わざわざ東京から行く価値アリ!福井・三国湊の名店『魚志楼』の「甘海老天丼」はなぜ旨いのか

●福井県坂井市の港町・三国湊(みくにみなと)の老舗料理店『魚志楼』の名物「甘海老天丼」の魅力とは?

 三国湊を訪れたのは、今年6月末のこと。目当ては、街の一角にある『料理茶屋 魚志楼(うおしろう)』の「甘海老天丼」でした。この魚志楼、かの居酒屋の大家・太田和彦氏も著書で絶賛している老舗です。

 この店の名物「甘海老天丼」の情報はネットで偶然みつけたのですが、写真を見た瞬間、無性に食べたくなりました。

 冒頭の画像のとおり、いわゆる誰もが思い描くオーソドックスな海老天丼とは違い、端正な佇まいの小ぶりな甘海老が5尾、静かにご飯の上に横たわっており、その上に黄金色に輝く見目麗しい玉子(らしきもの)がふんわりとかけられています。なんとも清楚で奥ゆかしい、ソソるビジュアルじゃありませんか。

 しかも、いにしえの時代より福井・三国湊の名物といえば、越前ガニと甘エビが二大巨頭。残念ながら越前カニはオフシーズン(旬は11〜3月)ですが、甘エビはギリギリでオンシーズン(旬は5〜6月・9〜1月)。とくれば、もう行くしかありません。

 こうして6月末、筆者は東京駅から新幹線に飛び乗ったのでした。そんなわけで、早速その『魚志楼』の「甘海老天丼」の魅力を皆さまにお伝えしていきたいと思います。

福井駅から三国湊へ

 JR福井駅から知人のクルマに便乗して約40分で三国湊に到着しました。この街は、江戸〜明治にかけて、北前船による交易で栄えた港町。周知の通り、北前船とは大阪〜北海道を日本海周りで往来した交易船で、各地の特産品を別の場所に運ぶことで、商人たちは莫大な富を築きました。

 その寄港地だった三国湊には、豪商の邸宅や商家、土蔵などが建ち並び、商人や武士、文人たちが芸者や遊女を料亭に呼んで、日本海の海の幸と地酒で夜な夜な大賑わいしたそうです。

 しかし明治期になって鉄道が開通し、物流の中心が陸運に移ると、街は徐々に衰退。北前船や商人で賑わった三国湊は、急に静かになりました。騒がしく活気あふれる表通りから急に人影が消え、さんざめきの残像だけが余韻として残っている……三国湊という港町は、そんな哀愁を感じさせる街です。

 いや、別にセンチメンタルな表現をしたいわけではありません。実際、通りをゆく人が極端に少ないせいで、ものすごく哀愁たっぷりに感じるのです。何しろ、投宿した宿から『魚志楼』に歩いて向かう15分ほどの道中、人間はおろか、野良猫一匹にすら遭遇しませんでした。

 三国湊には江戸〜明治期のレトロな建物が多いことも相まって、知人と二人で通りをトボトボ歩いているうちに、別世界に迷い込んでしまったような、ちょっと不思議で幻想的な気分になります。これがまたいいんですよね。

有形文化財にも認定された『魚志楼』で甘海老天丼をいただく

 そんなこんなで『魚志楼』に到着です。このお店、かつて井原西鶴が「北国にまれな色里あり」と評した三国湊を代表する花街・出村と呼ばれる界隈にあります。築100年、国の有形文化財にも指定されている町屋風の建物は、もともとは遊女の置屋だったそうで、言われてみればどことなく艶っぽい、独特の空気が漂っています。

 外には人っ子一人いなかったけど、ここには果たして人はいるんだろうか……やや不安に駆られながらこわごわ扉を開けると、何組かのお客さんで賑わっていてホッ。カウンターはすでにいっぱいだったので、小上がりのお座敷に案内されました。頼んだのは、もちろん「甘海老天丼」(1320円)です。

 風情たっぷりな店内を眺めつつ、しばらく待っているうちに、お待ちかねの甘海老天丼が運ばれてきました。ビジュアルは、まさしく事前に見て想像していた通り。

「ドーンと大海老が一本」みたいな“ドヤ顔系天丼”が幅を利かせる昨今、5尾の小ぶりな甘エビが互いに寄り添い合い、卵の布団をかぶって休んでいるような見た目が、まずなんとも可愛らしい。5尾は姉妹だと思いたいところです。

 箸をつけるのもためらわれる見目麗しさですが、心を鬼にして甘エビを一本つまみあげます。そして食べてみて驚きました。エビ天について表現する際、「つゆの染みた衣に包まれたエビのプリプリの身が……」なんて言うパターンが多いのですが、これはひと味違いました。

 この甘エビ、実は非常に薄くて柔らかい殻をまとっているのです。つまり、1.衣(ふんわり)⇒2.殻(しゃりっ)⇒3.身(プリッ)ときて、最後に、4.絶妙な柔らかさのダシ感強めの卵とじ(じゅわっ)が嬉しい追い打ちをかけてくる。実に四段階の食感と味わいが楽しめる構造なのです。

 噛むたびに甘エビの身の旨味と薄殻の香ばしさ、そしてまろやかな卵とダシの味わいが渾然一体となって、ジュワッと口中に拡散されます。海苔が散りばめられたご飯との相性も最高で、箸が止まらずあっという間に完食。見た目だけでなく、味わいも奥ゆかしい丼でした。

 店のご主人によれば、このエビは「もちえび」と呼ばれ、春に捕れる脱皮したての柔らかい殻を持つ甘エビなんだそう。ソフトシェルクラブならぬソフトシェルシュリンプ。だからそのまま薄殻ごと海老天にできて、しかも絶妙な殻の香ばしさも味わえるというわけです。

まとめ

 2024年3月から北陸新幹線が福井・敦賀まで延伸し、東京からのアクセスが格段によくなりました。次の休みに、ぜひ三国湊にお出かけしてみてください。街の雰囲気も大人っぽくて、美味しい海の幸を心ゆくまで堪能できますよ。

●SHOP INFO

店名:料理茶屋 魚志楼

住:福井県坂井市三国町神明3-7-23

TEL:0776-82-0141

営:11:30〜14:00、18:00〜21:00

休:毎週火曜日、第2第4水曜日(GW、お盆など連休は営業)

(撮影・文◎たろきち)

2024/7/25 10:50

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