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日曜劇場に出演中の20代俳優コンビの“驚きの父母”。2人が持つ“親ゆずりのもの”とは

 おそらくこれは令和最大の2世俳優バトルではないだろうか?

 毎週日曜日よる9時から放送されている『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS)で、トランペッター役の宮沢氷魚とチェリスト役の佐藤緋美が、しのぎを削る。

「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、決して七光りとは言わせない本作の2世俳優について解説する。

◆2世俳優が持つ“親ゆずりの何か”

 2世俳優というとあまりいい響きがしない。2世が頭についた瞬間、「親の七光りだ」といった(どちらかと言えば)批判的な話題にどっと流れてしまう。あるいは、こういうのもある。

 たとえ2世だとしても、本人に才能があるならば、それは親とは一切関係がないという見方。これはもっともな意見だとは思うが、でも筆者は必ずしもそうだとは言い切れないとも思う。

 別に七光りであることを礼賛したいわけではないし、本人の才能を十分に見ていないわけでもない。むしろ逆。その人がその親の子である以上は、否が応でも親ゆずりの何かは絶対にある。

 しかも、それがストロングポイントになるならば、いいに越したことはないとひとまず考えたい。

◆宮沢氷魚と佐藤緋美に共通すること

 ここに恰好のテレビドラマ作品がある。

 西島秀俊が世界的な指揮者を演じる『さよならマエストロ』には、才能あふれる2世俳優がふたりも出演している。親の名を知らずとも、彼ら本人だけで掛け値なしの逸材。

 実際、筆者は宮沢氷魚と佐藤緋美の親の名を知らずに、ふたりの演技を見ていた。彼らの演技に共通するのは、演技が上手い下手に関係なく、その人の人間性がにじんでいること。

 技術的に優れていても演技が面白くなるわけではない。キャラクターに憑依しているから上手いわけでもない。演技とは、演じるその人自身でなければならないという証明みたいなものではないだろうか?

◆補足情報にしては本質的

 そうした演技のベースがあって、初めて別の要素がいろいろと加味されることになる。宮沢と佐藤の場合だと、親の存在が話題性としてもフィーチャーされるのは当然のこと。

 加味すべきものは加味するべきだし、それが人間性に関わるものなら、なおさらのこと。人格形成に大いなる影響を与えた存在のことを引き合いに出しながら、補足していくことで見えてくることもある。

 ただし、補足情報にしてはちょっと本質的過ぎる気もする。宮沢の父が、元THE BOOMのヴォーカリスト、宮沢和史で、佐藤の父が浅野忠信、母がCharaだと知ったあとでは、宮沢、佐藤それぞれの演技に対する見え方は、本人たちが意図する以上に補強されるからだ。

◆宮沢氷魚の“父ゆずりの瞳の輝き”

(こういう言い方は嫌だけれど)2世俳優対決としてネット上で話題になった第3話を見てみよう。

 冒頭、富士山の袖に広がる田園の中、「晴見フィルハーモニー」のトランペッター森大輝(宮沢氷魚)が練習している。

 まっすぐトランペットの先を見つめて、ロッシーニのオペラ『ウィリアム・テル』フィナーレの軽快なフレーズを響かせる。

 この横顔、違う作品でも見た気がする。そうだ、プロ野球球団の新人スカウトを演じた『ドラフトキング』(WOWOW、2023年)の第2話、屋上場面。

 望遠鏡をのぞく。夕日に照らされた表情が、役に命を吹き込んでいた。それと同じように、今度はトランペットを吹く大輝の顔に朝日が差す。そのとき、宮沢のあの琥珀色の瞳が光ることを見逃してはいけない。

 あの瞳の色こそ、宮沢が父からもらった宝物に他ならない。瞳の色が父から子へ引き継がれることで、宮沢の演技は、ひときわ唯一無二のものとしてむしろ輝きが増す。

 この親ゆずりの瞳の輝きにひきつけられない視聴者はたぶんいないはず。

◆七光りを免れているのはなぜか

 ここでちょっと視点を変えてみる。冒頭で指摘したように2世という響きにはあまりいい印象がない。でもなぜだか(音楽)アーティストだけは、2世だから七光り云々という批評を免れている気がする。

 例えば、世界でもっとも有名なシンガーのひとり、ナット・キング・コールの愛娘ナタリー・コールが父のスタンダードナンバーをカバーするとき、それは七光りだと言われるだろうか。いいや。

 あるいは、ダニー・ハサウェイの娘レイラは、父の代表的なクリスマスナンバー「This Christmas」を唯一無二の歌声で2022年にカバーした。

 ナタリーもレイラも偉大な父の音楽的才能を多分に引き継いでいるし、彼女たちの音楽性は父の影響下で語られることも多い。

 でも決して批判の対象にならないどころか、称賛の喝采を浴びるのはなぜだろう?

◆不思議と吹き込む音楽の風

 音楽の魅力とは、音楽を中心としてその周囲にさまざまな音楽的な雰囲気が広がっていることである。

 優れた音楽家でもあった青山真治監督の諸作品に出演する浅野忠信ほど、音楽的な俳優を筆者は知らない。

 ちょっと風変わりな阿部寛主演ドラマ『すべて忘れてしまうから』(ディズニープラス配信、2022年)で、Chara扮するバーのオーナーは、最終話で自らマイクの前に立ってみせた。

 そんなふたりを両親に持つ佐藤緋美にしか出せない独特の雰囲気がある。

 岸井ゆきの主演の傑作ボクシング映画『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)で、主人公の弟役を演じた佐藤が、部屋の片隅でギターをかき鳴らす姿を見て、この人の感性は本物だと思った。

 それは佐藤本人の才能だし、薄ぼんやりした雰囲気は間違いなく浅野とChara譲りの魅力でもある。

 宮沢だって父から音楽的な素養をもらってるはず。『さよならマエストロ』第3話でピッチの悪さを指摘された大輝が、天才チェリスト・羽野蓮(佐藤緋美)とリハ中に大げんかする場面は、もちろん2世俳優バトルとして図式化することもできる。

 でも、その後、ふたりだけで演奏する和解場面を見て、不思議と吹き込む音楽の風を感じるほうがずっと豊かな気持ちになると思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

2024/2/7 15:46

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