「身ぐるみはがされ銃殺」北朝鮮の銭湯に関する怖い話
北朝鮮の金正恩総書記が昨年から提唱している「地方発展20×10政策」は、今後10年間、毎年20の市・郡に工場を新設するというものだ。首都・平壌との経済格差があまりにも激しいことに地方住民は不満を抱いており、その解消が目的だ。
今年は病院と総合奉仕所(総合レジャー施設)の建設を計画に追加したが、どうやらそこには別の思惑があるようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、平壌郊外の江東(カンドン)炭鉱の村に住む親戚の話として、総合奉仕所の着工が地元のトンジュ(金主、ニューリッチ)の不興を買っていると伝えた。
金正恩氏が出席して6日に着工式が行われた江東郡総合奉仕所だが、その計画の裏にある意図を見抜いた人々は、トンジュ潰しの一策だと指摘している。この奉仕所は、トンジュが所有する民営の銭湯、サウナ、卓球場などを廃業に追い込むために作られているというのだ。
(参考記事:「銭湯で男女入り乱れ」北朝鮮高校生らの禁断の行為)
炭鉱の村にはトンジュが営む銭湯とサウナが3カ所、邑(郡の中心地)にはさらに多く存在するが、国が運営する総合奉仕所ができれば、これらの店は客を奪われてしまう。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋も、先月24日に定平(チョンピョン)郡の邑に総合奉仕所の着工式が行われた後、現地で食堂や銭湯、サウナ、ゲームセンターなどを営むトンジュが不安がっていると伝えた。
(参考記事:北朝鮮版「細うで繁盛記」の悲惨過ぎる結末)
「当局が総合奉仕所の開設を進めるウラには、トンジュに対して自発的に個人資産を国に納めさせようとする意図がある」(情報筋)
北朝鮮の憲法や法律には、個人の財産権に関する規定が存在しない。一部の家財道具などを除いて、すべてのものが国の所有となっており、国家が恣意的に個人から財産を「回収」した事例は枚挙にいとまがない。
(参考記事:北朝鮮が「いわくつきの土地」で建設を進めるレジャー施設)
最も有名な事例として挙げられるのは、北朝鮮の立志伝中の人と言えるパク・キウォンの事件だ。
成分(身分)の低い犯罪者から外貨稼ぎ会社の社長にまで登りつめた彼は、平安南道の順川(スンチョン)に2003年、総合奉仕所をオープンさせた。しかし、故金日成主席の現地指導の史跡を毀損したという言いがかりをつけられ、故金正日総書記の「3代に渡って皆殺しにせよ」との命により、競技場で公開銃殺された。もちろん、全財産が没収されたことは言うまでもない。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
また、これとちょうど同じ頃、新義州(シニジュ)で総合奉仕所を営んでいたトンジュの女性が、資本主義文化を拡散したとの理由で、全財産を没収される事件も起きた。
経済の中央集権化、ほぼすべての商品の専売化で、国や高位幹部が利益を独占し、残りの国民を「生かさず殺さず」の状態に叩き落とすのが、地方発展20×10政策の真の目的と言っても過言ではないだろう。