健康は必ずしも頑張る必要はない──。美味しく食べて健康に。「Fibee」新商品の開発担当者の思い
健康的な食生活を実現するため何かに取り組まなければいけないと思いながら、時間や経済面の制約から実現できていない生活者は多い。それであれば、手軽に生活に取り入れられ、美味しく、それでいて健康に繋がる食品を開発できないものか──。
ミツカンの新ブランド「Fibee(ファイビー)」は、そんな健康不安を抱える生活者を食の面からサポートすべく誕生した。体の中から健康をサポートする発酵性食物繊維に着目し、手軽に楽しむことができる食品などを開発している。
そんな「Fibee」から新たに「バウムクーヘン」が発売される。商品の企画から開発・発売までを一貫して行ったという開発担当者である夏目岬に、開発の裏側にある商品への思いを聞いた。
夏目岬。入社6年目。イノベーション開発部で開発とマーケティングを担当している
発酵性食物繊維を手軽に楽しんでもらうために
ミツカンの創業は1804年。造り酒屋であった初代中野又左衛門が酒粕酢の醸造に挑戦したことから始まった。それ以来ミツカンは、酢を筆頭とした調味料や納豆を主力製品として事業を展開している。そんなミツカンが一見関連性のないお菓子を作っている。
「Fibee」から発売される商品の一番の特徴は、発酵性食物繊維を多く含んでいることだ。発酵性食物繊維とは腸内で善玉菌のエサになる食物繊維のことで、穀類や果物類、豆類などさまざまな食材から摂取することができる。
しかし、食生活に取り入れやすい葉物野菜からは摂取しにくいこともあり、日本人のほとんどは1日の必要摂取量が取れていない。また、発酵性食物繊維にはイヌリンや難消化性デキストリンなどの種類があり、それらを毎日バランス良くとることが健康には大切だと言われている。そこで考えたのが、発酵性食物繊維をいつでも手軽に楽しめるブランド「Fibee」だ。
夏目は「健康食品として捉えてほしくないんです」と話す。「味はもちろんのこと、商品のシズル感を意識してパッケージにもこだわっています。ですので、パッと見て「かわいい」「美味しそう」というので手に取っていただきたい。食べてみて、その後に健康にも良いんだと認識してもらい、そこからFibeeへの理解に繋がればと考えています」
それと言うのも「Fibee」は健康意識が緩い層をターゲットとしている。そうした人々が手軽に食べることができ、摂取し続けることで結果的に健康になる──。美味しく食べることが健康習慣を作るというわけだ。
目指すのは美味しさと健康感の両立
今年で入社6年目となる夏目はイノベーション開発部に所属している。元々、商品の開発という仕事に興味がありミツカンに入社し、原料の開発や特許に関わる業務を行っていた。現在は「Fibee」専任として開発からマーケティングにまで携わっているが、それは新たな領域でのチャレンジであったと言う。そんな彼女が今回挑戦したのが「Fibee」の新商品となる「バウムクーヘン」の開発だ。
これまでに「Fibee」は、ワッフルやビスキュイなど、お菓子系の商品を発売している。ワッフルは腹持ちが良く、朝食や昼食にぴったりだ。ビスキュイは仕事や勉強の合間の間食として現在人気だと言う。バウムクーヘンは、デザートとして食べられる商品のひとつとして開発された。
特にこだわっているのは原料の部分だ。発酵性食物繊維を多く含みつつ、美味しさも確保する必要がある。「Fibee」のバウムクーヘンにはおから粉と玄米粉が使われているが、この組み合わせを見つけるまでに大麦粉や小麦ブラン、全粒粉などいくつもの原料を試した。
最初に全粒粉で作ったものはパサつきがすごく、社内からは「これは商品にはできない」という反応が返ってきた。色々と試す中でおから粉と玄米粉の相性に気付き開発を進めていくと、これが綺麗にはまって美味しくできた。完成したバウムクーヘンの味わいを夏目は「Fibeeらしい」と表現する。
「美味しいんだけれど、健康感があるというか。食べて罪悪感がないことがFibeeらしさかなと思っています。砂糖をたくさん使えば甘くて美味しいものができるけれど、そうじゃない美味しさを作っていかなくてはいけない。それを実現するために、穀物原料を多く使いながらも美味しく仕上げることを大切にしていました」
ただ甘さを控えめにするだけでは、美味しくないバウムクーヘンになってしまう。まず、味の厚みを出すために三温糖や香ばしい風味を持つ玄米粉を使用した。また、美味しさを感じ取りやすくするためには、食感も良くする必要がある。それにはイソマルトオリゴ糖シロップを使った。健康感と美味しさの両立を実現するため、素材への妥協を許さなかった。
また、いくら健康的なおやつと言えど、カロリーが高いと手が伸びにくい。そうした生活者の気持ちを汲んで、バウムクーヘンのカロリーは156kcalに抑えられている。これも夏目ならではのこだわりだ。
「できることはしよう」厳しい状況でも発売は遅らせたくなかった
一般的なバウムクーヘンは、小麦粉や上白糖などを材料に作られる。当然だが、市場に発酵性食物繊維とおから粉、玄米粉を使った商品は存在しない。そして、ミツカンにもそういった材料を使ってバウムクーヘンを作るノウハウはなかった。
そのため、7月の頭に行った1回目のテスト生産ではバウムクーヘンが割れ、商品にならないものが多くできた。また、このタイミングでは大幅な処方変更はできず、このままでは発売延期せざるを得ないという状況にまで追いこまれた。しかし、社内・社外の関係者と議論を重ね、8月の頭に2回目のテスト生産を実施。処方を少し変える必要があったものの、なんとか3ヶ月間で形にすることができた。
「一番大切にしていたのは、諦めないことですね。できることはしようと常に思っていました。発売を遅らせないようにリカバーする方法をめちゃくちゃ考えて、社内の他部署の方とも議論して、これならできそうという道筋を探って行きました」
パッケージや容器の部分は「Fibee」のメンバーにも協力してもらってはいるが、それ以外の部分は材料選びから処方の決定まで、自身で責任を持って推進してきた。迷うことがあれば上司やチームのメンバーに相談し、自信を持って生活者に届けられる品質を追い求めてきた。
そんな夏目の強い思いが「Fibee」が目指すギルトフリーなバウムクーヘンの生産に繋がった。
「健康は必ずしも頑張らなくて良い」
発売前の心境について聞くと「やっぱり嬉しいですね。あとは、楽しみという気持ちもあります。早く生活者の方々に手に取っていただき、感想を聞きたいです」と、バウムクーヘンへの期待を滲ませながら楽しそうに話してくれた。
写真奥は既存商品。手前が今回発売する「ほろあまバウム プレーン」。
今回発売するバウムクーヘンを含めて「Fibee」の商品は全部で9種類となる。2024年3月にブランドをローンチしてから、ハイスピードで商品を展開してきた。バウムクーヘン発売後の今後の展望については、生活者の反応を見て決めていくと言う。反応によってはフレーバーを追加することも検討するかもしれないが、全く別の商品を開発する可能性もある。
最後に「Fibee」を通して生活者に伝えたいことを聞くと、このような答えが返ってきた。
「健康を目指すうえで必ずしも頑張らなくても良いことを伝えたい。Fibeeのように手軽に健康をサポートする食品もあることを知っていただけたら」
手に持っているのは善玉菌(酪酸菌)をモチーフにしたキャラクター。キャラクターがきっかけで興味を持つ方も。
発酵性食物繊維が入った食品を生活に無理なく取り入れられる「Fibee」の商品。健康感と美味しさの両立の裏側には、開発者の諦めない気持ちがあった。