北朝鮮で「中古車密輸入」活発…実態は中国にだまされっぱなし
中国との国境に接する北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)では、道貿易局と貿易会社、保衛局(秘密警察)、安全部(警察署)、税関、つまり国家機関が総出でグルになり、中国や自国の貿易統計に乗らない形の「国家密輸」が大々的に行われている。
密輸されるものは生活必需品、果物など様々だが、このところは中古車が大量に取り寄せられている。国連安保理の制裁決議は北朝鮮への輸送機器の輸出を禁止している。それに加え、ロシアと接近した北朝鮮に、中国は嫌がらせのように厳しい姿勢を見せるようになった。つまり、以前は中国当局も黙認していた制裁対象品の密輸が、難しくなったということだ。
これも、中国による一種の経済制裁と言えるだろう。
そんな中、中古車密輸に投資している人々が、詐欺に遭うケースが増えているという。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:国家が総出で「中古車密輸」を行う北朝鮮の企み)
現地在住の40代のAさんは、資金を投資して国家密輸で中古車10台を輸入した。1台あたりの価格は7万元(約142万5000円)から7万2000元(約146万5000円)だった。
中国から届いた車は表面がピカピカだったが、実は年式が古く中身がボロボロのジャンク車だった。いい値段がついたとしても2万元(約40万7000円)で、8万元(約163万円)で売って1万元(約20万4000円)儲ける目論見が完全に外れてしまった。そんな車は7割に達するという。
コロナ前には業者が独自で車を密輸することもあったが、今では国家密輸に参加する形でしか密輸が許されない。たとえ密輸であっても、国のコントロール下にあり、利益の一部を納めさせられるのだ。これが、すべての貿易を国が司る、金正恩政権の「国家唯一貿易体制」の実態だ。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
国家密輸が始まった当初は、質の良い中古車が届きかなり儲かったとのことだが、あまりにも輸入を希望する人が増えたため、中国の貿易業者は物量の確保が困難になった。
そこで、北朝鮮の個人が中国に来て直接クレームを入れられない事情に乗じて、廃車寸前のジャンク車を輸出し始めたのだ。電話でクレームを入れたところで、中国の業者は知らぬ存ぜぬの一点張りだ。
「中国の業者は、無条件で先払いを要求する。そのため、ここ(北朝鮮)では、納車前の車の状態の確認ができない」(情報筋)
1度に5台以上注文することを求められるため、輸入した人々は、とてつもない額の借金を背負いこむことになった。国は、そんな事情など一向に気にせず、ワック(輸入許可証)の費用はきっちりと請求する。
ただ、中国のすべての業者が悪徳というわけではない。相場どおりの価格で販売できる中古車を輸出してくれる良心的な業者も存在するのだが、投資した北朝鮮の人々は、実際にまともな車かどうかを確認できるまで、心配で落ち着かないという。
(参考記事:「中国人がまた騙された」対北朝鮮投資を待ち受ける危険なワナ)
度重なる国際社会の警告に耳を貸さず、核実験、ミサイル実験を繰り返し、自ら経済制裁を招いた北朝鮮だが、制裁解除の見込みは全くなく、中国とリスクの高いビジネスを続けざるを得ないだろう。
中国も中国で、代金の未払いなど北朝鮮には相当迷惑をかけられているので、お互い様といったところだろう。