報じられたはずの北朝鮮の外国人入国、未再開の謎。ロ朝接近を中国警戒か

◆NHKも報じた北朝鮮の外国人入国再開だが……

「北朝鮮が9月25日から外国人の入国を許可。国営中国中央テレビ(CCTV)が伝える」とNHKや朝日新聞など大手メディアが一斉に報じた。

 しかし、その後、人的往来が再開したとの報道がまったくない。どうなっているのか。

 中国遼寧省丹東の北朝鮮旅行を手配する旅行会社によると、「9月25日の再開報道は誤報で、まだ旅行どころか、商用目的での往来も再開されていません」と話す。

 別の中国の旅行会社も「現時点でも中国文化・旅游部(観光庁相当)からまったく通達もなく、再開は、早くて年内ギリギリか、春節(旧正月)明けになると考えてます。私たちも期待しないようにしています」と現状を明かす。

 報じた日本の各メディアは、ソースとしてCCTVが報じたと伝えているが、北京駐在の日本人メディア関係者の分析によると、伝えたのは、ウェブの非公式情報だったようで、現在は削除されたのか確認できない。

 中国外務省報道官も、直後にこの報道を否定している。中国SNS微博(ウェイボー)を検索しても“整理”されたのか、関連投稿は1件も検索できない。

◆確かに、入国再開の兆しはあったのだが……

 しかし、この情報、一概にフェイクニュースとは断言できない。CCTVも日本の各メディアも9月25日前後に北朝鮮旅行が再開されるとの情報を入手していたと思われるからだ。

 実は8月中旬、筆者も北京の北朝鮮大使館が旅行や貿易などの関連企業へ9月24日に外国人観光入国を再開すると直接伝えたとの情報を耳にしていた。文面には、明記されていなかったが、中朝両政府での合意だと読み取れる内容だった。

 ところが、その後も、中国文化・旅游部から旅行会社への通達はないまま、9月25日当日に冒頭の情報が一斉に報じられた。

 この報道に接し筆者は、入国再開当日の発表だったので、予定が変わり、過去の北朝鮮の前例から、まず先に非観光目的の入出国から再開し、観光再開は、1か月後くらいの10月末から11月上旬頃に再開されると予想した。

 7月29日にお伝えした通り、北朝鮮は8月16日に国境を開放。テコンドー選手団が入国。8月末には、国際列車に加えて、空路も限定再開させて、コロナ禍で帰国できなかった外交官や労働者などが帰国した。

 10月8日に閉幕した杭州アジア大会へも選手、関係者200人ほどが入国するなど、徐々に人的往来が再開していたので、多少遅れても、北朝鮮への外国人入国再開は、予定通りに進んでいると考えたからだ。

 しかし、9月25日以降、パタっと情報が途絶えたので、不思議に思っていたところ、遼寧省瀋陽の中国朝鮮族貿易関係者からこんな話を聞くことができた。

◆理由は金正恩の訪露?

「金正恩(キム・ジョンウン)総書記の9月12日からのロシア訪問に中国政府が反発し、“報復”として中朝出入国についての合意を一方的に反故にした」(遼寧省瀋陽の中国朝鮮族貿易関係者)

 中国政府は、ロ朝接近を嫌がっており、軍事・貿易での両国の結びつき強化を警戒している。

 中国にとって北朝鮮は、米国を中心とする西側諸国に対する重要な外交カードであり、貴重な道具でもある。北朝鮮の手綱を握るのは、あくまで中国1国でないと、その価値を失いかねないと考えているというのだ。

 金正恩・プーチン会談のニュースをウェイボーで検索すると、淡々と事実関係だけを伝える官製メディアの投稿は確認できるも、コメントは、いつも通り多くが削除されていて、一般アカウントでの投稿は規制されているのか確認できない。

 中国政府がロ朝関係に神経をとがらせて、情報統制をしていることが見て取れる。

 そこで、前出の朝鮮族貿易関係者は、合意を反故にされた北朝鮮側が怒って中国側へリーク。その情報を正しいと思い込み、流してしまったのではないかと推測している。

 具体例だと、北朝鮮大使館がCCTVへリークの可能性…といったところか。

◆中国による北朝鮮への謎の配慮

 その一方で中国は、北朝鮮へ謎の配慮を見せている。

 10月9日、拘束していた600人もの脱北者を一斉送還。8月末から始まった強制送還で合計2600人ほどの脱北者が北朝鮮へ送還されたとみられると韓国メディアが報じた。

 また、コロナ禍に中国の動画共有サイトへの投稿が急増した中朝国境で撮影された北朝鮮住民の映像など、北朝鮮関連動画がバッサリ消えていることも確認できる(まだまだ大量にあるが)。

 いずれも北朝鮮が中国へ要請していたものに応じたのだろう。

 この配慮は、2015年11月、金正恩総書記を揶揄する「金三胖(太った3代目金さん)」をNGワードにした中国政府の配慮をほうふつとさせる。

 金三胖はその後、何度か一時的な解除が確認されたが、現時点でもNGワード指定されたままになっている。

 中国は、北朝鮮に貴重な外貨をもたらす観光再開は認めないが、それ以外の北朝鮮の要請には応じる態度を示すなどアメとムチを使い分けているようだ。

 中国が、北朝鮮の貿易だけでなく、入出国も牛耳っている。まさに「生殺与奪は中国にあり」と警告を与えているのではないだろうか。

<取材・文・写真/中野 鷹>

【中野 鷹】

なかのよう●北朝鮮ライター・ジャーナリスト。中朝国境、貿易、北朝鮮旅行、北朝鮮の外国人向けイベントについての情報を発信。東南アジアにおける北朝鮮の動きもウォッチ。北レス訪問が趣味。 Twitter ID @you_nakano2017

2023/11/21 8:51

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます