カレー研究家・小野員裕「17歳だった当時、20倍カレーなる超激辛カレーを食べたことがあって…」麻美ゆまのあなたに会いたい!(前編)
今回の“あなたに会いたい”は、カレー評論家の小野員裕さんです。
これまで食べ歩いたカレー専門店は、なんと4000軒以上!
今も、1日1軒以上は食べ歩いているそうです。
カレーに関する著書もたくさん出されていて、昨年6月には『幸福の黄色いカレーを食べられるお店』(八重洲出版)を発売。昔懐かしの“昭和の味”とも言える、黄色いカレーを提供している店が50軒以上、掲載されていて、カレーマニアの間で貴重なグルメ本になっているんです。
私もカレーは大好物なので、さっそくカレーの話を聞いてきました!
■きっかけは学校給食
ゆま「小野さんは、いつからカレーが好きなんですか?」
小野「最初は学校給食でしたね。カレーが、とにかくうまかった!」
ゆま「確かに給食のカレーって、おいしいですよね」
小野「ゆまさんの世代は知らないかもしれませんが、僕が小学生の頃って、ほんと給食がメチャクチャだったんです。おでんにニンジンが入っていたり、クジラの竜田揚げなんて筋張っていて食えなかったり、脱脂粉乳なんて鼻をつままないと飲めなかったぐらい」
ゆま「へえー。脱脂粉乳って、スキムミルクですよね」
小野「今のスキムミルクは飲めるけど、当時の学校給食の脱脂粉乳なんて、ほんと牛乳の搾りカス!
飲めたもんじゃなかった。だけど、そんな中でも楽しみだったのがカレーだったんですよね」
■食べ歩きに目覚めたのは
ゆま「少年時代のいい思い出が、ずっと心に残っていたんですね。食べ歩きは、いつ頃から始めていたんですか?」
小野「食べ歩きに目覚めたのは、17歳のときでしたね。今も東京・神田錦町に一軒残っているんですが、『ボルツ』というインドカレー屋さんがあったんです。
ここで当時、“20倍カレー”なる超激辛カレーを出していると聞いて、仲間8人と食べに行ったんです」
ゆま「20倍!? 聞くだけでヤバそうですね」
小野「心臓が止まるかと思いました(笑)。8人中4人が途中でギブアップして、食べ切った4人のうち2人は、腰が立たなくなりました。僕ともう一人は、なんとか大丈夫だったので、立てなくなった2人をおんぶして帰りましたね」
ゆま「腰が立たなくなるほど、からいってすごい。そんな思いをしたら、カレーが苦手になりそうですが……」
■スパイスに衝撃
小野「ところが、僕はハマったんですよね。そこで初めて小麦粉を使っていない、スパイスだけのカレーを食べたので衝撃だったんです。
付け合わせも福神漬けやラッキョウではなく、チーズキューブやハラペーニョとか、見たことのないものばかり。そこで“なんだ、これ!?”と思い、興味を持ったんです」
ゆま「本格的なインドカレーだったんですね」
小野「そうなんです。だけど当時は、インドカレーを専門にやっている店があまりなくて、今のようにネットもないから手軽に調べられない。自分の足で探すしかなかったんですよね」
ゆま「ネットですぐに目的の店を見つけられるのもいいけど、そうやって自分でお店を探すのも楽しそう」
■ラーメン屋や居酒屋も
小野「今も僕は朝起きると、とりあえず見知らぬ町へ出かけるんです。そこで1時間ほど徘徊して、良さそうな店を見つけたら、入ってみるんです」
ゆま「毎日が冒険みたい。散歩にもなるし、おなかも満たされるし、最高ですね」
小野「カレー屋以外にも、ラーメン屋や居酒屋も探し回っています。居酒屋は良さそうな店を見つけたら、一度家に帰って仕事してから、夜に飲みに行きます」
■カレーは太らない
ゆま「小野さんはラーメン屋さんや立ち飲み屋さんの本も出されていますもんね。羨ましいけど、そんなに外食ばかりだと、太りませんか?」
小野「ラーメンの食べ歩きをしていた頃は正直、激太りしました(笑)。ただ、カレーは太らないんですよね。
一度、1年半ぐらい毎日、昼と夜はカレーだけを食べる生活をしたことがあるんですが、体重は全然、変わらなかったです」
ゆま「それだったら、私も毎日、カレーを食べたい。小野さんはインドカレーが一番好きなんですか?」
■インドの家庭料理
小野「そうですね。特に、インドの家庭で作っているインドカレーが好きです」
ゆま「え? 私たちが日本で食べているインドカレーとは、また違うんですか?」
小野「全然、違います。現地のカレーはもっと、さっぱりしています。日本のインドカレーって、カシューナッツペーストやミルクを入れるから、かなり、こってりに仕上がっているんですよね」
ゆま「へえー」
■日本で人気なのは?
小野「そもそも今、日本で人気なのは“北インドカレー”。ムガルカレーとも呼ばれ、500年ほど前、チンギスハーンの血を引く豪族が北インドを支配して、ムガル帝国を建国したときにできたカレーなんです」
ゆま「は、はあ……すみません、歴史は苦手で(笑)」
◆歴史的な背景
小野「簡単に説明すると、それまで北インドの原住民は菜食主義で、スパイスを使ったカレーを食べていたんです。だけど、そこに肉を主食とする豪族が攻め込んできて、帝国を作った。
結果的に、菜食とスパイスだけのカレーに肉が合体してできたのが、北インドカレー。日本では、ナンで食べることが多いですね」
ゆま「おおっ。勉強になります」
小野「いえいえ。歴史を話し出すとキリがないので。では、日本でオススメのカレー屋さんの話をしましょうか」
ゆま「お願いします!」(次号につづく)
おの・かずひろ 1959年、北海道生まれ。元祖カレー研究家。17歳からカレーの食べ歩きを始め、これまでに食べ歩いたカレー専門店は4000軒以上。大衆料理研究家でもある。