金正恩「韓国は敵だ」宣言に、幹部も国民も冷ややか

金正日総書記(左)と金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮は10月16日、韓国との間を結んでいた道路と鉄道を爆破撤去した。国営の朝鮮中央通信はその翌日、「朝鮮南部国境の東・西部地域で大韓民国と連結された道路と鉄道を完全に閉鎖」と題した記事で、このことを伝えた。

北朝鮮はこれ以降、南北朝鮮を隔てる軍事境界線を「南部国境」と呼ぶようになった。この件に関して、幹部に対しての説明に続き、一般国民への説明も行われた。ただ、彼らの反応は冷ややかなものだった。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮の幹部たち「希望が消え去り」暗い表情)

北朝鮮当局は、朝鮮労働党の党組織のみならず、社会主義愛国青年同盟(青年同盟)、朝鮮職業総同盟(職盟)、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)などで、道路・鉄道の爆破について説明する講演会を実施した。

講演者は、爆破シーンの画像を見せながら、「これは敵の軍事的挑発策動から人民を保護し、朝鮮の主権を正当に行使するための措置」だと説明した。

また、平壌市内の青年同盟で行われた講演会では、「われわれが頭の中で認識してきた『一つの民族』『統一』に対する概念を完全に消し去らなければならない」との話が伝えられた。

話は以下のように続いた。

「韓国との往来や交流に対する考えも完全に根絶やしにしなければならない」

「韓国は同じ民族や統一の相手ではなく、われわれが必ず占領しなければならない地」

「われわれのすべての軍事的措置は合法的だ」

しかし、このような講演会に対する聴衆の反応は「戸惑い」と「冷笑」だったという。

党幹部からは、「首領様(故金日成主席)と将軍様(故金正日総書記)の遺訓を否定できようか」との戸惑いの声が上がっている。

北朝鮮において「先代首領様がたの遺訓貫徹」は国是だ。金日成氏が提唱したチュチェ(主体)農法など、非科学的で明らかに間違った政策であっても、遺訓との理由から金正恩総書記と言えども無碍に扱えないものだった。

ましてや朝鮮半島の統一は、民族の至上命題とされてきた。それを、金正恩氏がいともたやすく覆してしまったことに、否定的な空気が流れている。

一般国民からも似たような反応が出ている。

「祖国統一は必ず成し遂げなければならないことなのに、いつ頭から完全に消せというのか」

「同じ民族ではないと宣言するだけで、5000年の悠久の歴史が一瞬で消えるものか」

一連の措置に表立って反発を示す人こそいないが、反発は容易に収まりそうにない。

それを知ってか当局は、憲法改正の具体的な内容を明らかにしていない。国内での影響を考慮し、状況を見ながらいかに公開するかを調整しているものと見られる。なお、対外的にも内容を明らかにしておらず、朝鮮中央通信が配信した記事にある「大韓民国を徹底的な敵対国家として規制(編集部注:ママ)した共和国憲法の要求」という部分しかわかっていない。

(参考記事:北朝鮮「韓国は敵対国家」と憲法改正か…南北連結道路・鉄道の爆破を発表)

これについて韓国政府系のシンクタンク、統一研究院のオ・ギョンソプ研究委員は、「北朝鮮当局が今回の憲法改正に関する具体的な内容公開にかなり慎重な姿勢を見せている」「北朝鮮当局はこれまで北朝鮮主導の赤化統一路線を達成するという連邦制統一案を統治の根幹として掲げ、これを名目として住民の犠牲を強いてきたため、敵対的2国家論は北朝鮮住民が容易に受け入れられるものではないだろう」と指摘した。

また、「一般住民とエリート層が敵対的2国家論や、統一と民族の概念の削除に関連する措置を徐々に受け入れられるように速度調整をしていると思われる」「組織別講演会もこのような文脈上で解釈できる」との分析を示した。

2024/10/30 12:16

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます