芽を出していくことでしょう。

◆常識を知るからこそ非常識で笑いが取れる

 二つのことを同時に成功させることを物理的な「二刀流」だとすると、巧みな話術で番組やイベントを進行させ、盛り上げる人気芸人(あえて人気芸人と呼びます)さんは「常識」と「非常識」を瞬時に操る知の「二刀流」の実践者と言えるのではないでしょうか。

 さんまさんや上沼恵美子さんを見ていると「よくあんな返し(ボケ&ツッコミ)が出て来るな」と感心させられる場面が数多くあります。

 私のNSCの最初の授業で「常識を知らないと非常識(ボケ)は作れないから、ひとつでも多く世間の常識を知るようにしよう!」と伝えます。

 理屈抜きで見ただけで笑ってしまうようなビジュアル系は別として、会話の中で笑いが起こるときは、お客さんが想像していること、「次はあれがくるぞ」と思っていることを裏切る、意外なこと言う(行う)ことで笑いをとっていきます。その落差が大きいほど、大きな笑いにつながります。

◆大きすぎる落差は笑いが取れない

 ただあまりにも落差が大きすぎる、意外過ぎると、笑うという行動の前に「どういうこと?」と考えさせてしまってかえって笑いにつながらないこともあります。

 たとえば漫才でもコントでもコンビニに来たお客さん(ボケ)が「いらっしゃいませ~」と言うと「反対やろう!」「なんでやねん!」とツッコまれて普通に笑いが起きます。

 しかし、これが「ありがとうございました」まで飛躍すると笑いが起こる前に「なにが?」「なにを?」とワンクッション置いてしまうことになり、たとえ笑いが起こってもそれほど大きなものにはなりません。

 これは客が来ると店員が「いらっしゃいませ~」と言うことが観ているみなさんの「常識」になっているからです。

 それでもコアなファンは、そこを楽しんで観ている、待っているので、一般の方がポカーンとしているような場面でも爆笑が起こり「なにがおもしろいの?」となってしまうわけです。

◆常にアンテナを張る必要性

「おもしろいMC」として活躍を続けるためには、この「常識」と「非常識」を巧みに操れなければなりません。

 そうなるためにはネットやテレビでニュースを見て(最近フェイクニュースが多いので気をつけながら)、ラジオも聞いて、本を読んで語彙をふやして、常に世間の動向にアンテナを立てておくことを当たり前にすることが必要でしょう。それでも生まれ持った才能にはなかなかかなわないことも現実です。

 そのためには努力あるのみ!なのです。

◆南海キャンディーズ・山里亮太の一言

 いつも思い出すのが南海キャンディーズで大ブレークして何本ものレギュラーを持っていた山ちゃんが言った言葉です。

 ある時、楽屋で山ちゃんの大きなカバンに入っていた政治、経済、外交、小説などの7冊のハードカバーと文庫本を見た時「こんなもん持ち歩いてんのん?」という問いかけに彼はこう答えたのです。

「先生、さんまさんや紳助さんに“山里どう思うねん?”て聞かれた時に即答できないと来週僕の席(レギュラー)はなくなるんです。いまが人生の中で一番勉強してます」

 この姿勢、どの世界にも通じることではないでしょうか。

文/本多正識

―[芸人は今日も炎上する]―

【本多正識】
漫才作家。'84年、オール阪神・巨人の台本執筆を皮切りに、漫才師や吉本新喜劇に多数の台本を提供。'90年吉本総合芸能学院(NSC)講師就任。担当した生徒は1万人を超える。著書に『吉本芸人に学ぶ生き残る力』(扶桑社刊)などがある

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