“ライス無料”のラーメン店で“米を盗んでいた”アルバイト店員。犯行理由は「米が高くなり、自分で買いたくなくて…」
バレないと思い込んでいるからこそなのか、世の中には些細な悪事を働く小悪党が存在する。今回、話を聞いたのは、関東地方でラーメン店を営んでいる松井拓哉さん(仮名・30代)。松井さんは、原材料高に苦しみながらも、なんとかおいしいラーメンを提供しようと奮闘している職人だ。濃い目の味わいとなる豚骨醤油スープが人気で、近所に大学があることから昼夜問わず若い客でにぎわっているそうだ。
◆店主が気づいた“異変”
「お店を開業してから10年になりますが、大学が近いのは本当に助かっています。うちの店はランチ時にたくさん食べてもらいたく、ライスを無料にしている。豚骨スープなのでご飯によく合うし、麺を食べた後スープに入れてもおいしいですよ。多くのお客さんに喜んでもらっています」
足繁く通ってくれる客のために、原材料高の中でもライス無料は現在でも継続しているという松井さん。しかし、ここ最近は米が高騰し、業者からの仕入れも難しくなりいろいろと頭を悩ませているとか。そんななかで、松井さんはお店に起こった異変に気づいたそうだ。
「ライス無料を謳っているため、常時大量の米が貯蔵されていて。ただ、仕入れに関してはどんぶり勘定で、なんとなく3日分くらいの米を確保するようにしていました。なので、細かくお店に何キロあって、今月は何キロの米を使ったなど計算していなかったんです。ただ、米の値段が高止まりしているので、どのくらい無料のライスが収益を圧迫するのか知っておきたくなりました。それで、確認しようとお客さんに出しているライスと、仕入れた量を突き合わせてみたんです。そうしたら、微妙にズレが出ていた。例えばですが、30キロの米を仕入れたのに、翌日には1キロ分くらいがない計算になる。もちろん、炊きすぎて廃棄する場合もあるのですが計算が合わないんです」
◆倉庫に仕掛けた防犯カメラに残っていたのは…
仕入れのたびに1キロの米が不明になれば、月に20キロ近くがロストしていることになる計算だとか。そうなると、米の値段が安くないだけに、お店の経営にも影響してくることになる。
しかし、そもそも仕入れの段階ではキロ数に間違いがないのに、なぜ倉庫に入れておくと少なくなるのか? 不思議に思った松井さんは、米などの材料を貯蔵している部屋に、防犯カメラを仕掛けて撮影してみたという。後日録画を確認すると、そこには驚くべき映像が残っていたそうだ。
◆明らかにおかしな行動をするアルバイトの姿が
「バイトで雇っているA君が勤務時間よりも早く店に来ていました。基本的に、A君には昼働いてもらっていて、掃除や仕込みを任せていたこともあって、店の鍵開けもお願いしていたんです。A君は、お店に着くなり誰もいないのを確認すると、材料部屋に直行して何かをゴソゴソとし始めた。何をしているのかは良く見えなかったのですが、明らかにおかしな行動しているのは確か。なので、現場を押さえるために、翌日は自分が早めにお店に行って見張っておくことにしたんです」
ちなみにAさんは、松井さんの店で3年ほど働いている、バイトの中で古参の一人。将来は、ラーメン店を開きたいと話していたAさんを松井さんはかわいがり、ラーメン作りをいろいろと教えてあげていたという。そんなAさんは、松井さんが思いもよらないような悪事を働いていたようだ。
「レコーダーの映像通りに、A君は予定より10分くらい早めに店に来て材料部屋に直行した。自分も後を追いかけると、米を自分で持ってきたゴミ袋に移しているところ。何をしているのか聞くと、驚いた表情を見せたA君は、米にゴミが混じってないか確認しているところだという。そんな作業はお願いしていないのですぐに嘘だとわかり、米が減っていることに気づいていたので、盗んでいるんじゃないかと問いただしたんです。すると、A君は泣きながら犯行を認めて。店では大量にライスを出すので、少しくらい盗ってもバレないだろうと思い、定期的に米を抜いて自宅に持って帰っていたそうです。最近では米が高くなり、自分で買いたくなくて、毎日のように抜いていたそうです」
◆自分で食べない分は友人に売っていた
松井さんは、Aさんを即刻クビにしたものの、窃盗事件として警察に通報することはなかったという。
「大量に米を毎日のように持って帰っていたA君は、自分で食べない分は友人に売っていたそうで。あまりに悪質なので警察に届けようとも考えましたが、こんなことで大きな騒ぎになるのもお店の看板に傷がつくので辞めました。A君には、この一件は絶対に口外しないように誓約書を書かせて。A君が辞めてからは、ピッタリと仕入れと提供しているライスの量があうようになったので、本当に米を持ち帰っていたんだと納得しましたね。信頼していたのに、まさか米泥棒で弟子をクビにするとは……いまだにショックから抜け出せません」
期せずして飼い犬に手を嚙まれた形になったわけだ。
<TEXT/高橋マナブ>
【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている