統一地方選・「維新躍進」の”特殊性”<著述家・菅野完>

◆「維新の躍進」はあったのか?

 5月8日、立憲民主党の中堅若手議員ら複数が、泉健太代表ら執行部に対し、来るべき衆院選での候補者擁立数を増大するよう緊急提言を行ったという。

 提言の内容は「衆議院の289選挙区において、200以上の候補者を擁⽴せよ」「20代から40代の次世代を担う若者の候補者を積極擁⽴せよ」「ジェンダー平等推進のために⼥性の候補者を積極擁立せよ」と、概ね真っ当なもの。あまりにも真っ当で、この提言内容そのものには報道価値は微塵もない。

 だが報道各社は総じてこの件を記事化している。理由は単純だ。この提言内容をそのまま実行すれば、来るべき衆院選で立憲民主党と維新の競合が多発することは不可避となる。メディアとしては「統一地方選挙における維新の躍進に危機感を抱いた」と書きたいのだろう。

 しかし果たして、4月末の統一地方選挙や知事選挙、そして衆参4補選の結果を「維新の躍進」と評価して良いのか甚だ疑問だ。なにも「維新は勝ったとは言えない」と言いたいわけではない。明確に断言しよう。維新は勝った。しかし先般の統一地方選挙と知事選および衆参4補選の「結果」と「経緯」を見ていくと、維新に限って言えばその勝ち方に「全国的な傾向」が存在しないように見えると言いたいのだ。

◆東京都内の維新の勝ち方に見る「特色」

 まず、維新にとって初の本格的な東京進出となった東京都内の選挙から見ていこう。先般の統一地方選挙の後半戦では、東京都内の合計41自治体で区議会議員選挙・市議会議員選挙が行われた。維新はこのうち37自治体に合計69名の候補者を擁立し66名の当選者を出している。勝率95・65%は主要政党のうち公明党の96・76%についで二番目の高さを誇る。

 中でも目を見張るのは維新のトップ当選者の多さだ。実に11の自治体で維新の候補者がトップ当選を占めるに至っている。トップ当選者の数を全当選者数で割った比率(「1位当選者比率」と仮に名付ける)を見ると、維新は15・94%と2位以下を大きく突き放している。これらの数字を見れば、維新は東京都内で大躍進を遂げたと言っても差し支えはなかろう。

 さらに維新の勝ち方にも特色がある。先に挙げたように、維新は今回の統一地方選挙で東京都内に66名の当選者を出しているが、これらの当選者がほぼすべての自治体で、同じような順位で当選しているのだ。維新の候補者がトップ当選を果たした自治体では、その他の維新の候補も2位や3位などで上位当選を果たしている。トップ当選者を出さなかった自治体でも、中位や下位で固まって当選している様子が目につく。

 こうした維新特有の「勝ち方」に類似しているのが公明党の「勝ち方」だろう。公明党と維新の勝ち方は「勝率の高さ」と「同じような順位で当選する候補者の多さ」で極めて似通っている。

 公明党がこうした勝ち方を収める理由は容易に推測できよう。公明党は創価学会信者の組織票を機械的かつ人為的に「票割り」することができる。「その自治体に居住する信者の数」に「信者の投票率」を掛ければ「その自治体における信者の票」が読め、その「信者の票」を「最低当選ライン得票数」で割れば、「その自治体で、公明党が当選できる議席数」のおおよその見当がつく。

 この計算式に不確定要素があるとすれば「その自治体に居住する信者ではない一般有権者の投票率」の上下だけだ。一般有権者の投票率が上がれば「信者票」の比率は下がり、その逆では「信者票」の比率は上がる。

 事実、公明党がこの計算を間違えた節が伺える選挙があった。練馬区議選だ。練馬区議選は2900~2800票のレンジに7名もの公明党の候補が綺麗に収まる結果となった。前回(平成31年)選挙の最低得票ラインが2700票だったため、公明党の練馬区担当者は今回の選挙でも「練馬区内の信者票」÷「2700票」という計算をしたのだろう。

 だがこれは誤算だった。練馬区ではわずかながら全体の投票率が上昇したのである。そのため最低得票ラインが2900票に上昇した。結果、最低得票ラインを狙った7名のうち、4名が落選するという公明党にとって悪夢のような結果となってしまった。

 いずれにせよ、公明党がこうした芸当ができるのは統制のとれた自前の大規模な組織があるからである。しかし維新にはそんなものは一切無い。無いにもかからわず、維新の得票結果はなぜか、あたかも組織票を人為的かつ機械的に割り算したような結果になっている。これは極めて不思議だ。

◆維新による大量のYouTube広告

 維新には組織がない。だとすれば維新が相手にするのは不特定多数の「マス」である。その「マス」があたかも人為的かつ機械的な計算の結果のような答えを出したのだとすれば、「マス」が人為的かつ機械的に操作されたのだと考えるしかあるまい。「マス」を人為的かつ機械的に操作する手法と言えば、「マスマーケティング」そのものに他あるまい。

