“令和の山口百恵”が降臨する『不適切にもほどがある!』筆者が「絶対に売れる」と確信した出来事

SNSをパトロールしていたら、ある俳優の演技がすごく評判になっている。何と“令和の山口百恵”が降臨したらしいのである。

毎週金曜日よる10時から放送されている『不適切にもほどがある!』(TBS系)では、阿部サダヲ扮する不適切発言連発の主人公が令和にタイムスリップする。その娘役の河合優実が、どうやら山口百恵や中森明菜、松田聖子などの昭和アイドル的らしいのだ。

「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、「絶対に売れる」と思わず確信した河合優実を読み解く。

◆「この人、絶対に売れる」と確信した

渋谷にて、とある映画作品の特別試写会がだいぶ前にあった。筆者も観客の中にまぎれていたが、終映後、ロビーで歓談する監督をつかまえて、軽い挨拶をして帰ろうとすると、ある人を紹介したいという。

マネージャーらしき人物に伴われたひとりの女性がロビー奥(確か自動販売機の前)で佇んでいる。間違いない。さっき観たばかりの作品の画面上で、オーラと呼んでしまっては通俗的になりかねないほどクリアで、ひときわ鮮やかな存在感を放っていた俳優、その人だ。

光石研やオダギリジョーなど錚々たる名優たちが名を連ねる所属事務所「鈍牛倶楽部」のマネージャーが、一枚の名刺をさっと差し出した。河合優美。作品クレジットと同じ名前を頭の中でもう一度読み上げる。そして静かな微笑とともに筆者を見つめる河合へ視線を滑らす……。「この人、絶対に売れる」と、そう確信した。

◆オファーする機会があったものの…

それからほどなく、筆者もキャスティングで参加した別の映画作品で出演をオファーする機会があった。でも残念、先方のスケジュール都合が合わなかった。なるほど、どんどん出演が舞い込んできたタイミングなのだな。

俳優という仕事は、一度勢いに乗ると、どんどん上へ上へ勢いづくもの。この映画も、あのドラマも、あらこっちでも(!)。という具合に、画面上で河合を見かけることがどっと増えた。

伊藤健太郎の再起作『冬薔薇』(2022年)の妹役なんてかなり快調な演技だったし、NHKスペシャルで放送されたドラマ『神の子はつぶやく』(NHK総合、2023年)では、校舎の片隅でひっそり弁当を食べる姿から、宗教2世のリアルを強烈に漂わせた。怒涛の出演歴を重ねている途中の今、阿部サダヲ主演の新ドラマ『不適切にもほどがある!』で、とうとう最大のはまり役をつかんだ気がする。

◆“時代が追いついた”必然的なはまり役

そもそも河合に対して「絶対に売れる!」と意気込みたくなったのは、どこかレトロな雰囲気がとても魅力的だと感じたからだ。ここ数年のレトロブームにトレンドとして乗っかる若者的な身振りとしてではなく、もっとサブカル的な感性が鋭く、レトロそのものな感じ。

その意味でも本作の小川純子役以上に、必然的なはまり役はなかったのだと思う。第1話冒頭、阿部サダヲ扮する父・小川市郎に対して、「クソジジイ」、「クソチビ」と暴言を吐きまくる。痛快極まりない。

視聴者は圧倒される間もなく、このスケバンの魅力にすでに降伏してしまっている。レトロの申し子・河合優美ならば、1986年という舞台設定も何のその。遠い過去でもへっちゃら。あたしゃ、スケバンを地でいってんだからさ。とでも言いたげな濃いメイク。学生服の長いスカートを翻す河合の気迫に満ちた表情から伝わってくる。この純子役は、河合の才能に時代がやっと追いついたかのような印象さえある。

◆スケバンが似合う俳優は「希少価値が高い」

本作では、令和にまったくそぐわないハラスメント連発おじさんである市郎が、2024年にタイムスリップしてくる。とはいえ、このスケバンのきらめきを紐解くためには、もっと昔の作品に触れなければならないだろう。

スケとは女性を意味する俗語。バンは番長の略。スケバンというフレーズが、広く使われるようになったのは、東映製作・配給の映画『女番長ブルース 牝蜂の逆襲』(1971年)がきっかけだといわれている。今どきスケバンが似合う俳優なんて希少価値がほんとうに高い。どんな題材も任しとけの職人的巨匠・鈴木文則監督による同作に河合が出演しても何ら遜色がなかったかもしれない。

八田富子が歌う主題歌「女番長ブルース」を口ずさむ河合を想像するのも面白いが、1970年代のスケバンだとさすがに古いか。何せ『不適切にもほどがある!』の純子は、スケバン流行も終わりに近づく1980年代後半を生きる。1986年2月リリース、年末には2年連続でレコード大賞を受賞したナンバー「DESIRE」の中森明菜を意識した前髪だと語っているくらいだ。

◆“二面性”こそが最大の魅力

純子が中森明菜風の見た目にビジュアライズしたのは、憧れのツッパリ、ムッチ先輩こと秋津睦実(磯村勇斗)のためだ。なるほど、鬱陶しい父親には憎たらしく振る舞い続けるが、好きな人の前では口元がほころぶ。

この二面性にこそ、河合優実という俳優最大の魅力が隠されているように思う。特段、豊かな表情で勝負するタイプではない。どちらかといえば、感情の起伏がすくないキャラクターを演じることが多く、それが表情にも表面化している。

そんな彼女が、ある瞬間、偶然を装ったかのように笑ってみせる。その笑顔には新鮮な驚きがある。筆者が自動販売機前で見た微笑も同様。例えるなら、まさに、クールな状態を保ち続ける中森明菜が、どっこい、歌い終わりに微笑む松田聖子に様変わりするみたいな。実際、純子の前髪はどちらかというと聖子ちゃんカットだし、SNS上では“令和の山口百恵”と評判だ。

いずれにしろ、どこかレトロな雰囲気をまとわせ、80年代アイドル歌手を代表するツートップの佇まいを両方持っているってことか。懐かしくも新しい佇まいの河合が、令和最有力の若手俳優としてひた走る。1981年に『スター誕生!』(日本テレビ)3度目の出場で最高得点を叩き出しデビューした中森明菜を模写するかのように、本作をスターへの第一歩とする。この事実が面白いじゃないか。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】

コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

2024/2/16 15:51

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