テレビはより“オワコン化”が進む?『M-1グランプリ2024』令和ロマンが“2連覇”した場合の未来予想図

2001年からスタートした『M-1グランプリ』(以下、M-1)は、今回で20回目の開催となる。公式本『M-1グランプリ大全2001-2024』も発売されるなど、早くもお祭りムードが漂うなか、最も注目されるのが令和ロマンだ。史上初の2連覇を狙っている彼らが、仮に優勝したら今後のバラエティ界は一体どうなっていくのだろうか? この記事では、“令和ロマン2連覇後の世界線”を推測していく。

◆かつてはNON STYLEも

これまで2連覇に挑戦したのは令和ロマンだけではない。2008年に優勝したNON STYLEが、翌年にも出場して史上初の2連覇を目指した。結果としてはパンクブーブーが満票を獲得して優勝するのだが、NON STYLEはファイナルステージに進出して、あと一歩のところまで迫った。

実力者として知られるNON STYLEでも辿り着けなかったわけで、令和ロマンが挑戦する頂きは、かなり険しい道のりである。そもそも、さまざまな芸人たちが明かしているが、『M-1』で優勝するには多くのことを犠牲にして大会に集中する必要がある。それだけに、これまで2連覇を目指すコンビは少なかったし、よほどの覚悟と実力がなければ達成できない。

そんな試練の道を令和ロマンは突き進んでいるわけだが、これまでの予選のネタを見る限りではかなり2連覇に近いところにいる印象だ。令和ロマンの髙比良くるまは、漫才を論じている書籍『漫才過剰考察』を11月8日に発売したばかり。著書を読めばどれだけ『M-1』を研究しているかがわかる。その知識を総動員して挑む今回の大会は、改めて要注目である。

◆やっていることはアスリートと同じ

もし、令和ロマンが2連覇したらどんなことが起きるのか? テレビと芸人の関係性が劇的に変わる、地殻変動が起きると予想する。まず、『M-1』で優勝するには覚悟が必要だ。予選を勝ち抜くため、芸人は観客や審査員が見たことないネタを多数用意する。特に参加者が増えた近年の『M-1』はレベルがあがり、何度も舞台やテレビで披露したネタを使うわけにいかない。

つまり、誰もが認めるおもしろい新ネタを何本も用意する必要がある。それが理由なのか、令和ロマンは昨年の優勝後にテレビにはあまり出演しないで、舞台も大事にしながらネタの精度を高めていた。やっていることはアスリートと同じで、多くの時間を『M-1』に費やしている。令和ロマンは一度目の優勝で、テレビよりも翌年の漫才日本一を取ったことになる。

ただ、令和ロマンはそんな苦労をしながら、時間のとられるテレビ出演は最小限とし、配信、舞台でしっかり活躍している。

◆「売れるためのステップアップ」だったはずが…

そもそも、これまでの『M-1』は、売れるためのステップアップという側面があった。実際、優勝したサンドウィッチマンをはじめ、錦鯉やウエストランド、マヂカルラブリーはテレビ出演が激増して現在も活躍。オードリーは優勝できなかったものの、『M-1』をキッカケに大ブレイクした。下世話に言えば、売れなかったコンビが一夜にしてスターになれる魔法の大会、それが『M-1』だった。ただ、考えてみれば今年で20組目の王者が誕生するわけで、希少性も薄くなっているのが現状だ。受け皿がテレビだけで飽和状態の印象を受けても仕方がない。

「M-1優勝=テレビスター」という図式が徐々に崩れている雰囲気もあり、令和ロマンは王者として、はじめてそこに異議を唱えているように思える。というのも、現在はテレビで活躍するのは40~50代の中堅芸人で、明石家さんまやダウンタウン・浜田雅功、ウッチャンナンチャンといったそれ以上のベテラン芸人も元気だ。M-1王者で冠番組を多数持っているのはサンドウィッチマンくらいで、ここ10年では霜降り明星だけ。錦鯉、マヂカルラブリーはブレイクしているとはいえゲスト出演が多く、ウエストランドは井口浩之のみ見かけることが多い。

◆令和ロマンは『M-1』2連覇で歴史を変えるコンビに

そもそも、テレビであまり見かけなくなった王者コンビもいる。優勝しても冠番組が何個も持てるわけでなく、それどころか上の世代が強すぎで勝てない。そんな状況なのが、いまのお笑い界でありテレビ業界だ。そんな空気を察知したのか、2019年王者のミルクボーイは、近年では関西を主戦場として舞台も大切にしながら活動。NON STYLEも、石田明は舞台や配信に力を入れ、NSCで講師を務めるなど後輩の育成を行っている。また、『新しいカギ』(フジテレビ系)というヒット番組を持つ霜降り明星も、YouTubeに力を入れテレビだけではない活動を積極的に行っている。

そもそも髙比良くるまは、M-1優勝後にNON STYLE・石田のYouTubeチャンネルに出演し、「テレビに出ない」発言を展開。発言を要約すると、テレビは自分たちより上の世代のメディアで、活躍するというヴィジョンが見えないというものだった。

こう主張する令和ロマンが2連覇すれば、よりテレビをメインとしない活動が加速するのは明白。2連覇という偉業を達成したら漫才ツアーも可能だ。配信や舞台を見たい人も増える。より、テレビ出演をしなくても良い環境ができるだろう。そうなると、2連覇した令和ロマンはM-1王者なのにテレビに出ないで稼ぐという、新たな道筋を作る可能性がある。

新たな例ができれば、漫才を突き詰めようとする芸人が多くなり、テレビに頼らない活動をするコンビが増える。つまり、令和ロマンが2連覇をすれば、より若手がテレビに出なくても良い風潮が蔓延すると考える。すでに、M-1で優勝しテレビで活躍する構図は崩れつつあるが、令和ロマンが2連覇することで完全にその構図を崩壊させることだろう。

令和ロマンが2連覇するとなれば、歴史を変えるコンビになるのだ。

◆テレビはより“オワコン化”が進む?

そもそも、現在のテレビでは特別な影響力を持つ番組がない。強いてあげるなら『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が話題を集めるが、この番組は芸人よりスタッフの能力値が高い。現に、ダウンタウンの冠番組ながら、松本人志が不在でもおもしろさは変わらない。つまり、芸人においてバラエティはドラマや情報番組よりひと足早く“オワコン”になっている。

エッジが効いた笑いを見たいなら配信サービスやYouTubeを見れば良いし、首都圏に住んでいれば舞台で人気芸人の漫才やコントを見られる。地方に住んでいても、配信で舞台が見られるので、テレビを見なくても最新のお笑いを体感できてしまう。

このオワコン化は、令和ロマンが2連覇すればより加速する可能性が大。テレビはまだ影響力があるので抵抗もあるだろうが、近い未来にお笑いに必要ないメディアになるのは間違いない。それが、令和ロマンの2連覇によって、かなり早められるだろう。

『M-1』は、もともとテレビの賞レースとして漫才日本一を決める大会だったが、何の因果か令和ロマンによって、テレビに終止符を打つ番組になるかもしれない。果たして、令和ロマンは思惑通りに2連覇を達成することができるのか? 普段漫才に興味がない人でも、お笑いの歴史が大きく変わる可能性がある大会なので、準決勝からでも追ってみることをおすすめする。

<TEXT/ゆるま小林>

【ゆるま小林】

某テレビ局でバラエティー番組、情報番組などを制作。退社後、フリーランスの編集・ライターに転身し、ネットニュースなどでテレビや芸能人に関するコラムを執筆

2024/12/4 8:52

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