1ヶ月会えない彼。「仕事が忙しい」という28歳医者の言葉を信じた女が、知った衝撃の真実

レストランに一歩足を踏み入れたとき、多くの人は高揚感を感じることだろう。

なぜならその瞬間、あなただけの大切なストーリーが始まるから。

これは東京のレストランを舞台にした、大人の男女のストーリー。

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「東京で見つけた天然記念物男」城田亜紀(28歳)/ 西麻布『BAR GOSSIP』

「城田さん、僕のこと覚えてますか?3年5組だった二宮裕太です!」

11月の最終週の土曜日、私は高校時代の同級生カップルの結婚式で地元の仙台に来ていた。

2次会でひょろんと背が高い男性に話しかけられる。

― えっと誰だっけ…。

卒業以来会ってなかったので一瞬思い出せなかったが、目尻にシワが寄る彼の笑顔を見て、私は記憶を手繰り寄せる。

「あ、はい。確か医学部に行った…?」

― 二宮くん、真面目で印象が薄かったけど…。確か、東北大学の医学部に進んだんだっけ?

「卒業した後、東北大に行って、2年前くらいから東京の病院で働いてるんだ」

当時は、ほとんど接点がなかったが、同級生ということもありすぐに打ち解ける。

「そうなんだ、二宮くんも東京なんだね。私は証券会社で働いていて、今は六本木に住んでいるよ」

「六本木に住んでるなんてすごいね。もしかして城田さん、港区女子なの?」

二宮くんは、勤務先の病院に近い二子玉川に住んでいるが、仕事も忙しくて東京らしい生活なんて全然してないという。

「まさか…。たまたま会社が近いってだけ。勝手に想像膨らませないでほしいわ」

笑いながら、私は口を尖らせる。

― 28歳でお医者さん、そしてまだ東京歴2年で真面目。二宮くんってもしかして東京では天然記念物男?

大学から東京に出て、それなりにちやほやされ酸いも甘いも経験した私には、二宮くんのピュアさが眩しく見えた。

「城田さんは、今日は実家に泊まるの?僕は東京に戻る予定なんだ」

「そうなの?私も今日東京に帰るよ」

二宮くんが嬉しそうな表情になったのを、私は見逃さなかった。

「せっかくだし、二宮くん一緒に帰ろうよ」

ふたりで新幹線の予約サイトを開き、並びの席を取り直した。

18時。

他の同級生が3次会に参加するなか、私たちは新幹線に乗り込んだ。

「カンパーイ」

キオスクで買ったビールを飲み、ふたりだけの3次会が始まる。

二宮くんは、昔と変わらず朴訥な雰囲気で笑顔が可愛い。

さっきから仕事の話ばかりしているが、高級レストランやきらびやかな旅行の話をする男よりずっと結婚向きなのかもしれない。

― 昔はわからなかったけど、こういう人と結婚するのが一番幸せになれるのかも…。

「仙台から東京だとあっという間だね。城田さん、一杯飲んでいかない?」

東京駅に着く直前、二宮くんが誘ってきたので私は二つ返事でOKする。

「いいね。どこで飲む?」

「僕お店とか全然詳しくなくて。もしよかったら、城田さんが住んでいる六本木あたりで飲んでみたい。東京っぽいところに憧れがあって」

― 六本木に憧れるって…。なんだか可愛い。

私は西麻布にある『BAR GOSSIP』に彼を連れて行くことにした。最初は友人に連れて来られたバーだが、おしゃれなインテリアにオトナの雰囲気がいかにも港区っぽくてお気に入りの店だ。

4次会ということもあり、すっかりお互い打ち解けて恋愛の話になる。

「私ね、付き合っていた人がいたんだけど、1ヶ月前に別れたんだ。色々と理想を押し付けてくる感じがあって少し苦しかったの。アナウンサー系の清楚な服装でいてほしいとか、イメージに合わないからジャンクフードは食べないでとか…」

元彼の愚痴を話すんじゃなかった…と後悔した矢先、二宮くんは意外な反応を示す。

「城田さんを悲しませるなんて、ひどい男だね。僕だったら絶対にそんなことはしない。そんな男はやめておいて、もっと自由でいられる人と付き合ってほしいな。実は僕、高校の時ずっと城田さんのこといいなって思ってたんだ」

― え、これって、アプローチされている?

ときめきはないけど、同級生と付き合うって悪くないかも。

終電近くまでふたりで時間を過ごし、次の約束をして別れた。

2週間後。

レストランに詳しくない二宮くんに代わり、私は恵比寿にあるイタリアンを予約した。12月に入り街はキラキラしていて、私の気持ちも浮足立っている。

「今日のお店も素敵だね。亜紀ちゃんといると楽しいよ」

いつのまにか、呼び方が亜紀ちゃんに変わっているのも嬉しい。その日も楽しく過ごして、またすぐに会うことになった。

― 今日で再会してから会うのが3回目。クリスマスも近いし、進展したいな。

二宮くんも同じ気持ちだったのか、麻布十番で飲んだ後、帰り際に言われる。

「亜紀ちゃんって高校の時から変わらず本当に可愛い。亜紀ちゃんと付き合えたらとっても幸せだと思う。今日はもっと一緒にいたいな…」

少し迷ったが、二宮くんのことは信用できる気がして、私は彼を家に招いた。

シャワーを浴びてベッドで幸せな時間を過ごした後、明日早いからと二宮くんはすぐにタクシーで帰っていった。

「お医者さんって忙しいもんね。気をつけて」

「うん、ごめんね。今日は楽しかった。またすぐに連絡する」

寂しく感じたものの、私は笑顔で彼を見送った。

年が明けて早1ヶ月が過ぎ、2月に入った頃。

六本木駅から家に帰る途中、仙台に住んでいる高校の同級生男子からLINEがあった。

『来月、東京に行くからみんなで飲まない?』

『出張?二宮くんとかにも声かけとくよ』

『いや、その二宮の結婚式で東京に行くんだよ』

『え、二宮くんの結婚式?』

私たちまだ結婚してないけど、と思わず返しそうになる。

『うん。二宮、同じ職場の女医と結婚するんだよ』

聞けば、2年ほど同棲している彼女がいて来月入籍するという。

― 全然意味わかんない。私とのことは、結婚前の火遊びだったってこと…?

確かに、去年二宮くんが家に来て以来、クリスマスもお正月も彼には一度も会っていない。

でもそれは、彼が仕事や当直で忙しかったからで…。

地方出身の真面目な二宮くんに、自分が遊ばれたとは、にわかに信じがたかった。

見る目がなかった自分に愕然とする。

― 二宮くん、東京に慣れてないフリして、めちゃくちゃ東京に染まってるじゃん。

華やかなネオンがキラキラ光る六本木通りを、私は情けなさと落胆が入り交じった感情を抱きながらトボトボと歩いていた。

東京来て10年も経つのに、東京に慣れていないのは私。

いつになったら、私は高校生の自分が憧れていた東京の女になれるんだろう…。

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2024/11/25 5:03

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