歩きスマホで「死にかけた…」子どもの“ピンチ”を疑似体験する漫画が衝撃。令和に多い事故の特徴は<漫画>
絶体絶命のピンチ! こんなとき、あなたならどうする?
『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(大塚志郎著/宝島社刊)は、日常の思わぬ危険とその回避方法を描いたマンガとして、SNSなどで大きな注目を集めています。
「川での沈水」や「側溝への落下」など、だれもが陥りやすい危険を中心に解説した本書。作者で漫画家の大塚志郎さんは、「子どもが事故や事件に巻き込まれて亡くなるというショッキングなニュースが増えている中、なんとか対策ができないかと思い、危険を分かりやすく伝える漫画を描くことにした」と語ります。
今回は現代社会で増えている事故事例について、大塚さんにお話を聞きました。子どもたちのまわりでは今、どのような事故や事件が増えているのでしょうか?
◆スマホを見ながら踏切内に……「ながら系」事故の増加
――近年、増えている事故や事件について教えてください。
大塚志郎さん(以下、大塚)「スマホを使った『ながら系』の事故はやはり多いですね。例えば、スマホを見ながら歩いていた人が、踏切の待機場所と勘違いして線路内で立ち止まり、電車にはねられてしまうといった事故です。この他にも、スマホを見ている間に線路に入ってしまう事故は何件も発生しています。
以前は、ヘッドフォンを使っているときの事故もありましたが、ヘッドフォンの場合は視覚が空いています。しかし、スマホは聴覚と視覚の両方を使う操作もできてしまうため、周囲を確認するのが難しく手も塞がります。まさに令和ならではの事故で、誰もが巻き込まれやすい事故と言えます」
――スマホ関連の事故は、若い人が多く犠牲になっていますね。
◆子どもが「一人」のときの事件や事故が多い背景
大塚「また、子どもが一人で遊んでいるときにボヤを起こしたり、放課後に一人で事件や事故に巻き込まれたりというのも、現代に多い事故・事件の特徴ですね。僕が子どもの頃は、友達の家に集まって遊ぶことが多かったですが、今の子どもたちはお互いの家に行くことが少ないようです。
核家族や共働きの家庭が増え、子どもの放課後に大人が家にいないケースが多いので、子どもたちだけで勝手に行き来できないというのが大きいと思います。親同士の間では、家に友達を呼んで何かが起きたら責任問題が生じるからという理由もあるようです。
そんな背景から、子どもが家で一人でいる、という状況が珍しくない現在。そして一人で遊んでいて、事件や事故に遭うケースが増えているように感じます。ニュースでこうした事件や事故を見ると、子ども同士の付き合い方が変わってきているなと感じます。ただ、川での溺水事故のように、昔も今も変わらず発生しているものもありますね」
◆大人も子どもも「危ない」という感覚をどう身につけるか
――川遊びでは今も昔も、毎年痛ましい事故が起きていますね。
大塚「そうですね、これは時代に関係なく起きている事故です。僕が子どもの頃も外遊びをしない子はいましたが、現代はさらに外遊びや水遊びをする子が減っているように思います。そのため、昔なら大人から『危ない』と教わっていたような基本的なシチュエーションでの溺水事故が増えている印象です。
外遊びや川遊びに慣れていない親子が、突然川に行ってしまい、そこで事故に遭うケースも多いですね。いわゆる『ヒヤリハット』って、通常は300件のヒヤリ、29件の軽い事故が起きると1件の大きな事故につながると言われます。1件の重大な事故の裏には、29件の軽傷事故と300件の無傷事故があるという、ハインリッヒの法則です。でも、最近の川遊びに関しては、ヒヤリハットからすぐに事故につながる状況が増えているように感じます。
近年は日常的に外遊びや川遊びをするのが難しく、危ないシチュエーションを学ぶ機会が減っています。だからこそ、漫画で川遊びの危険性を疑似体験してもらえたらと思っています」
◆毎年後を絶たない、子どもたちの「後追い沈水」事故
――歩きスマホや誘拐など、漫画の中にはさまざまな事例が登場しますが、特に気をつけてほしい危険なシチュエーションはありますか?
大塚「漫画の中で紹介している『後追い沈水(あとおいちんすい)』の事例は、特に注意してほしいです。これは、子どもたちが集団で遊んでいるときに誰かが溺れ、その子を助けようとした子どもも溺れてしまうという事故です。毎年夏になると、後追い沈水による死亡事故が必ず発生しています。毎年誰かが遊泳禁止の川で溺れ、それを助けた人も巻き込まれてしまいます。
後追い沈水を素人が助けるのは無理です。ですから『なぜ遊泳禁止の場所に行ってはいけないのか?』という理由とセットで『川遊びは危ない』と理解することが大事なのです。
きょうだいや友達と川遊びをする際、上級生が下級生を見守ることも重要です。集団で遊ぶ際には、自分の立場を意識して行動することを学んでいってほしいです。気をつけるべきポイントをたくさん学んで、危険な場所やシチュエーションを避ける習慣がつくと良いですよね。『ここなら大丈夫だけど、少し外れると一気に危険になる』といった感覚を身につけてほしいです」
――漫画を通して水遊びの危険やその対策方法を知ることは大切ですね。
大塚「そうですね。例えば、スマホを使いながら歩く『ながら系』による事故は、現代特有のものとして今後は変わっていくかもしれません。時代の変化とともに、新しい事故や事件はどんどん出てくると思います。でも、川遊びの危険性は昔も今も変わらず、普遍的に起きうる事故です。
漫画では、時代に関係なく起きる危険についても取り上げています。たとえば、毒を持つ生物に出会ったときの対処法です。今も昔も毒は毒ですよね。危険な生物は変わらず危険です。こうした普遍的な危険については一度学んでおくと、『これは危険だ』と理解し、今後も役立つ知識として備えられると思います。知識があれば、危険を避けたりピンチを逃れたりすることが可能になります」
◆普遍的に起こる事故こそ、知ることで未然に防げる
スマホの「ながら系」事故のように、時代の流れの中で新たに発生するリスクもあれば、後追い沈水のように昔から繰り返される事故もあります。身の回りで起こった事例を知ることで、今自分がとっている行動が危険かもしれないと、危機察知ができるようになります。
まずは、自分の周囲でどんな事故や事件が起きているのかを知ることの重要さを実感しました。事故が起きてから動くのではなく、事例を知ることで未然に防ぐことができるケースも多そうです。
【大塚志郎】
漫画家。2002年『ビッグコミックスピリッツ増刊 新僧』にて『漢とは何ぞや』でデビュー。商業誌以外にもSNSや自費出版漫画などで幅広く活動中。著書に『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(宝島社)、『漫画アシスタントの日常』(竹書房)など。
Xでも漫画を公開中。X:@shiro_otsuka
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB