「好きな人がかぶってるからって、こんな牽制あり?」第一印象でビビッと来た男性を女友達も狙っていて…

29歳。

それは、女にとっての変革の時。

「かわいい」だけで頂点に君臨できた女のヒエラルキーに、革命が起きる時──

恋愛市場で思うがままに勝利してきた梨香子は、29歳の今、それを痛感することになる。

ずっと見下していた女に、まさか追いつかれる日が来るなんて。

追い越される日が来るなんて。

◆これまでのあらすじ

梨香子が絢のプライベートを詮索するあまり、2人はちょっとした口論になってしまった。けれど絢は、梨香子は色々とうまくいっていないのだと同情し、出会いを提供しようと考える。

▶前回:「ああいう子は、美人なのに結婚できない」男が途絶えない美女がそう評価される、残酷すぎる理由


―2019年6月―

「…なによ、そんな言い方ないじゃないっ」

絢に捨て台詞を吐き、エレベーターを飛び出した。勢いに任せ廊下を歩くと、ムシムシとした空気が怒りをさらに過熱させるような気がした。

ひとり戻った狭いワンルームの部屋は、出しっぱなしのマグカップやヘアアイロン、出社ギリギリまで悩んだ挙句選ばれなかった服たちが散乱している。雑然とした部屋の景色が視界に入り、私はますます不快になった。

― いちいち詮索したり、梨香子の正義感押し付けるのやめてくれる?いい大人なんだからさ…

冷蔵庫に常備しているボルヴィックを一気に流し込む。とにかく、無理やりにでも自分をクールダウンさせたかった。

けれど、冷たい水を飲み干しても、絢の言葉がフラッシュバックする。苛立ちは、自分自身へと向かった。どう考えたって、絢のほうが圧倒的に正論だって言うことくらい、わかっていたから。

水のボトルを置こうとしたその時、テーブルの上のスマホがブブっと震え、絢からの新着メッセージを知らせる。

ほんの数分前に口論したばかり。また何か追加で文句を言われるのかと思い、恐る恐るスマホを覗くと…。

そこには、意外な言葉が並んでいたのだ。

2人が口論した直後、梨香子の元へ絢が届けたメッセージとは

<Aya:さっきはきつい言い方してごめん、仕事でイライラしてた。来週知り合い何人かで飲むんだけど、良かったら梨香子もどう?>

ずっと格下だと思い込んでいた絢は、いつのまにか大人になっていた。

私だって絢のことが嫌いなわけじゃない。友人としても、今後一緒に出会いを求める仲間としても、私も絢とちゃんと仲を修復したい。

<梨香子:私も酔った勢いでごめんね。ぜひ、飲み会行きたい!>

そうメッセージを送ってから気を取り直し、部屋を片付け始めた。



それから1週間後の金曜、19時。

「あ、梨香子ごめん、お待たせ~!」

絢に会ったらまた直接謝ったほうがいいだろうか…。絢は今どんな風に私のことを思っているのだろうか…。そんなことをうじうじ考えていたけれど、絢は何事もなかったかのようにカラっとした笑顔で現れた。そして、私の隣に並ぶと、すぐそばのスーパーへと促す。

「じゃあ、テキトーにワインとか買っていこうか」

「…え?」

「あ、言ってなかったっけ?今日、先輩の家で飲むのよ」

指定された待ち合わせ場所が南青山の成城石井だったことは不思議に思っていたが、ようやく合点がいった。

絢は、スパークリングワインやトリュフ塩のナッツ、ブルーチーズなど、センス良さげな品物を手際よく選び、ささっと会計を済ませる。

そこから歩くこと10分ほど。

「ここ、ここ!」

絢が指さした先にあったのは、南青山の高級レジデンスだった。エントランスには警備員が2人、タクシーも常時待機していて、高級ホテルさながらの雰囲気が漂っている。

その外観に圧倒される私とは対照的に、絢はヒールをカツカツ鳴らしながら、躊躇することなくエントランスを突破する。

「…絢、何度か来たことあるの?」

「うん。この先輩が出不精でね~、飲むとなるといっつも家なんだよね」

絢はそう言いながら、慣れた様子でロビーにいたコンシェルジュに訪問先を伝える。どうやら住人の確認を取らなければ、メインエントランスにすら入れない仕組みらしい。

「ていうか、ここすごいね…。その先輩はどんな方なの?」

「元々は会社の先輩だったんだけど、今は退職してIT企業の社長やってる。一度立ち上げた会社をバイアウトしてて、最近また新しい会社を始めたみたい!」

コンシェルジュが家主の確認を取り終わったようで、私たちはエレベーターホールへと案内された。


歩きながら、今さっき聞いた彼の名前をこっそりググると、数多くのインタビュー記事がヒットした。“時代の寵児”と評される彼の横顔には覇気が宿り、成功者の風格みたいなものが漂っている気がする。

今からこの“時代の寵児”とやらのお宅にお邪魔するという緊張感と、絢がそんなすごい人と繋がっているという驚きとで、私の気持ちは複雑に高揚した。

エレベーターが最上階に到着し扉が開くと、薄暗い廊下がずっと先まで続いている。その廊下には、ふかふかの絨毯のようなものが敷き詰められていて、ヒールだと絶妙に歩きにくい。

けれど、たかが廊下だというのに、どこからともなく漂うラグジュアリーな空気感に興奮度が増す。私にとっては圧倒的な非日常。けれど、これが日常の人間も多くいるという事実に、東京のアップサイドの果てしなさを感じる。

「あ、ここだ。2022」

絢がスマホを見ながら、扉を指さした。“2022”という部屋番号が小さなライトに照らされキラリと光っている。

絢がインターフォンを鳴らすと、「どうぞ〜!」という明るい女性の声が聞こえた。

絢と梨香子を迎え入れた女性、その正体とは…

「初めまして、梨香子と言います」

リビングにお邪魔すると、家主である先輩とその大学の同級生の男性、そして、私たちよりも少し年上に見える女性が3人ですでに飲み始めていた。

「梨香子ちゃんって言うの?かわいい~!私は茉美だよ、よろしくねぇ」

さっきインターホンの対応をした女性が、この茉美なのだろう。茉美さんは高めのテンションで私に腕を絡めると、「こっちこっち」とソファの真ん中に座るよう促した。

「ここの人たちはみんな、飲み仲間なの!今日からは梨香子ちゃんもその仲間ねっ」

そう言いながら、茉美さんはばさっとスーパーロングの黒髪をかき上げる。ガラステーブルにはクラフトビールやシャンパンなどが並んでいたが、彼女は何も聞かずにワインをグラスにつぎはじめた。

茉美さんがワインに集中しているすきに、ついつい彼女の全身を嘗め回すように眺めてしまった。若干目のやり場に困ってしまうタイトな膝上スカートに、これまたタイトなTシャツ。さらにちょっとグラマラスすぎるボディラインは、ひとことで言えば強烈だ。

「はい、梨香子ちゃん。これめっちゃおいしいから!」

「…あ、ありがとうございます」

急いでグラスに視線を戻した。

「みんな、乾杯~」

思うがままにその場を仕切る茉美に圧倒されてしまいそうだが、知らないコミュニティのアウェイな空間に飛び込んだ身としては、その馴れ馴れしさがありがたくもあった。

「さっきから、茉美しかしゃべってねーじゃん」

そんなツッコミを入れたのは、家主の同級生の男だ。

「え、それみんな飲み足りてないってことじゃない?豪ちゃんももっと飲んで!」

ーこの人、豪、っていうんだ…

茉美さんの強烈さのせいで、それまで気づかなかった。何かの商談帰りなのだろうか、スーツ姿がびしっと決まった豪さんは、かなり整った顔立ちをしている。でしゃばることもなく、それでいて内気には見えない、堂々とした落ち着いた雰囲気。

豪さんの低い声、端正なルックスに一瞬で目を奪われた私は、思った。…彼を、もっと知りたい。


そしてすぐに、絢に目配せをしてみた。「私、彼が好み」それを暗に伝えたかった。

私からの視線に気づいた絢と一瞬目が合った気がしたけれど、絢はすぐ目の前にあったシャンパンに視線を落とした。

「私、次これ飲みたい!」

「絢ちゃん、本当シャンパン好きね~」

やれやれといった表情でシャンパンをグラスに注ぐ茉美さんの姿は、まるで“オカン”といった雰囲気だった。会話するうちに分かったことだが、35歳で独身なのだという。

茉美さんの姿に失笑しながらも、私は気分を切り替える。

まあ、いい。彼が好みであるということは、絢にはあとで伝えよう。そう思っていたのだが…。

数分後、思わぬメッセージが着信した。

<Aya:私、豪さんめちゃくちゃタイプ>

私は、飲み会の最中にひっそりと届いたそのメッセージに目を疑う。

― ちょっと待って。嘘でしょ?ていうか、絢って飲み会中にこんなメッセージ送ってくるようなタイプだったっけ?

さっき目を逸らされたのは、やはり私の勘違いではなかったのだろうか。これは、絢からの牽制なのだろうか?

まさかの事態に動揺しながらも、この状況を放っておくわけにはいかない。すかさず絢に、「私も彼がタイプだ」ということを伝えようとしたのだが…。

「ちょっと、梨香子ちゃんスマホばっか見てないで、飲もうよ!」

茉美さんにスマホを奪われ、代わりにワイングラスを手渡されてしまった。さっきは一瞬ありがたくも感じた距離感の近さが、今は煩わしく感じる。

「…あ、はい」

渋々ワイングラスを受け取り、横目で絢の様子を伺うと、豪さんと先輩と3人で楽しげに会話している。

悶々とした思いを抱えながら、しばらくは茉美との談笑に興じるしかなかった。

けれど、心の中では決めていた。

私、絶対に絢に負けない。…絶対に、豪さんをものにしてやる、と。


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ひとりの男を巡って、絢と梨香子の直接対決がついに幕を開ける。

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