家族4人で海外移住して3か月、親の心がぐらついた“次男のひと言”。「教育移住」のリスクを当事者が告白
こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
我が子のため、より良い教育環境を求め家族で海外に移り住む「教育移住」という選択が近年注目されています。
2023年12月にマレーシアのペナン島へ家族4人で教育移住をして、現在も滞在中のねこ田さん一家。長男は現在9歳、次男は5歳と、言語の習得をしながら、日本とは異なるカルチャーに揉まれ、それぞれ成長を続けています。前回記事では、コロナが明けて働き方や子どもとの関わり方を見直すことで、海外移住を決意した経緯について紹介しました。
2本目となる今回は、移住の準備や生活基盤の整え方について、海外教育移住の発案者であり、自身のInstagram(@necolife_penang)では移住の経緯やマレーシアでの生活のようすを漫画で紹介している妻のねこ田さんにお話を聞きました。
◆教育移住で最初の準備は仕事の整理
海外教育移住の準備といえば、ビザや住まいの手配、子どもの学校や語学の準備などなど、膨大なタスクがあるように感じます。その発想が“海外素人”なのかもしれませんが、留学経験のない筆者は、「いつか海外に行きたいな~」と思いながらも、イメージされる準備の大変さに尻込みしてしまう一人です。
こうした考えをシェアした上でねこ田家のケースを教えてもらうと、意外にも「準備期間は半年」だったと話します。半年ってかなり短いような……実際何をどうしたのでしょう。
「我が家が正式に海外教育移住を決めたのは、2023年5月です。コロナ禍が明けてすぐのタイミングですね。そこからまずやったことは、仕事の整理や転職準備でした。私は勤めていた会社を移住のタイミングで1回辞めることにしたので、プロジェクト的にいつだったら迷惑がかからないかを見定め、8月頃に退職の意向を伝えました。夫は同職種で海外フルリモートが許される会社への就職を決めるべく、転職準備をすぐに開始しました。そこから諸々の準備を進めるのですが、正直一番大変だったことは、家財道具の整理だったかもしれません(笑)」
◆準備期間は半年!大体が掃除に追われる日々に
家の整理が一番大変!? 思わず筆者も聞き返します。だってそれって、普通の引っ越しとなんら変わらないではありませんか。もっと手続きや学校選びに苦戦するとか、そういう“海外っぽいこと”を想像していたので驚きます。
「私は英語ができますし、手続き関係はやればやっただけ前に進むので、特に困った事はありませんでした。語学力がない方でも、エージェントを活用することで、手続き関係はクリアできます。英語の準備については、長男(当時8歳)は渡航4か月前くらいからコツコツ始めましたが、日本にいる間に飛躍的に身についた実感はありませんね。
もちろん語学は事前にある程度やれるに越したことはありませんが、ウチは準備期間も短かったので、次男と夫はまったく準備をせずに渡航しました。それよりも我が家の場合は、自宅を整理してどうするかという問題が、とにかくずっと悩みの種でした。我が家の海外移住は夫のビザの関係上、2年で一時帰国が決まっています。その間家を貸すか、そのままにするか、何を持っていくのか取捨選択する必要があります。私は物は使わなければ捨てればいいと思うタイプですが、夫は『捨てるのはもったいない』と思う性格です。
ここで意見が分かれ、家も貸したくないという夫の意見を採用し、家財を整理したりメルカリに大量に出品したりと、大変でした。現在日本の自宅は、大物家具を残した状態で空き家にしています。セキュリティを入れ、月1回母親に換気や水周りの管理をお願いしている状態です。日本とマレーシアの2か所で家賃を支払っているため、コストがかさむのですが、我が家的には仕方ないこととして受け入れています」
◆渡航直後、息子がつぶやいた一言に心がグラついたことも
「仕事の整理と各種手続き以外は、ほぼずっと片付けをしていた」と準備期間を語るねこ田さん。とはいえ、半年で無事渡航できるのはかなり順調に準備が進んだように感じます。当時を振り返りながら、“心が折れそうになった瞬間”はあるのか聞くと、準備期間ではなく現地入りした後のことを、少し複雑そうに語ってくれました。
「準備期間は大変でしたけど、一度決めるとブワーッと頑張れる性格のため、心が折れそうになったことはありません。ただし、渡航後にグッときた出来事はありましたね。それは、下の子が渡航3か月くらいたって学校の様子を話してくれたときに、『友達が僕と遊んでくれないから楽しくない。日本語を喋りたい』と言ったんです。このときは『本当にこの選択はよかったのかな』って、凄く心がグラつきました。結局当時は『5歳だからそういうこともあるか』って考えて切り替えましたが、やっぱり子どもに何か言われると、親としては心が折れそうになりますね。現地で知り合った親御さんに聞いてみると、皆さん総じて、子どもから『日本に帰りたい』って言われるとグサッとくると言っていますね」
ある意味子どもが日本を恋しがるのは、海外移住の通過儀礼的なものなのかもしれません。その言葉をすぐに叶えられない以上、親としては現地生活を最高のものにするために、全力を尽くすしかありません。
◆子どもが移住生活に馴染めないリスクをどう考えるのか
海外教育移住を語る際、リスクとして語られることの一つは、子どもが現地の環境に馴染めないとか、語学の壁を超えられないという問題です。実際ねこ田家も、渡航3か月で下の子が学校への登校しぶりを経験したわけですが、こうしたデメリットはどう考え、対策を取っているのでしょう。
「我が家の場合は、『風邪やいじめとかでない限り、学校に行かないってオプションはないよ』と常々伝えていました。ただ周りを見ると、子どもが学校に馴染めずに苦労しているケースを見かけたことはあります。一般的に、セカンダリーと呼ばれる中学生以上の年齢になるとケアは大変になりますが、Y1(日本の小学1年生)の頃の学習面の問題は、マレーシアではサポートの選択肢が多数あります。
例えばインターナショナルスクールに籍を置きつつも(ビザのため)休学して一軒家を学校に変えた学童保育施設のような場所があったり、ローカルの幼稚園に入れたりすることもできます。セカンダリー以上の場合、学校に行きたくないと子どもが言うと、オンライン学習や家庭教師のようなチューターを雇うことで、学習のサポートはある程度できます。しかし環境自体がダメならどうしようもありませんから、こうなると帰国を選択される方が多い印象です。
マレーシアのインターは日本ほど高くはないものの、移住そのものは教育費に多額の投資をしている状態です。だからこそ、ダメならダメと諦めて、また道を模索する方が多いのではないでしょうか」
海外移住という言葉には、キラキラしたイメージも抱かれがちです。しかし実際の準備や子育てのリスクを聞くと、それって日本で子育てをしていてもよくある問題かもしれないなと気付かされることもたくさんあります。
皆さんは自ら海外生活を選んで送るという選択を、どう感じるでしょうか。
【ねこ田】
2023年末よりマレーシアはペナン島に教育移住中。9歳5歳の子どもたちは現在現地のインターナショナルスクールに通っています。教育移住のあれこれをInstagram(@necolife_penang)にて配信中。
<取材・文/おおしまりえ>
【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518