ドキュメンタリー映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』穂坂友紀監督インタビュー「一戦にかける情熱をどのようにそのまま映像に込められるか」
アイドルグループ「SMAP」のメンバーとして人気絶頂だった22歳の時に、 幼少時からの夢だったオートレーサーへ転身した森且行の生き方の深奥に迫ったドキュメンタリー映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』 (配給:KADOKAWA)が、11月29日(金)より全国公開中です。
【作品概要】1996 年、⽇本中の注⽬を集める中で、トップアイドルからオートレーサーへの転⾝を果たした森且⾏。 2020 年 11 ⽉ 3 ⽇、24 年⽬にしてついに悲願の⽇本選⼿権初優勝を果たした。しかし、そのわずか 82 ⽇ 後、 レース中に落⾞し命が危ぶまれるほどの⼤怪我を負ってしまう。それからレース復帰までの2年間、幾度にもわたる⼿術と懸命のリハビリの⽇々の中、森は何を思い、何を⽀えにしていたのか? 選⼿⽣命を脅かす怪我を 負ってもなお、⾛ることを辞めない彼を突き動かすものは何なのか? そして 50 歳を迎えた 今、森且⾏は何を 思うのか? 3年にわたり病院やレース場、幼い頃の思い出の場所でカメラをまわし、⾁親やレーサー仲間、担当医、そして本⼈へのロングインタビューを通して浮かび上がってくるのは、家族や仲間たちとの変わらない絆と熱い想いだった――
2023年 3 ⽉に開催されたTBSドキュメンタリー映画祭に於いて上映された『オートレーサー森且⾏ 約束のオーバルへ』をもとに⼤幅な追加撮影映像を交えて再編集され、森且⾏の不屈の闘志の源 泉を浮かび上がらせる新しい内容となっている本作。穂坂友紀監督にお話を伺いました。
――本作のもととなったドキュメンタリーを制作するに至ったきっかけを教えてください。
2021年の夏、朝の情報番組で森且行さんの現在の姿を取り上げたいと思ったことがきっかけです。1日限りのインタビューで終わる予定だったのですが、その当時、杖でしか歩けないのに「絶対に復帰する」と話されていて、復帰するまで追いかけたいと感じました。そこからは、しつこくオファーをし続けました(笑)。
――そこから本劇場版にいたるまで、どの様な所に気をつけて追加編集をされましたか?
2023年の映画『オートレーサー 約束のオーバルへ』は、森さん自身の言葉で情熱を語っていただくということが軸になっていましたが、お兄さんやお医者さん、新井恵匠選手など、周りの人たちに支えられてこそ今の森さんがあるということに気が付き、より客観性を加えるために周辺取材を行っています。
――森さんご自身のお言葉はもちろん、迫力あるレース中の様子やその裏側、オフの姿など様々なフッテージで構成をされている作品です。編集上で工夫したことを教えてください。
色々なシーンが撮れているので使いたくなってしまうのですが、「森且行の芯とは何か」を忘れないように気をつけていました。その結果カットしたプライベートなシーンはたくさんあります。
あと、その芯を忘れないように、森さんが出場するレース場で原稿を書いたりしていました。一戦にかける情熱をどのようにそのまま映像に込められるかなと思いながら、その場の空気を感じながら書いていましたね。
――森さんとのファーストコンタクトの印象とどの様にその印象が変化していきましたか?
カメラが回っていても表裏が全くない方なので全然変わらないですね。私と森さんの距離感が近くなったからこそ見せてくれるような表情、新たな発見はありました。でもプライベートでは、お酒を飲んだらただの酔っ払いですし(笑)そんな部分も含めて、印象は変わらないです。
――森さんに様々なお話を聞いた中で一番驚いたことはどのエピソードでしたか?
オートレーサーは一人で戦っているイメージがあったのですが、実はレーサーみんなでオートレース界を盛り上げているんですよね。後輩とバイクの話をしたり、レースが終わった仲間の元に駆けつけて整備を手伝ったり、レーサー同士の距離感が近いということが意外でした。
――ご自身の仕事をプロとして追求していくのは監督もご一緒かと思います。作品や映像を作るなかで一番気をつけていることは何でしょうか?
ドキュメンタリーは初挑戦でしたが、撮りたいものを撮るのではなくて、そこにあるものを撮る。こういうシーンが撮れたらいいな、ではなくて、ありのままの森且行を撮るということですかね。あとはもう、命懸けで戦っているので集中力を乱さないようにレース前は声をかけないとか。周りの選手にも同じく、カメラがいることで集中力が乱れないように気を遣いました。バイクやタイヤもミリ単位で整備をしているので、カメラを回しているとき自分の身体が当たらないようにしたり。命懸けの戦いを見させてもらっている、という思いで臨んでいました。
――「TBSドキュメンタリー映画祭」では他にも優れたドキュメンタリーが発表されてきましたが、ご覧になったもの、刺激を受けたものはありますか?
生々しい映像を含むドキュメンタリーなどにも触れて、報道をやっている人間として「すごいな」と思いました。この映画を製作するにあたり海外のドキュメンタリー作品なども観ました。マイケル・ジャクソンが関わった、世界への平和を込めた歌を作る『ポップスが最高に輝いた夜』とか、『アイ・アム セリーヌ・ディオン〜病との闘いの中で〜』という、セリーヌ・ディオンが声を失ってから立ち上がるまでの密着とか。それらを観てやはり、対象一人にカメラを向けるだけでは伝えきれないことがあるんだなと気がつきました。本人の口から語ること、周囲が語ることとでは、同じ内容でも感じる重さが違ってくる。第三者の視点というものを意識しました。
――本作を通して人々に届けたいメッセージをお聞かせください。
森且行がオートレーサーとして命を懸けて戦っている部分ももちろん、森さんを支えている方たちの姿も見てほしいです。彼を応援せずにはいられなくなって立ち上がった先生たちや同期たち。周りの人たちを巻き込んだ今回の復活劇というものをぜひご覧いただきたいなと思います。
『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』
新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか絶賛上映中
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