仮想通貨サギの被害で孤立した女性の“てん末”「目覚め」を説く人気カウンセラーを信じ行き着いた果て

―連載「沼の話を聞いてみた」―

いま買わないと損をするー多かれ少なかれそんな思いに駆られることは、誰しもあるだろう。ところが元会社員の小山田真希(仮名)さんは、そうした感情を極限まで煽られた。

「いますぐにやらないと、光の世界に行くことができなくなる」そう煽ってくるスピリチュアル商法に3年の月日と数百万の資金を費やしたのだ。

スピリチュアルカウンセラーが語るファンタジーな世界観に、突然ハマったわけではない。判断力を著しく低下させる出来事が、まず先にある。

2017年ごろの仮想通貨ブームで、詐欺にあったのだ。典型的なポンジスキーム(※)だった。

(※高配当などを謳って投資させ、実際には運用せず後から集めた金を「配当」と偽って渡し、頃合いを見て計画倒産などで逃げるという投資詐欺)

「はじめは順調に利益が出ているように見えていたので、すっかり信用して友人も誘ってしまいました。ところがあるときから利益配当が止まり、最終的に元金も戻りませんでした。このような投資詐欺があることも、これをきっかけで知りました。わたしの学のなさが招いた結果です」(小山田真希さん 以下同じ)

◆詐欺で失ったもの

当時、真希さんは仮想通貨にも手を出していた。「これから上場し値上がりする」という謳い文句に誘われて買ったが、残ったのは大きな損失だけだった。

仮想通貨と投資詐欺。真希さんはまずその2件で、貯蓄の一部である500万円を失った。高すぎる勉強代だ。

「友人や職場の人も勧誘してしまったので、人間関係も崩壊しました。職場でいたたまれなくなり、退職。自分が悪いのは重々承知していますが、手のひらをかえすような態度に人間不信になり、メンタルもボロボロです。どん底の日々を送りました」

◆次なる沼との遭遇

「老後資金は自己責任」と煽られたり、また、生活に余裕がない人がほとんどと言われる今、金融情報は多くの人の関心事だろう。しかしハイリスクが過ぎた。

金と友人と仕事が失われた失意の日々を送っていたが、見かけた書籍で心の穴を埋めるものを見つけた。

それは、スピリチュアルコンテンツだった。

次の沼が、現れた。

真希さんは当時の心境をこう語る。

「この苦しみを招いた責任は、自分にないと思いたかったんですよね。何か超自然的な力が働いたことを、原因にしたかった。運や因縁……いわば、犯人探しに近いかもしれません」

運が悪い、方角が悪い、波動が悪い。超自然的なものに翻弄されたという、物語を求めたのだ。

満たされない不満を「ディープステート(闇の政府)」などの仮想敵にぶつける、陰謀論者の心理にもよく似ているように思える。

そうして真希さんは熱心に関連書籍を読んだり、占いに通ったり、ネットで情報をあさったりと、スピリチュアルの世界へ没入していった。

当時ハマっていたものは、幅広い。龍神、宇宙存在からのメッセージ、波動を上げる方法、引き寄せの法則、宇宙銀行、スターシード、風水、神社参拝にトイレ掃除……手あたり次第、という印象である(それぞれの説明はここではしないので、ご興味ある方は検索してほしい)。

◆目醒の扉が閉じちゃう!

2018年、そのようにスピリチュアル情報を彷徨(さまよ)うなか、ネット上で注目を集めていたスピリチュアルカウンセラーA氏のこんな言説が、真希さんのツボを射貫いた。「目醒め」という概念だ。