 事実、維新は東京都内で大量の広告を出稿した。しかしこの広告はビラやポスターの類ではない。主戦場はネット、とりわけYouTubeであった。しかもその広告出稿は、厳密な地域割りに基づいて行われており、視聴者のアクセス場所に基づき、その地域地域の候補者の政権放送のような動画広告がYouTubeに流れるという仕組みだ。

 統一地方選挙後半戦最中の某日、筆者は、港区の自宅を出発し、北区、千代田区、世田谷区、練馬区、国分寺市、三鷹市をへめぐる取材をおこなった。その最中に確認のためにYouTubeの広告をチェックしてみたが、筆者が移動するたびにその地域の維新の候補者の動画広告が流れた。おそらく携帯の位置情報を読み取っているのだろう。

 さらに維新は、告示後も手を変え品を変え動画広告を出稿していた。告示後の候補者名を明示し投票を呼びかける広告は公選法に抵触するおそれがあるため、流石にそれは避けていたが、巧妙に市民団体に擬態し市民団体の政治運動広告かのように装った広告を投開票日まで出し続けたのだ。統一地方選期間中、東京都内におけるYouTubeの広告は維新にジャックされていたと言っていい。

 ただし注意すべき点がある。こうした勝ち方を維新が収めたのが東京都内にとどまるという点だ。その他の地域でも維新は同じような戦い方をしたが、例えば愛知県などでは惨敗と言っていい結果に終わっている。おそらくそれは、日本においてYouTube広告を用いたマスマーケティングが成立する地域が東京都だけにとどまるからであろう。他の道府県ではそもそもの人口絶対数が少ないため、いかに巧緻な地域割り広告を出稿したところで得票数に響くほどの数が稼げない。先ほど「維新は勝ったが、その勝ち方に全国的な一定の傾向が見られない」と書いたのは、こういう事情による。東京が「維新躍進」の代表事例なのではない。特殊事例なのだ。

◆近畿圏にみる「TVメディアの影響」

 もう一つの特殊事例が、なんと言っても大阪を中心とした近畿地方だろう。「大阪府以外で初めての維新知事誕生」と騒がれた奈良県知事選挙は、自民党奈良県連の会長である高市早苗の調整力不足で自民党分裂となった選挙であるから、土台「維新の勝ち方の傾向」を考える材料として除外するとして、異常なのは衆院の和歌山一区補選である。勝利を収めた維新公認の林佑美氏の選挙は、そもそも選挙と呼べるようなものではない。なにせ空中戦しかないのだ。現場の様子も実に情けないもので、林候補単独では辻立ちに人が立ち止まることさえない。吉村など維新の〝顔〟がくるときだけ、群衆が生まれる。

 一方、自民党公認の門博文陣営は、保守王国和歌山の自民党支持組織を固めに固め、一方で徹底したドブ板を展開する盤石の選挙運動を展開した。にもかかわらず、6000票もの差で、空中戦のみの維新候補に負けてしまっている。

 こうした事例は近畿地方の各地で見受けられる。「維新」の看板を掲げれば、たとい選挙運動らしい運動をしなくともすっと当選してしまう事例が実に多い。

 近畿地方における維新の異常な勝ち方を説明するには、やはりテレビメディアの影響を指摘せざるを得ない。「維新の強さ」の理由を、テレビに求めるのは使い古されていささか的外れなものであることは十分に承知している。しかしながら、今回の統一地方選挙ばかりは違う。これまで「テレビの影響論」が的外れなものとなっていたのは、「維新の大阪での強さ」を説明する材料として「テレビ」では説明できない要素――たとえば自民党大阪府連の他府県に例を見ないほどの為体ぶりなど――が多分に存在するからだ。

 しかし今回、維新は「紀伊半島全域」で異常な強さを示した。問いは「維新の大阪での強さ」ではなく「近畿地方での強さ」だ。であれば、やはりその理由の筆頭として「テレビ」をあげざるを得ないだろう。

 次月号は、今回の統一地方選挙・衆院補欠選挙で見せた維新の近畿地方における強さの背景を分析する。

<文・菅野完>

初出:月刊日本2023年6月号

―[月刊日本]―

2023/5/27 8:52

この記事のみんなのコメント

2
  • トリトン

    5/28 0:57

    維新は外国人参政権目指してるからね。感個人や中国人を日本に住まわせるつもりだし、鈴木宗男を野放しにしているからあまり信用できないが。外の野党よりはマシまあ山本はたまにまともなこと言ってるから少しは良いかな?、

  • ばんび 

    5/28 0:20

    維新が躍進して何かいい事でもあるの?🙄上海電力と深い繋がりのある維新は中国で大量に売れ残った太陽光パネルを日本に売りつける手助けをする政党なんだよ~!😤

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