どうも不評な朝ドラ『おむすび』の楽しみ方。“熱血キャラ”の26歳俳優をよく見ると
はてさて朝ドラ『おむすび』(NHK総合)を見る楽しみはいったい、どこに隠れているのだろう?
熱血な球児を演じる佐野勇斗にぎゅぎゅっと凝縮されているのだと言い切りたい。それだけ本作の佐野には不思議な魅力があり、佐野勇斗ファンではない人でもたぶん、彼の微動に注目する視点ならかなり楽しめると思うからである。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、佐野勇斗の微動を楽しむドラマとしての本作を解説する。
◆画面の細部に注目すると
どうも視聴率のことやら、なんやらで不評続きの『おむすび』だけれど、ギャル平成史を描く物語はひとまず抜きにして、画面の細部に注目するとかなり面白いところがあったりする。
第4週第20回、主人公・米田結(橋本環奈)は、ギャルサークル「博多ギャル連合」通称ハギャレンのメンバーとして、地元で開催された糸島フェスティバルでパラパラを披露した。パフォーマンス自体は盛り上がったが、それをけじめと決めた結はハギャレンを脱退する。
主な理由は、ハギャレンの元カリスマ総代であり、家族に迷惑ばかりかけてきた姉・米田歩(仲里依紗)のようにはなりたくなかったから。高校の書道部も退部した結は、家業である農家の仕事を手伝うようになる。
◆直接介入してくる人物
端から見ると、献身的な孝行娘に写るが、実際のところは夢をあきらめた逃避でしかない。ほんとうに農業をやりたいわけではないからである。そのことを誰よりわかっている家族たちも、複雑な眼差しで結を見守るしかない。
家族以外の人間で唯一ひとり、直接介入してくる人物がいる。他校のエース球児で甲子園出場を目指している四ツ木翔也(佐野勇斗)である。彼はことあるごとに結の元をたずね、熱血な視線を向ける。
大きな夢を持つ翔也と家業に根を張ろうとする結。将来へのベクトルがまったく逆のふたりだが、翔也から一球入魂されることで、結は再び夢の方へと向きを変えるのだ。
◆人物像が端的に示される初登場
そもそも初登場の瞬間から、翔也は結を救いだす役割を担っていた。第1週第1回、男の子が海に落としてしまった帽子を結が、海に飛び込んで拾いにいく場面がある。
その様子を見た翔也は、結が溺れているものと勘違いして、「今助けっぞ」と叫んで迷わず自分も海に飛び込んだ。結からしたら余計なお世話でしかなかったが、野球だけでなく他者に対しても熱血な人物像が端的に示される初登場だった。
この出会い場面以来、結と翔也は必ず海辺で会うことになる。翔也は毎回出身地である栃木名産のイチゴを何箱も持ってくる。野球の練習途中なのか、帰りなのか、せっせと箱を運んできては結にプレゼントしてばかりいる。野球以外はからっきし、ひたすら直球キャラが愛らしい人ではある。
◆袖が風になびかない場面
でもそうしたキャラ設定よりなにより、注目すべきことがある。それが冒頭でふれた画面の細部なのだが、海辺で立ち話をするときの翔也の袖(そで)がどうも気になるのである。
第2週第9回や第3週第15回など、翔也が着るユニフォームの白い袖(あるいはアンダーシャツ)がやたらと海風になびく。単にロケ地が海辺で海風が強いだけでしょといわれたらそれまでだけど、いやぁでもこのなびく袖には不思議な魅力を感じてしまう。
ならば逆に考えてみる。翔也の袖が風になびかない場面はあるのか。結と翔也がいつもの海辺ではなく、違う場所で会うときにはどうやら風が袖をなびかせないらしい。特に第7週第32回の夜の場面は決定的だったと思う。
◆佐野勇斗の微動を楽しむドラマとして
ギャル活動も書道部も再開した結は、「好きなことばやれ」と言う父・米田聖人(北村有起哉)のお墨付きによって、興味関心の領域が自由に広がる。ギャルと書道の次に着手したのは料理だった。
きっかけは、夢のベクトルへ後押ししてくれた翔也へのお礼。スタミナが足りないと打ち明ける翔也のために毎日スタミナ料理を作るのである。翔也からの感激コメントが励みになって、毎朝せっせと弁当を作って渡す(イチゴの箱からの逆転が面白い)。
ところがスタミナがつくどころか体重が増えて身体がなまってしまう。せっかく気合いが入り始めたというのに、結の家まできた野球部の監督からはきつく注意されてしまう。気持ちが沈んで夕食の箸があまり進まない結の元に、翔也がやってくる。
翔也は謝罪しながら、でも慣れない料理を自分のために毎朝作って渡してくれたことがほんとうに嬉しかったと素直な気持ちを吐露する。カメラがふたりを真横から捉える。このとき、翔也の袖はまったく風になびいていない。ぴたっとなびくことをやめたその袖を見て、あぁこれは恋の予感だなとはたと気づく。
実際、結はその夜から翔也に胸キュン。恋い焦がれることになるのだが、ユニフォームの袖きっかけで、佐野勇斗の微動を楽しむドラマとして本作を見ると、これは、なかなか面白いと思う。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu