『女芸人No.1決定戦 THE W』全ネタレビュー 女性だけのコンテストに未来はあるか【前編】
9日に放送された『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)は、5度目の決勝進出となっていた紅しょうがが悲願の優勝を果たし、幕を閉じた。紅しょうがは賞金1,000万円のほか、日本テレビの番組出演権利、冠番組の制作など、さまざまな副賞を獲得。今年、上京したばかりの2人にとって、最高の結果となった。
大会は、MCを務める予定だったフットボールアワー・後藤輝基が体調不良で急遽降板、南海キャンディーズの山里亮太を代役に立てるという波乱含みのスタートとなったが、そこは山里が緊急リリーフを感じさせない仕切りで盛り上げて見せた。
ここでは出場者の全ネタを振り返りながら、大会を総括したい。
■Aブロック
・まいあんつ
毎回、優勝候補の筆頭に挙げられながら苦杯を舐め続け、今回は出場を辞退したAマッソの懐刀。フワちゃんのYouTubeで「日本一カラオケの面白い後輩」として紹介され、400万回近い再生数を稼いだワタナベ期待のピン芸人の全国デビューとなった。
ネタは、魔法にかけられそうになって失敗された陰気なシンデレラがギャグを連発する女性になってしまうという設定で、まいあんつ手持ちのギャグが羅列されるという展開だった。
そもそも、一発ギャグは一発で笑えるから一発ギャグなのであって、4分ネタでの賞レースには向いていない。『R-1グランプリ』(フジテレビ系)でのYes!アキトやサツマカワRPGの活躍でギャガ―でも賞レースで戦えるという見方が当たり前になってきているが、根本的に不利な状況で存在感を示したと思う。呼ばれれば結果を出す芸人のにおいがプンプンする。売れてください。
・はるかぜに告ぐ
これがウワサの……という感じだった。結成半年でこの雰囲気が出せる芸人は、男性を含めても珍しいと思う。出始めのキングコングやオリエンタルラジオのように元気を押し出すのではなく、ヨネダ2000のようにセンスで突き抜けるのでもなく、キャラクターと世界観に引き込んでいくとんずの余裕しゃくしゃくな佇まいは、今はなき銀座7丁目劇場でロンドンブーツ1号2号・田村淳を初めて見たときの印象に近い。
台本のしっかりした漫才だったが、舞台数の少なさがそのまま出た感じ。段取りが見えてしまう出来ではあった。逆にいえば、漫才上のやり取りに不自然さを感じさせるほど、2人の平場でのキャラクターが立ってしまっているということでもある。
たまにこういうのが出てくるのが、やはり吉本興業の強さだと感じた。鮮烈のひとこと。
・スパイク
4年連続の決勝進出。2020年こそ新型コロナウイルス感染によって出場辞退したものの、その後は手堅い結果を残してきた。
『キングオブコント』(TBS系)で準々決勝4回、準決勝2回を経験しているベテランだけに、格の違いを見せつける結果となったが、本人たちにはこのブロック分けで落ちるわけにはいかないというプレッシャーもあっただろう。
このネタを持ってきた時点で勝ち確ではあったものの、さすがのパフォーマンスで満場を納得させてみせた。
・やす子
今年、295番組に出演(ニホンモニター調べ)して大ブレーク中のやす子。この数字はコットン、ウエストランド、なすなかにしなど今年のブレーク芸人を凌ぐもので、すでに国民的タレントといえる存在に近くなった。
だが、仕事が増えすぎてライブに出られなかったり、営業でもまともにネタを聞いてもらえないなど賞レース出場においては不利な状況ながら、決勝まで上がってきたのはネタの力に他ならない。立派なことです。
「はい~」とか言ってるわりにネタがちゃんとしてる芸人としても知られており、今回も実力は見せたと思う。自衛隊員が「大佐」とか「敵」とか言っていいんだろうかという心配もあったが。
■Bブロック
・ハイツ友の会
昨年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)敗者復活戦で一気にその存在を知らしめた、いわゆる“脱力シュール系”のニューカマー。『THE W』でも昨年まで3年連続で準決勝敗退となっていたが、ようやく決勝まで上がってきた。
コンビのパブリックイメージはやはり漫才だが、コントでも各々のイメージを大きく崩さないまま設定だけかぶせて、少しキャラクターを乗せるという手法はニューヨークのやり方に近い。仕掛けの内容もタイミングも絶妙で、怪しげで毒舌なのに上品という不思議な空気感をかもしていた。
女性コンビ初の『M-1』『KOC』ダブルファイナリストという可能性も見えてきていると思う。
・紅しょうが
Aマッソもヨネダもチーバナもいない『THE W』。一念発起で上京もしたし、ここで勝ち切らなきゃどうしようもないというプレッシャーは半端なものではなかったはずだが、やはり貫禄を見せた。しかも本懐である漫才ではなく、コント2本を揃えてきたところに覚悟を見た。
1本目は相撲取りの追っかけという、取っ掛かりの薄い設定だったが、オチに向けて必然性が出てくるという熊元プロレスのキャラクターを生かし切ったネタ。ブロック3戦連続「7-0」という結果も納得の出来だった。
漫才はやはり『M-1』で、ということなのだろう。期待したい。
・変ホ長調
06年の『M-1』以来、実に17年ぶりの賞レース決勝に上がってきたアマチュアコンビ。それ以降も20年まで毎年『M-1』に挑戦しており、21年からは『THE W』へ。こう見えて漫才への意欲は高い。審査員席の麒麟・川島明や笑い飯・哲夫との“同窓会”や、17年前の『M-1』とほとんど同じ衣装での登場など、お笑いファンにとって楽しいシーンを提供してくれた。
ネタのテイストも17年前と同じスタイル。「セレブ婚がしたかった」と語っていたかなちゃんの願いは「気の利いた手土産を選びたい」に変わったが、変ホは変ホのままだった。
こういう人生もあるんだよなぁ。お笑いっていいなぁ。そんな感じです。
・梵天
太田プロ2年目の姉妹コンビ。今年の『M-1』でも3回戦まで進んでおり、頭角を現してきたところでの決勝進出。1年目のはるかぜの影に隠れる形にはなったが、衝撃的なスピード出世であることは間違いない。
キャラ立ち、構成もよく、ほどよい小慣れ感もあって安心して見ていられる漫才だった。特に姉・薪子はツッコミとしてすでに完成している感すらあるし、本格派の雰囲気も出ている。正直、初見でしたがちょっと驚いています。
事務所の先輩の納言・薄幸とは仲いいのかな。いろいろ話せてたらいいな。
(文=新越谷ノリヲ/後編へ続く)