その言説の一部を紹介しよう。

・人類はいま、急激に次の次元へ移行している。それは大いなる宇宙の意思による、進化である。しかしその世界へ行けるのは「目醒めた人」のみ。

・目醒めにはタイムリミットがある。2021年のとある節目に、目醒めの扉は閉じられるので、直前である今が最終チャンス。

・扉が閉じたあと、目醒めることができた人は、幸せな世界を生きることができる。

◆煽られ、選択を迫られる

筆者も試しに、その人物の本を読んでみた。このあたりが真希さんの心をくすぐったのかと想像できる部分は次のような内容だ。

・目醒めの準備に入っている人は、目を醒ますためにみずから困難を作り出し、可能性を引き出そうとする。

・光が強くなるぶん、闇もまた濃くなるからだ。それは好転反応なようなもの。困難を乗り切ることはデトックスのようなもの。光の世界に行くための変えるチャンスなのだ。

つらい出来事をポジティブに変換してくれそうな言葉がたくさん載っていた。A氏のYouTubeも見てみると、年齢不詳で柔らかな物腰の人物であった。静かに淡々と不思議な世界を語る姿が、どことなくミステリアスだ。

真希さんは、次のようにふり返る。

「2021年のタイムリミットまでに目醒めを選んだ人は天国のような人生を送り、目醒められず眠りを選んだ人は地獄のような人生を送る。そして、その選択は今後の人生において覆ることがない。となれば、自分も目醒めの世界に行きたい。それしか考えられくなっていきました」

もう二度と、苦痛を味わいたくない。今後の幸せを、約束されたい。そうした思いが強まっていき、仕掛け人であるスピリチュアルカウンセラーA氏の世界観にどっぷり浸っていった。

その類の「目醒め」では、瞬間移動などの超能力が当たり前の世界になるとか、病気が存在しなくなるとか、宇宙人との交易がはじまるとかの夢物語もついて回るので、なかなか素直に受け取りにくいものがあるが、投資詐欺によって茫然自失となっていた真希さんは、自分にとって魅力的な部分だけに注目していたようだ。

◆焦燥感からセミナー参加

こうしたスピリチュアル情報は、気持ちのあり方を模索するための手助けとして利用するには問題ないだろう。しかし、よりよい実践のために、有料セミナーへと誘導されるのがお約束である。

真希さんも、そのルートへと流れていった。沼である。

「目醒めのために、波動を上げる必要がある」とされ、そのための技術を学ぶセミナーに参加した。

「そのスピリチュアルカウンセラーA氏が主催するセミナーに、合計数百万円使いましたね。セミナーは1日5~10万円、3カ月集中講座的なものになると30万円くらいでした。家でも毎日波動ワークなるものを実践し、いまの世界から早く抜け出したいと思っていました」

◆ついに来た2021年…

2021年がタイムリミットと設定された、目醒めのセミナー。現在は2024年だが、受講者みな、無事(?)に、異世界転生のごとく、新しい自分を手に入れることができたのだろうか?

少なくとも真希さんは、できなかった。

「後出しジャンケンのように、“二度寝がある”と言い出したんです。一度目醒めても、また眠る可能性がある。実は目醒めは2038年が本番で、2021年からの4年間が勝負である。これから新しい地球のオーディションがはじまる、2025年に津波が来る。そんな感じの情報が、どんどん追加されていきました。2021年の扉が閉じたら再選択はできないといっていたのに……」

セミナーとは無関係の筆者でも、「なんじゃそりゃー!」と叫びたくなる。真希さんも、矛盾した話にすっかり気持ちが冷めた。

◆ビリーバーから、アンチへ

「何のことはない。投資詐欺と同じだったんです。投資詐欺の『この通貨の値が上がる』『いま通貨を持っておかないと絶対に損をする』という営業トークを、『目醒めのゲートが閉じる』『目醒めを選択しないと地獄にいく』と言い換えただけと、理解しました。そうなると類似のスピリチュアルコンテンツ発信者全員が詐欺師に見え、いまはもう嫌悪感しかありません」

ビリーバーが転じてアンチになるというパターンは、当連載でもたびたび紹介しているが、真希さんもまた同様の展開となったのだった。

◆これは自己責任か?

A氏の活動を応援する気持ちで講演会やセミナーに通うのであれば推し活と変わらないが、「これをやらないと大変なことになる!」と不安を煽られてのことである。

自己責任と言い切れない部分があるだろう。

「救われたい」と願う人の気持ちに付け込む沼は星の数ほどあるだろうが、これもそのひとつである。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】

自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

2024/10/23 15:45

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