『ベビわる』第2話、かつてない飯テロ系ドラマの忘れられない「まかない飯」の味

 テレ東が放つ、新しいタイプの飯テロ系ドラマはご覧になっていますか? 主人公の女の子ふたりが大いに働き、そして大いに食べるのが『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(毎週水曜、深夜1時~)です。ガールズアクション映画の大ヒット作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)が、地上波テレビに進出したという非常に稀有なケースとして業界注目度の高い作品です。

 普段はシェアハウスでうだうだした日常生活を送っている杉本ちさと(高石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)が、このシリーズの主人公です。冴えないフリーターだなと舐めていたら、実は凄腕の殺し屋コンビでした、というサスペンス映画あるある設定です。殺し屋モードに入ったちさと&まひろの、キレッキレの殺陣が見ものです。地上波テレビとは思えないハイレベルなアクションに加え、飯テロシーンも味わえるちょっとリッチな深夜ドラマです。

 では、9月11日に放映された第2話「社会に責任を伴うってなんだよ」を振り返ります。 

仕事のスキルは超一流だが、社会への対応力は低いまひろ

 第1話で金髪ショートのまひろは、尾行していた男を返り討ちにしました。実はこの男・夏目敬(草川拓弥)は、まひろとちさとも所属している殺し屋協会の人間で、大型プロジェクト「風林火山」に2人の起用を考え、リサーチしていたところだったのです。ちさと&まひろは、あやうく夏目を冷凍室で凍え死にさせるところでした。最悪の出会い方でした。

 そんな夏目から「風林火山」に起用するためのお試し案件として、ワケありな居酒屋への潜入バイトを命じられるのです。Z世代の女の子、ちさと&まひろはマイペースに生きることが一番であって、大型プロジェクトへの起用にはまるで興味がありません。また、殺しの腕前は超一流なまひろですが、黒髪ロングのちさと以外の人とのコミュニケーション能力は乏しく、一般社会での対応を苦手としています。

 シリーズ第1作となった劇場版『ベイビーわるきゅーれ』をすでにご覧になっている方は、ご存知かと思いますが、ちさと&まひろはメイドカフェでアルバイトした経験があります。ちさとがしっかり職場に順応したのに比べ、まひろはまったく役立たず状態でした。まひろにとって、アルバイト体験は恐ろしいトラウマとなっています。

 バイト潜入を嫌がるまひろに対し、夏目は「殺し屋ってマルチスキルが求められる業種なのでは?」「殺し以外のスキル磨かないと、将来困りますよ。将来のこと、考えていますか?」と厳しく責め立てます。

 そんな世間一般の常識に縛られるのが嫌で、殺し屋になったのに、この裏社会でも社会人として常識やルールを求められることに、まひろの脳内はブラックアウトしてしまうのでした。付き合いの長いちさとは、まひろの性質をよく理解しているので、その場を取り繕うわけですが。

 まぁ、特定のスキルには自信があるけど、営業活動や上司たちとのやりとりは面倒……という人はZ世代に限らず多いんじゃないでしょうか。

仕事を終えていただく「まかない飯」の美味しさ

 イヤイヤながら始めた居酒屋バイトでしたが、お店の雰囲気はアットホームで、店長(田中俊介)や先輩スタッフのベジータさん(二ノ宮隆太郎)、マユさん(海津雪乃)も温かい性格です。バイト初日からホールを切り盛りしているちさとに対し、まひろはオーダーを覚えられず、生ビールもうまくジョッキに注げずにいます。ちなみに、バイト中、ちさとは「とってぃー」、まひろは「ピー助」というニックネームで呼ばれます。

 失敗の連続で落ち込む「ピー助」まひろに対して、ベジータさんは「僕も1年間くらい本当に使えないヤツだったんですよ」と優しくフォローするのでした。働いた後にいただく「まかない飯」がすごく美味しそうです。とりわけ、「とってぃー」ちさとは店長が作った「まかない親子丼」が気に入り、「今度、レシピを教えてください」と頼むのでした。

 ちなみに、このベジータさん役の二ノ宮隆太郎は、個性派俳優として単館系の映画にちょくちょく出演している他、映画監督としても活躍中で、独特な佇まいが北野武監督を連想させることから「リトル・タケシ」とも呼ばれています。

 店長役の田中俊介は、第2話を担当した平波亘監督の『餓鬼が笑う』(22年)の主演俳優。女子バイト・マユ役の海津雪乃は「可愛すぎるビールの売り子」として話題になり、Netflixドラマ『地面師たち』の最終話にもちょい出演したグラビアアイドルです。お客役で『止められるか、俺たちを』(18年)の山本浩司も出ていました。第2話だけのゲスト出演がもったいなく感じられる、贅沢なキャスティングでした。

 こんなに温かく、楽しい職場だったら、コミュ障のまひろもバイトが続くかも。そう思わせた前半から一転、後半はちさと&まひろが裏の顔を見せることになります。実はこの居酒屋は犯罪者グループがヤバいお金を洗浄するためのお店だったのです。トラック運転手組合が実は犯罪者組織でもあったという、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(19年)の世界ですよ。

 その日のバイトが、無事に終わります。「あいつら、俺たちと同じ目をしてる。仲間にならないかな」とちさと&まひろに親しみを感じていた店長も、コミュ障のまひろと仲良くなったベジータさんも、インスタの更新に熱心だったマユも、ちさと&まひろのサプレッサー付きのハンドガンによって、あっさりとあの世送りにされるのでした。このときのちさと&まひろの目の冷たいこと冷たいこと。ドライアイスの塊を、片手でぎゅっと握りしめたかのような痛々しい冷たさです。

 居酒屋のホールに倒れたベジータさんのシャツは血で染まり、硝煙もかすかに漂っています。TVドラマらしからぬ、とてもリアルな殺しの現場です。世間の常識になじめずに悩み、悪酔いしていたまひろに親近感を抱いていた視聴者には、ショッキングなシーンだったのではないでしょうか。

 ちさと&まひろは生きづらさ、働きづらさを抱えるZ世代の象徴のようなキャラクターです。でも同時に『ベイビーわるきゅーれ』の「ワルキューレ」とは、北欧神話における戦場で死ぬ者と生き残る者とを選別する乙女たちであることを思い出させた瞬間です。ワルキューレは戦いの神オーディンに仕え、生殺与奪の権を握る存在なのです。

 慣れないバイトであたふたするのもまひろの本当の姿であり、また本業の殺し屋として平然とターゲットを処理できてしまうのも真実のまひろなわけです。すごく身近に感じるけど、実はとても遠い存在なのが、ちさと&まひろという女の子たちです。

ちさと&まひろは、視聴者の分身

 もちろん、ちさと&まひろはフィクション上の存在なわけですが、TVを観ている視聴者の分身でもあります。自分は非道なことはやらかしていないと思う人もいるでしょうが、日常的に着ているTシャツやパンツなどのファストファッションは、インドネシアやバングラディシュの女性労働者たちを搾取することによって生産されているものです。輸入雑貨店などでチョコレートやコーヒー豆を買うときも、値段の高めのフェアトレード商品ではなく、より値段の安いものをつい選んでしまいます。コンビニやファストフード店で食べるチキンナゲットやハンバーガーは、家畜を屠殺し、工場製品のように加工されたものです。

 みんなの中に、小さな捕食者、ちさと&まひろがいると言ってもいいんじゃないでしょうか。

 第2話のラスト、キッチンに立つちさとが作ったのは、「まかないの親子丼」でした。店長からレシピを教えてもらう約束でしたが、それはもう叶わないので店長の味を思い出しながらちさとが再現したものです。まひろも美味しそうにいただきます。今後、ちさと&まひろが親子丼を口にするたびに、店長たちのことを思い出すかどうかは分かりません。すでに、2人は数え切れないほど多くの人をあやめていますから。

 9月18日(水)深夜1時10分からスタートの第3話は「この子をお迎えします」。9月27日(金)より公開の劇場版第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ!』や伊澤彩織が超絶アクションを披露したホラーアクション映画『オカムロさん』(22年)の助監督を務めた工藤渉監督の担当回です。これまでの地上波テレビの常識を破るような内容を期待したいと思います。

2024/9/18 15:00

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