「カネとコネ、階級」で合否が決まる北朝鮮の大学入試
北朝鮮の大学入試では、2回の試験が行われる。
1回目は「大学入学のための予備試験」、通称予備試験だ。これは日本の共通テスト(2020年度まではセンター試験)に相当するもので、受験生の住む地元で行われる。科目は金日成同志、金正日同志の革命歴史、国語、数学、英語、科学、物理の6つ、競争率は5倍ほどだ。
内閣教育省は、この点数に応じて各市・郡・区域に入学定員を割り当て、高等中学校(高校)は受験生の中で成績優秀だった者に入学推薦を出す。その後に各大学が入試試験を行うという流れだ。
予備試験は例年12月、各大学の入試は翌年2月に行われるが、実施が急に前倒しされることになった。その背景について、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
内閣教育省は15日午前、各道・市・郡の教育担当部署を通じて、各地の高等中学校に「予備試験の日程を15日前倒しにする」との通告を行った。
その理由として教育省は、受験生の負担を減らし、大学入試をシステマティックに行えるようにするため、としている。また、優秀な人材の育成に重点を置き、大学入試過程の透明性を強化し、不正行為を根絶し、公正な競争を保証するともしている。
「カネとコネさえあれば、ほとんどのことが解決する」というのが今の北朝鮮だが、大学入試とて例外ではない。情報筋は語った。
「教育省は毎年行われる予備試験を前にして、試験問題の秘密が保証できず、試験問題を取引する不正行為が根絶できていないと指摘した」
(参考記事:女子大生40人が犠牲…北朝鮮幹部「鬼畜行為」で見せしめ)
韓国の朝鮮日報は2020年1月、脱北者の話として、大学の入試問題が250ドル(当時のレートで約2万7000円)で密売されていると報じた。受け渡しは地下鉄の駅構内、裏通りなどで行われ、まるで麻薬の密売のようだ。
(参考記事:試験問題がおおっぴらに取引される北朝鮮の「汚受験」)
そんな現状を知る親からは、今回の教育省の試験日前倒し措置に対して、こんな懐疑的な声が上がっている。
「毎年、一部の金持ちの家の子どもは、試験前に問題をあらかじめ知っている。試験日を前倒しにしたからと、問題が発生しないという保証はない」
「今年も、カネとコネを持つ家の子どもが、幹部養成の基本となる中央大学(平壌にある一流大学)と主要師範大学、教員大学の入学枠を独占するだろう」
北朝鮮の「汚受験」の問題は、入試問題の流出にとどまらない。
北朝鮮の大学入試において、成績よりも重要視されるのが、出身成分(身分)だ。試験を受けるに当たって願書は必要なく、求められるのは受験生とその家族の成分、身元に関する機密資料の提出で、大学に書留で送られる。受験生や家族はその資料を見ることすらできない。
成分が悪ければ、どれだけ成績優秀であっても、大学の推薦すら受けられない。限界はあるが、カネとコネがあれば、本来は受けられないはずの推薦を獲得できる。ただ、2回の試験のみならず、様々な過程でワイロを求められるため、相当の財力がなければ難しいだろう。
(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」)
その反面、入試において下駄を履かせてもらえる受験生もいる。将来、金正恩総書記の警護に当たるボディガードや、身辺の世話をする通称「喜び組」になる「中央党5課対象」と呼ばれる人たちは、既に身元調査が終わっていることもあってか、特別推薦扱いされ、大学に入学できる。
(参考記事:金正恩の「ボディガード候補生」ボコボコ殴打で瀕死の重傷)
また、地方の名門大学の場合も、試験で優秀な成績を収めた受験生以外に、特権階級や幹部の家の出の受験生なら、試験の成績とは関係なく入学が認められるのだ。
(参考記事:女子学生40人に性犯罪…金正恩「教育はタダ」の嘘と闇)
晴れて入学できても、様々な過程で黒いカネの要求は続く。学期末の試験、論文審査、卒業などありとあらゆる面でワイロが必要になるのだ。そのため、学生たちは休み中に高額バイトに精を出す。その過程で、性暴力の被害に遭う女子学生もいる。