浜名湖うなぎ生産者主催の「高校生うなぎ料理コンテスト」はコロナ禍で開始され、第4回を迎えた。鰻で青春と地域を守り、コロナ禍で疲弊した故郷を元気にするプロジェクトの物語

「うなぎの街」プロジェクト実行委員会は、浜名湖うなぎ生産者の組合「浜名湖養魚漁業協同組合」を中心に構成している任意団体です。

養鰻が日本で初めて浜名湖から始まって120年以上経ちますが、今日まで続いているのは鰻蒲焼購入量日本一を誇る地元市民の支えがあったからこそ。

ところが新型コロナウイルスが蔓延した際、あらゆる学校行事が中止となり、飲食店・観光名所を始め多くの産業が大打撃を受けました。

「今度は私達が助ける番!」という思いで、故郷への恩返しのため、青春時代の新しい想い出となり、若い世代のインスピレーションで地域が元気になれるような、鰻の創作料理コンテストを企画するに至りました。

第4回を迎える今年は、高校側からのリクエストもあり、コンテスト初の実食審査に合わせて高校生ボランティア数十人と一緒に設営する「鰻の文化祭」も同時開催する事に。

産学連携ネットワークが加速度的に広がる経緯を、実行委員長であり、浜名湖うなぎのアンバサダーを仰せつかっている古橋知樹に、プロジェクトの活動状況とその想いを聞いてみました。

浜松市は過去10年連続で鰻蒲焼の年間購入量日本一。「うなぎの街」という呼称にこめた思いとは

静岡県浜松市は、過去10年以上連続で1世帯当たりの鰻蒲焼の年間購入量日本一(※)を達成している他、鰻業界に限らず菓子産業や農業に至るまで様々な場所で鰻を利用しています。また鰻と無関係な業種の方々も中心になって「うなぎまつり」を開催するくらい、地元市民は鰻愛に溢れています。そこで鰻と根強い結びつきのある浜松市や、同じく鰻や浜名湖の恵みに生きる湖西市をメインとした浜名湖地域を「うなぎの街」と呼称させて頂きました。

※総務省「家計調査」より

全盛期から20分の一の規模にまで減った浜名湖うなぎ生産者

1900年に鰻の養殖が浜名湖で始まって以降、昭和時代半ばまで長い間日本一(※)の生産量を誇っていた浜名湖うなぎ。

※東京農業大学農業経済学会「昭和期における養殖ウナギ生産量の推移(農林水産省統計より作成)」より

全盛期は浜名湖だけでも500件近くあった養鰻場ですが、他県の台頭や安い海外産の流入、都市化に加え、大不漁による価格高騰・資源問題にさらされ、今や27件にまで減ってしまいました。

それでも尚、浜名湖うなぎが全国トップクラスのブランド力を誇っているのは、どんな時でも地元の皆様に支えて頂いたからに他なりません。

その感謝の気持ちを伝えたくて臨んだ養鰻発祥120周年の節目の年――誰もが予想できなかった新型コロナウイルスの猛威によって、イベントが根こそぎ中止になってしまいました。

さらには人の流れが途絶えた事で町全体が活気を失い、困窮した2020年、今度は私達が助ける番だと私達若手生産者が手を挙げたのです。

若手生産者が繋ぎ合わせた地域と学生・子供たちの輪

浜名湖うなぎ生産者の組合「浜名湖養魚漁業協同組合」では元々、美味しい鰻を育てるために若手自らが勉強会を開けるよう青年部を設けており、約50年に渡り若手主体で活動してきました。

ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されてからは安価で生息域拡大を図れる「芝マット魚道(現ライスレジン魚道)」設置活動や、親うなぎ放流事業への協力など、資源保護にも積極的に乗り出すようになります。

同時にフードロス対策と食育にも力を入れ、鰻には一昔前から大切に全て食べきる「もったいない鰻食文化」が根付いている事を伝えるため、市場から弾かれても美味しく食べられる浜名湖うなぎ生産者伝統の賄い飯「ぼく飯」を幼稚園給食で振る舞ったりと、資源保護と食文化の両立の道を探っています。

そして2020年からの新型コロナウイルス感染拡大。青年部も通常の活動が実質停止となってしまいましたが、「このまま指を咥えたまま故郷が活気を失うのを見ていられない!」と奮起したのです。

コロナ禍でも無限大に活動できるオンライン型産学連携事業として、地元高校とタッグを組んで生まれたYouTubeチャンネル「高校生うなぎニュース(浜名湖立うな重高校うなぎ部)」を皮切りに、鰻以外の名産品もPRする「高校生お米ニュース(浜名湖立うな重高校お米部)」や、調理動画をオンライン審査する「高校生うなぎ料理コンテスト(旧うな重高校創作料理コンテスト)」を企画しました。

オンライン型鰻料理コンテストの流れ。高校の実習室等で調理を撮影、プレゼン動画を提出、オンラインで審査へ

私達のコンテストはまず8月に地元各高校に告知する所から始まります。参加希望の生徒がいたら、高校ごとに部活動・授業・個人参加それぞれの事情に合わせて、9~11月にかけてエントリーして頂きます。

生徒達はコラボする地元自慢を考えますが、困った時には地元自慢サポーターや協賛生産者に相談して、地元名産の情報を貰ったり、生産者から直接食材を購入するルートを紹介して貰ったりする事ができます。

メニューと実習日が決まったら、鰻食材を無償で提供します。これは私達が高騰して地元市民にも高嶺の花になってしまった鰻に対し、若い世代に触れ合う機会を提供したいと考えたからです。

鰻はフードロス対策にも考えて貰えるよう、身だけではなく、骨や頭も選ぶ事ができます。実習は各々の高校の調理実習室等で調理撮影を行い、専用レシピ用紙と一緒にプレゼン動画を提出して頂く流れです。審査員もまた一堂に会する必要がないよう、SNS上に公開された作品を見て採点を行い、地元飲食店やスーパーは商品化のマッチングを行います。

名産品を育てる者として、若い世代に故郷の想い出を残す使命がある――

高校生うなぎニュースも、第1回うな重高校創作料理コンテストも、全国バラエティ番組を含めた多くのメディアで何度も取り上げられる程の大きな注目を集めましたが、浜名湖うなぎと地域の活性化のみならず、修学旅行や運動会、部活の大会という唯一無二の行事を失った生徒達に青春時代の想い出を届けられた事が何よりの収穫でした。

おかげさまで学校や浜松市・地元の声からも熱烈なアンコールを頂き、第2回、第3回と静岡県10高校50作品以上の応募が集まり、地元飲食店やスーパーマーケットでの商品化も多数決まりました。

商品化された作品の中には、湖西市名物の手筒花火を表現した鰻春巻きや、かつて世界一に輝くも廃れてしまった幻の遠州小落花をまぶした鰻唐揚げ等、有名無名問わず、多くの地元自慢とのコラボ作品が登場し、鰻以外の名産品に生徒が触れ合う機会、メディアにPRする機会を作る事ができました。

年々広がる地域活性化の輪。業界や世代を超えて地域全体で盛り上げるコンテストに進化

面白い事に、コンテストに興味を持ってくれた方々が各参加校と一緒に、彼ら主催の官学連携イベントも派生するようになりました。

2021年には協働センター様主催でコンテスト最優秀作品の親子料理教室が開催されたり、2022年度台風浸水被害を受けた中山間部に対しては、復興をテーマに創作した作品を題材にした社会福祉協議様主催の小学生料理教室に被災者を無料招待する事も決定したりと、私達の手から離れた所でも地域活性化の輪が広がっています。

一方で学生だけでなく、大人側の地域の輪も審査員や商品化・食材提供を通じて広がっています。特に最終審査員の方は鰻・飲食業界だけでなく、学生が夢を見られるような活動を展開されている漫画家さんや、アスリートもお招きし、生徒の無限大のインスピレーションに多角的に評価できるよう様々な分野で活躍される地元名士に審査を依頼しています。

さらに第4回では調理専門学校や地域共創科を専攻する学生・先生にも中間審査を依頼しており、今や業界や世代の壁を超えて地域全体を巻き込むコンテストに進化を遂げているのです。

第4回では初めて実食審査を実施。生徒主体の「うな重高校」文化祭も同時開催

新型コロナウイルスが5類に移行した事で、当コンテストも決勝戦に限り、いよいよ初の実食審査を行う運びとなりました。そんな時、高校生からコンテストの決勝戦を文化祭化(フェス化)させたいというリクエストを頂きました。

私達生産者にとって、日々デリケートな鰻のお世話で手一杯で、池から離れてフェスを運営・準備する事は、時間的にも人員的にも非常に難易度の高い事でした。

しかしながら「文化祭化を自分達でやりたい」と手を挙げた高校生ボランティアが数十名集まり、第4回高校生うなぎ料理コンテスト決勝戦当日に同会場で「第1回浜名湖立うな重高校文化祭」を同時開催する事が決まりました。

文化祭もまたコンテストと同じく、鰻を通じて鰻以外の故郷の魅力も引き出す事をテーマとしており、様々な地元名物のブースや抽選会、ステージイベントを用意しております。もはや「うなぎの街」プロジェクトは私達だけの事業ではなく、地域や高校生にとってもかけがえのないイベントになりつつあります。

第4回高校生うなぎ料理コンテスト決勝戦、そして第1回浜名湖立うな重高校文化祭は2023年12月26日(火)に静岡県浜松市西区の雄踏文化センターにて開催予定です。

年末の平日開催ではありますが、もしご都合がつくようであれば是非足を運んで頂きたいですし、どうしても難しい方はオンラインで生徒達の作品をご覧頂ければ幸いです。そこにはきっと、高校生達が地元食材を片手に想像力を爆発させた楽しい調理動画がたくさん見られるはずですから。

うなぎ生産者としてのメッセージを最後に――。

私達は50年先、100年先も日本人が大好きな鰻と二人三脚でいられるよう、うなぎの魅力や伝統文化、持続可能な資源管理について未来に繋いでいかなければなりません。

そのためにも若い世代には食文化と資源保護の両方に対する関心を深めて頂きたいですし、普段関わりのない地元名産品の鰻を故郷の大切な思い出として存分に感じて貰い、地元愛を育んで頂きたいと思います。

そうしてフレッシュな力と無限大のインスピレーションが地元のネットワークを通じて町中に広がり、うなぎの街全体が元気になっていく。そんな未来を私達は浜名湖うなぎの恩返しとして目指しています。

〈団体概要〉

「うなぎの街」プロジェクト実行委員会

住所:静岡県浜松市西区馬郡町2465浜名湖養魚漁業協同組合内

電話:053-592-0123

代表者名(実行委員長)古橋知樹

〈公式ブログ〉

https://seimankai.hamazo.tv/

〈公式Instagram〉

https://www.instagram.com/unagi_high.school/

〈公式YouTube〉

https://www.youtube.com/@user-md2mq6vq5c

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2023/9/18 20:00

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