AAA與真司郎「ゲイ公表」が日本のエンタメ界に投じた“とてつもない一石”
2023年7月26日のことだった。東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でファンイベント「與真司郎 announcement」を開催したAAAの與真司郎(あたえ しんじろう・34歳)が、ある告白をした。
あまりにも切実で、そして勇気ある行動と言葉。人生の大きな節目として、長い手紙を朗読した。自分がゲイであることをカミングアウトしたのである。
「イケメン」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、朗読された手紙のフレーズを引用しながら、與による告白の重大さを問う。
◆カミングアウトした日“以前、以後”
「これから僕が話すことがきっかけで、少しでもこのことについて理解が深まり、世界が変わってくれることを願っています……」
「AAA」のメンバー與真司郎がファンに宛てた手紙を読み始めた。彼は、こう続けた。
「長い間この不安と闘ってきました。本当に何年もの間、自分の一部を受け入れることができませんでした。それでも、さまざまな葛藤を乗り越え、今やっと皆さんにこのことを打ち明ける決意ができました。それは僕がゲイであるということです」
與が多くのファンを前にカミングアウトした7月26日、日本のエンターテインメント界にとてつもない一石を投じる日になった。與の勇気が永遠に記憶されながら、この日“以前、以後”で人々の理解や認識は大きく変わるはずだ。いや変わらなければならない。
◆3つ目の選択肢
手紙中盤、與はある言葉を口にした。その途端、ぐっと堪えていたものが溢れ出した。「自分はおかしいんだ…」と言いかけた彼が涙を流す。せきを切ったように流れ続ける。「大好きだよ」「頑張れ」という声援が客席を飛び交う。
彼はふたつの選択肢をずっと考えていたという。ひとつは、自分がゲイであることを隠して芸能界で生きていくこと。もうひとつは芸能界から退いて本来の自分としてありのままに生きていくこと。
だが、どちらも選ばなかった。彼が選んだのは、3つ目の選択肢。つまり、自分がゲイであることをカミングアウトした上で、芸能活動をしていくという道である。
本人が何度も言及するように、この選択に至るまでには、それはそれは長い時間を要した。彼が噛みしめるごとに、その言葉の重みを感じずにはいられない。
◆語られたのは「自分らしく生きる権利」
この公表を重く受け止め、むしろ当人以外の人々が深く考えていかなければならないのは、「幸せに自分らしく生きる権利」が明々と語られているからだ。誰しも自由に生きる権利がある。当たり前のことではないか。
日本国民として税金を収めるだとか国民年金を毎月払うとか以前の話。それは人命の根源に関わる。こんな当たり前のことがこの21世紀、しかも先進国なのに、長年、曖昧にされ続け、不完全な状態であることがおかしい。
ゲイとして生まれたら普通ではないのか。そもそも普通とは何なのか。それぞれが個々に思い、感じるもの、それらすべてが普通なのである。社会が規範(ルール)として決めるものではない。
これまでのルールが、今も権利を不当に踏みにじっているのなら、それを変えるまでのこと。
◆作品内のジェンダーバイアスを考える
社会的、政治的な意味で具体的な方策は進められるべきだが、エンタメ世界での扱われ方、描かれ方にもしっかり目を向ける必要がある。ラブストーリーを例に考えてみよう。映画でも音楽でも、古今東西問わず、恋愛がテーマになることはあまりにも多い。
だが作品内の恋愛関係は大抵の場合、男女間であることが最初から想定されていないだろうか。ヒーローはヒロインに出会い、お互いに恋をする。当たり前に思えるキャラクター関係にも実はジェンダーバイアス(男女の役割に対する固定的な観念や、それに基づく差別、偏見)が働いているのだ。
私はあなたを愛している。ある歌詞の中で主体となる私が男性であるのか、女性であるのかは関係ない。あなたも然り。ヒーローやヒロインが必ず異性を愛する必要はどこにもない。
そして同性間の愛を描くと葛藤の物語になりがちなこともナンセンスではないか。さらに言えば、他者に性的魅力を感じないアセクシャルの人からすると、作品内の主人公たちが恋愛することが前提になっていることも億劫ではないか。
◆自分を愛し、大切にすること
今回の與の告白が潔く、素晴らしかったのは、ひとりの当事者としてだけでなく、作品を発表するアーティストとしての立場からも強く言及している点にある。もしかしたら仕事がなくなるかもしれない。そんな恐怖を度外視しての勇気ある発言なのだ。
「僕も自分らしく生きていこうと、このできごとがきっかけで自分と向き合っていくようになりました」
與が広く訴えようとしているのは、“Self-Love”、あるいは“Self-Care”の視点である。つまり、自分を愛し、自分を大切にすること。「どんなセクシャリティーだとしても、ゆっくり時間をかけて、まずは自分を大切にしてあげてください。自分を愛することが一番です」と丁寧に示してくれている。
この日、與が発表した新曲「Into The Light」の歌詞に耳を傾けよう。特に歌い出し、「I spent so long being these versions of myself」(長い間もう一人の自分を探し続けていた)というフレーズ。與の告白を受けた今、この歌詞の意味合いはあまりにも切実に聴こえる。
20分にもわたって朗読された手紙の一字一句、そしてこの歌詞に込められたメッセージが、どうか多くの人々の心に届いてくれたらと筆者は願うばかりである。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
いち(
9/21 15:43
好きにしたらええがな。