禁煙を勧める超意外?な理由【道越一郎のカットエッジ】
喫煙者にとっては肩身の狭い世の中になった。喫煙できる場所はどんどん減少。吸えたとしても加熱式タバコのみの所も多く、紙巻きタバコはさらに迫害されている。私もタバコを吸っていたが、20年ほど前に止めた。本当に止めてよかったと思っている。しかしその理由は、健康上のものでも、グルメ上のものでも、社会的なものでも、経済的なものでもない。
禁煙してよかったと思った最大の理由は「タバコとライターを持ち歩かなくて済む」ことだ。タバコを止めて、これが一番「せいせいした」。出かける際の「あれ、タバコ持ったっけ?」がなくなるのだ。とてもすがすがしい。鍵に財布、スマホにタブレットと、やたら持ち物が多くなっている昨今。素晴らしい利点だ。
喫茶店でタバコ、というのが当たり前の時代もあった。
自分と同じイムコのライターを使っている人に出会ったのは、
長い喫煙人生の中でわずか2回だけだった
喫煙者ならタバコとライターは必携。家に忘れて出かけてしまうと、好きな時に吸えずにイライラする。なるべく早くどこかで調達しなければならない。最寄りのコンビニで買おうにも、お気に入りの銘柄があるとは限らない。間に合わせの銘柄にするか、その銘柄を売っている店を探すかで悩む。時間の無駄だ。ライターもしかり。100円ライター(今は150円ぐらい?)の愛用者なら、既に家にはゴマンとあるはず。持って出るのを忘れれば、追加の代金を払って不要なライターをさらに増やすことになる。ちょっと洒落たライターの愛用者なら、お気に入りのライターが使えず一日イライラして過ごすことになるだろう。私が吸っていた頃、加熱式タバコはなかった。加熱式タバコなら、その上「充電」という面倒なオマケまで加わる。
「粉と化したタバコの葉に悩まされずに済む」というのも、禁煙の大きなメリットだ。紙巻タバコを胸ポケットに入れて持ち歩くと、なぜか粉状の葉がタバコの箱から漏れ出して、ポケットの最下部にたまっていく。汚らしいことこのうえない。糸に絡んでへばりついたりするので、服を着たまま粉を排出することはほぼ不可能。脱いでポケットをひっくり返してパンパンと叩かないと取れない。しかも、ポケットに粉をためたまま水にぬらそうものなら、変なシミまでできるという厄介者だ。これも全く気にする必要がなくなる。
そういえば、タバコもライターも値上がりが激しい。私がよく吸っていた銘柄は「ウインストン」。当時はまだ200円台だった。それが今や530円。軽いランチが摂れる値段だ。ライターは、ヨーロッパのジッボと言われていたイムコの「スーパー」を愛用していた。オーストリア製のオイルライターで当時の価格が800円とか900円。ジッポよりも安くて小さく軽いのが気に入っていた。ライターで火をもてあそぶのも、タバコの楽しみの一つだった。知らなかったのだが、イムコは12年にライター製造から撤退したという。ところが翌13年、日本の輸入代理店だった柘製作所が「IMCO」ブランドを設計図ごと買い取り、14年に復刻。販売を再開している。復刻版のイムコ・スーパーの価格は2800円ほど。タバコを止めたことで、結果的にこのような出費からも免れることができた。
読むだけで絶対やめられるという
強気のサブタイトルが有名な「禁煙セラピー」
ただし、タバコを止めても、健康になったとか食事がうまくなったとかの恩恵はほとんど感じられなかった。それどころか、間食が増えた結果激しく太るという副作用をもたらした。しかし、タバコのないすがすがしさ、身軽さは、何にも代えがたい値打ちがあった。ということで、やはり禁煙をお勧めするわけだが、禁煙には苦痛がつきもの。そこで、私が禁煙した際に助けになったものをいくつかご紹介したい。まずは、アレン・カー氏著の書籍「禁煙セラピー」。理路整然と理性に訴え、強い意思を必要とせず読者を禁煙に導く良書だ。会計士だったカー氏は、もともとヘビースモーカー。自身が禁煙に成功した経験を糧に禁煙クリニックを開業し、40か国以上に広げたという。ところが肺ガンを患い72歳の若さでこの世を去った。著者は皮肉な結末を迎え生涯を閉じたわけだが、本書に記されたメッセージは、今でも力強く生き続けている。
もう一つ、禁煙の助けになったのは、PCソフトの「禁煙マラソンカウンター」。禁煙を始めてからの日数、その間吸わなくて済んだタバコの本数、禁煙で伸びたと思われるおおよその寿命、禁煙によって節約できた金額などがカウントできるものだ。禁煙の期間が伸びてくると、これをリセットするのがもったいなくなり、ついつい禁煙が長引いてしまう、という仕組みだ。古いフリーソフトだが、Windows10環境でも動作した。現在では、同様のスマホアプリも数多く提供されている。例えばAndroid用では「禁煙アシスタント」のダウンロード数が多いようだ。他にも「禁煙ウォッチ」や「禁煙カウンター」が有名どころ。日々の記録がたまっていくのが面白く、結構役に立つと思う。
禁煙の継続を助けてくれた「禁煙マラソンカウンター」。
禁煙した日時と喫煙していた本数、20本当たりの値段を入力すると、
禁煙継続時間、浮いたタバコ代、伸びた寿命などを自動計算してくれる
口寂しさを紛らわすものも必要だ。何か咥えていないと落ち着かないという幼児のような欲求を解消するものだ。これは粒ガムでごまかした。ボトルで買ってきて机上に常備。いつでも噛めるようにしていた。ただし、できるだけカロリーが低いものを選ばないと、激太りへの第一歩になってしまうため要注意だ。
昭和の時代、男性の過半が喫煙者だった。あらゆるところで喫煙できた当時、勤めていた会社でも咥えタバコで原稿執筆というのは日常の風景。事務所全体がタバコの煙で真っ白になっていたのをよく覚えている。その中でタバコ嫌いの女性校正者が、小型の扇風機を外向きに置いて、タバコの煙を逃れようとしていた。今思えば申し訳ないことをしたものだ。現在、日本の喫煙率はおよそ15%。男性に限ると約25%だという。だいぶ減ったとはいえ、それだけの喫煙者がまだまだ頑張っているわけだ。しかし、特に20年の改正健康増進法で屋内が原則禁煙になって以降、禁煙圧力はどんどん高まっていることだろう。筒井康隆氏の「最後の喫煙者」よろしく、最後の一人にでもなれば天然記念物として保護されるようになるかもしれない。しかし、それまでは長い長い茨の道だ。タバコを持たないすがすがしさを手に入れるためにも、そろそろ白旗を上げて、禁煙してみてはいかがだろう。(BCN・道越一郎)