【リレーエッセイ「ラブレター from 酒場」】夏の酒の楽しみ/パリッコ

 日本には四季があり、その季節ごとのお酒の楽しみかたがあるのが、本当に素晴らしいところですよね。

 近年はなんだか日本が熱帯化しており、春や秋があっという間に終わってしまうという傾向にあって、夏好きの僕としてはむしろ、逆に嬉しいくらい。

 昨今の気候を鑑みますと、5~10月を「夏」と仮定していいと思うのですが、その間なんと6カ月。年の半分は夏であるというのが(あくまで僕の住む東京の気候が基準だけど)、現在の日本の現状なようです。

 やれ地球温暖化だとか何とか言われていますが、気温35℃を超える猛暑日であろうと、僕の家の近所にある大きな公園「石神井公園」などに出かけてゆくと、地中の水分による気化熱及び、ふんだんな木陰の影響ですかね。そこまで不快感はないんですよね。むしろ心地いいくらい。

 そう考えると、地球温暖化ってむしろ、アスファルトとエアコン室外機の問題なんじゃないかな、なんて思ったりもするんですが、このあたりの問題、あまり深掘りしてもなんなので、このへんにしておきましょうか。

 とにかく、熱いからといってエアコンの効いた部屋から出ないのではなく、熱中症には気をつけつつ、夏の風情を味わいながらうまい酒を飲む方法はいろいろとあるんじゃないかということ。

 真っ先に思いつくのが、「海の家」で飲むキンキンに冷えた生ビール。かつては、特においしいというわけでもない料理を称して「海の家のラーメンみたい」なんて表現がまかり通っており、また、それはそれでいい味わいだったりもしました。

 が、先日、江ノ島海岸に行く機会があってびっくりしましたね。砂浜沿いに、はるか彼方までずらりと並ぶ海の家。僕が子供の頃の感じと全然違うんですよね。生しらすなどのご当地グルメを売りにした店あり、白いテーブルとイスの、まるで地中海にでもやってきたようなおしゃれな店あり、イタリアンや韓国料理など、それぞれの持ち味に特化した店あり。これはもはや、海の家ハシゴ酒なんて楽しみ方もありかもしれません。

 他にも夏といえば、ビアガーデンにも行きたいし、花火を見ながら1杯なんてのも最高だし、ぜいたくではあるけれど京都の川床で飲むのにも憧れるし…。

 と、いろいろある夏の酒の楽しみですが、実は僕がもっとも日常的に楽しんでおり、心落ち着く時間でもあるのが「夕涼み」。我が家にはありがたいことに小さなベランダがあって、そこにホームセンターで買った縁台が置いてあるんですね。夕方に仕事がひと段落し、日中の暑さも多少は落ち着いたかなという頃、空きペットボトルにくんだ水で打ち水をし、小さな曲がりきゅうりを何本かと、みそを盛った皿、保冷缶クーラーに入れた缶チューハイあたりを持って、その縁台で軽く〝フライング晩酌〟をする。

 みそきゅうりの他のつまみは、刻々と表情を変える入道雲と、娘が小学校で育てて持ち帰ってきた朝顔、そして元気いっぱいに鳴くセミの声。これこそ夏の酒の醍醐味だなぁと、心の底から感じる瞬間です。

 さて、次回のテーマ。今書いていて思ったのですが、僕はなんだか無性に「きゅうり」が好きなんですよね。もろきゅうに梅きゅう、ぬか漬けなんか、酒場のつまみの定番ですよね。それにしては、なんだかその他の食材に比べ、ぞんざいな扱いを受けているようなイメージもある気もして。そこで、ナオさんは「きゅうり」について、どうお考えでしょうか?

パリッコ:酒場ライター。著書に「酒場っ子」「天国酒場」など多数。スズキナオ氏との酒飲みユニット「酒の穴」としても活動している。「缶チューハイとベビーカー」が絶賛発売中!

2024/9/8 18:14

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