鴨なき世界の鴨の味【家そば放浪記】第246束:ツルハドラッグで買った、はくばく(霧しな)『「蕎麦屋」の鴨だしせいろ蕎麦(つゆ付き)』408円(1人前136円)

前から気になっていた商品があった。『「蕎麦屋」の鴨だしせいろ蕎麦(つゆ付き)』なる商品だ。

これまで3店舗ほどで見かけてきたので、けっこう売れ線だったりするのかしら?

それにしても、「つゆ付き」である。過去にも1度だけつゆ付きの干し蕎麦(第205回:小山製麺『もりおかわんこそば そば処 東家(つゆ付)』)をとりあげてきたが、なんと今回は「鴨だし」なのである。

しかもパッケージをひっくり返してビックリ仰天。

販売者「はくばく」製造者「霧しな」のゴールデンコンビやんけ! 当連載において最も早く殿堂入りをキメた『元祖乱れづくり 木曽路御岳そば』のコンビやんけ!

そんな彼らが大事にする「こだわり」が、裏パケには2つ書いてある。

なんでもつゆは、国産合鴨を6時間抽出し、かつお節、さば節、利尻昆布の出汁でブレンド。葱の風味さえ広がる芳醇な味に仕上がってるそうな。

対する麺は、風味あるそば粉を使った、細くてシャッキリ系の蕎麦らしい。

とりあえずは、麺を茹でますか──って

予想以上に細い!

ともかく、デカい鍋に湯を沸かし……

5分ゆでて……

ハイ完成!

して、そのお味は──

まずはそのまま食べるけども……

どうしたんだ。一切の遠慮も忖度もなく言うぞ。

麺を捨てたのか。麺という勝負を捨てたのか。いつものはくばく(霧しな)じゃない感じがする。

なんとなく、うわのそら。つゆに気をとられすぎたか? 柔いというか、パワーが弱いというか。

ものすごく乱暴な例えをすると、食感やコシは、チキンラーメンの麺みたいな感じがする。麺だけなら「家」だ。

だが、この商品は「鴨だしせいろ蕎麦(つゆ付き)」であり、つゆなしで食べるのはフェアではない。

よって、つゆと100mlの熱湯をあわせて作ってみた。それっぽい油が浮いている。

まずはひとくち……

なるほど。

つゆをそのまま飲んだ感想は、まさに「芳醇」。鴨だし感は、ある。

でも……さびしい。イマイチ実体がいない。何かが聞こえたと思ったら、目の前に口を閉じたいっこく堂がいるような。

さらにこれを現実世界にたとえるならば、VRゴーグルをかぶって空中にキスしているみたいな虚しさがある。

この世から鴨がいない世の中になってしまったら、きっと鴨せいろのつゆはこうなるのだろうな……とも思った。

水もガソリンも満足にないマッドマックス的な砂漠の世界で「鴨せいろ」を食べるとしたら、きっと「鴨なしの鴨だし」になるのだろうな……とも。

だが!

こんなことが書いてある。そりゃそうだよ。メーカーとしても、入れてほしいに決まってる。だってそれが鴨南じゃん。

でも安心してほしい。我が家は、いつなんどきでも鴨南蛮そばが作れるよう、常に冷凍鴨肉ならびに冷凍ネギは切らしていない。

ただ、「焼いてから加える」と書いてあるけど、お蕎麦屋さんで修行して調理師免許も取った私としては、そのやり方では納得できない。

「焼いてから(つゆに)加える」のではなく、

こっち(焼いたほう)に、つゆを入れる……。なぜならば、焼いた鴨肉からも良質かつウマミたっぷりの油が出ている。それを完全につゆの中にとりいれたいからにほかならない。

そしてできあがった「鴨せいろのつゆ」がこちらなのだが……

そりゃうまいよ。だって「芳醇スープ」に、「ホンモノ(カモネギ)」が入っちゃってるんだもん。

これを食べてしまったら、なおさら強く感じるけども、もしもホンモノが入っていなかったら、かなりせつない戦いになる気がする。

鳴物入りで完成した商業用の雑居ビルなのに、テナントが1つも入っていない……ってくらい寂しい。

それに対して今回のコレはフルパワー。冷静に考えたら「芳醇スープ」も不要なんじゃないかってくらいのフルパワー。

そりゃ、ここまで作ったら「外」になる。完全にウマイけど、これはフルパワーだからこそなのでは……と思ったりも。

結論。個人的には、やはり麺の弱さが気になった。もうすこしストロングな麺で勝負してもよいのでは……と。

事実、今回の蕎麦以外の蕎麦(しかも太め)を「芳醇フルパワー鴨せいろつゆ」で食べてみたら、けっこう良かった。

あくまで好みの世界だが……ちょっとこの麺と、鴨だしの組み合わせは、私としては、なんとなくチグハグしているような感じがした。

「家そば」なのか、「外そば」なのか。

作り方と食べ方によって変わるこちらの蕎麦。悩み抜いた末の結論は、記事下のランク表にて。

執筆:干し蕎麦評論家・GO羽鳥

Photo:RocketNews24

2024/7/24 18:00

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