「まさか息子がウクライナへ」北朝鮮兵の家族ら動揺…「すでに戦死」情報も
北朝鮮兵士の実戦投入が目前に迫っている。リトアニアのNGO「ブルー・イエロー」のヨナス・オーマン代表は、同国の公共放送LRTとのインタビューに、同NGOが支援しているウクライナ軍部隊が25日、ウクライナが占領しているロシアのクルスクで、北朝鮮兵士の存在を目視したとの報告を上げてきたと述べた。
オーマン代表は、「私の知る限り、北朝鮮人は1人を除いて全員が殺害された。彼はブリヤート人であることを示す書類を持っていた」と述べた。北朝鮮兵士は、ロシア軍第11軍団の「特別ブリヤート大隊」に配属されたとの報道がある。
(参考記事:金正恩命令も完全無視…ウクライナ派兵「特殊部隊」のグダグダな実態)
ロシア派兵について、北朝鮮の国営メディアはいっさい報じていないが、国内の一部では噂が広がっている。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
中国との国境に接する恵山(ヘサン)市民の間で、ロシア派兵についてのニュースが広がっている。この地域では、本来は違法である中国キャリアの携帯電話を使って中国とやり取りする人が多く、このルートを通じて、北朝鮮政府が公にしていない情報が伝わることがあるが、今回もそうだった。
中国キャリアの携帯電話を使っている人から、「わが国(北朝鮮)がウクライナと戦っているロシアを支援するために兵士を送った」との噂が一気に広がったとのことだ。
ただ、派遣された兵士の所属部隊など具体的な情報は伝わっておらず、様々な噂が飛び交っている。
「この機会にロシアからなにか大きなものを得ようとしているのだろう」として、特殊部隊の兵士を派遣したのではないかとの見方を示す人もいれば、「他国の戦争だから、武器を少し扱える一般兵士を送ったのだろう」との見方を示す人もいる。
そんな中で、子どもが兵役中の親たちの間では、「もしかして自分の子どもがウクライナ(ロシア)に派遣されたのではないか」と不安が広がっている。軍当局は、情勢が緊張しているとの理由で親の面会を受け付けず、兵士の外出や休暇も許可していない。子どもと連絡が取れなくなった親は、心配で夜も寝られずにいるという。
息子を軍に送り出した恵山市在住の50代の市民は、次のように述べた。
「派遣の知らせを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。落ち着かず、すぐにでも息子の部隊に行きたいと何百回も思ったが、面会ができないと言われ、胸に灰が残るようだ」
また、別の40代の市民は、政府のやり方に疑問を呈した。
「10年間の兵役だけでも理不尽なのに、派遣させられるのはおかしい。帰ってこられる人は何人いるのか。五体満足で帰ってこられるという保証もない」
両江道の東隣の咸鏡北道(ハムギョンブクト)にも、ロシア派兵の噂が伝わっている。
現地のデイリーNK内部情報筋は、中国とロシアとの国境地帯の住民の反応を伝えた。
「中国の携帯電話を使う人たちを通じてロシア派遣のニュースが広まり、軍に服務中の息子を持つ親たちが心を痛めている。どの部隊の兵士が派遣されたのか分からないので、親たちは様々なルートで自分の子どもの状況を知るために必死に努力しており、中には事前の許可なく息子のいる部隊を訪ねたり、占い師を訪ねたりする親もいる」
さらに、国境から離れた内陸地域にも、派遣の噂が広がっている。国境に接する地域にいる商人と頻繁に連絡を取っている商人がこの話を聞かされ、そこから地域に広まるという流れだ。
国境に接する地域の朝鮮労働党や安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)の幹部が、内陸地方で兵役を務めている自分の息子たちが居場所を確認していたことも伝わり、噂の拡散スピードをさらに速めた。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、10月25日ごろから、現地の住民の間で派遣の噂が広がっていると伝えた。
「初めは単なる噂だと思っていた人が様々な方面からの情報を聞き、事実であると確信するようになった。特に息子を軍隊に送った人は大きなショックを受けている」
普段から連絡が取りづらい状況ではあり、「ニュースがないのは良いニュース」だと考えていた人々も、今回の話を聞き、子どもたちが心配になり、無事を確認するために慌てふためいているとのことだ。
さらに、「ロシアに国境地域出身の兵士は派遣せず、平安南道、咸鏡南道など内陸部の汚れのない出身(身分に問題のない)の兵士だけを選抜して送った」という根拠不明の噂も流れ、心配をさらに煽っている。
(参考記事:北朝鮮軍が「長期的な弱体化」を宿命付けられた決定的な理由)
なにかの事件の噂で社会不安が起きると、朝鮮労働党や保衛部がかん口令を敷くなど沈静化に乗り出すものだが、今のところ、そのような動きはないと情報筋は伝えている。そして、やはりワイロで問題を解決しようとする人も現れた。
「一部の幹部は自分の子どもが派遣されることを恐れて、お金をかけてでも対象にならないように努力している。力のない一般住民は運命に任せるしかないとため息をついている」(情報筋)