“ペッパーミル”自粛が物議。高校球児のパフォーマンスが叩かれるワケ

 第95回選抜高校野球大会がいよいよ佳境を迎えている。はつらつと楽しそうにプレーする高校球児の姿に元気をもらっているは多いだろう。ただ、高校球児だけではなく視聴者の笑顔を奪う事態が起きた。大会初日の18日に行われた山梨学院対東北高校の試合中、東北高校の選手がエラーで出塁した際、侍ジャパンのラーズ・ヌートバー選手が流行らせたパフォーマンス“ペッパーミル”を披露したところ、塁審に注意される場面があった。

 この件は物議をかもし、日本高校野球連盟(以下、高野連)は「高校野球としては、不要なパフォーマンスやジェスチャーは、従来より慎むようお願いしてきました。試合を楽しみたいという選手の気持ちは理解できますが、プレーで楽しんでほしいというのが当連盟の考え方です」という異例の声明を出すも、これに対しても批判的な声が相次いだ。

◆そういえば“金足旋風”の時も…

 そもそも、高校野球はプロ野球で見られるような、ホームランを確信した時の派手なバット投げ、ホームランを打った際にコーチャーとのハイタッチは自重されている。また、2018年に開催された第100回全国高校野球選手権大会で“金足旋風”を巻き起こした、金足農業高校の選手達が見せた“侍ポーズ”に対しても審判から注意が入り、自粛せざるを得なくなった。

 なぜ高野連はこれまでに保守的なのだろうか。『日本の部活(BUKATSU):文化と心理・行動を読み解く』(ちとせプレス)山梨大学大学院総合研究部教授の尾見康博氏に話を聞いた。

◆高野連の規律は厳しすぎる

 今回の騒動について尾見氏は、「審判や高野連は日本の高校野球の“規律”を重視したものと思っています。『妥当な判断かどうか』というと、どこを基準にするかによりますし、第三者が『妥当ではない』というのも難しいです。ただ、個人的には高野連の規律は厳しすぎる印象があります」と持論を述べる。

 出場する球児は例外なく坊主頭。冷静に考えると異様に思えてしまうものだ。令和の時代にもかかわらず、ここまで厳しい規律を維持し続ける理由は一体なぜなのか。

「“高校野球は教育の一環”とされていること大きいからだと思います。そのため、今回の声明のように“高校生らしく”みたいな説明が多用されるわけです。とはいえ、教育の一環というのであれば、時に授業より優先されたり、体罰はもとより必要以上に怒鳴り散らして暴言を吐く行為が“指導”とされたりなど違和感を覚えることは多いです。

 さらには、夏の甲子園大会が開催される度に毎回議論に上がる『炎天下で試合をさせることの是非』や『勝利至上主義に囚われた投手の連投』など、生徒の健康に対する配慮不足も未だ問題視されています。野球部の活動は課外活動の一つでしかありませんが、明らかに教育の一環の枠から外れているケースは少なくなく、矛盾を感じざるを得ません」

◆伝統があるからこそ、保守的に

 生徒の自主性を重んじることも教育の一環と言える。しかし、一向にその気配はない。高野連は「世間の声は届かない」という印象が強く、もはや伝統を重んじることを目的にした組織に思えてしまう。

「高野連に限りませんが、特に伝統があればあるほどその組織は保守的になりやすく、大きな変革が生じにくい傾向があります。その背景には先輩後輩の上下関係が卒業した後もいつまでも続くことにより、“年長者の発言力が常に強くなる”ということが大きいでしょう。

 また、たとえ少数派であっても世論からも一定の支持がある限り、変える選択よりも変えない選択を取りやすいということもあると思います。今回のペッパーミルの是非に対しても『やるべきではない』『注意されて当然』という声は一定数上がっています。賛否の割合は不明ですが、少しでも否があればなかなか変革することは難しいです」

 高野連が保守的な理由が見えてきたが、そのことが様々な問題への対処の遅さを呼んでいるのかもしれない。尾見氏も「高校野球も少しずつ変革しており、その方向性は適切だと思います」としつつ、「そのスピードは遅いとも思っています」と語った。

◆柔軟性のある組織の存在が必要か

 近年、野球離れが深刻化している。例えば、日本代表がWBCで躍動する姿を見て「野球をやってみたい」と子供たちが思っても、部活の野球に息苦しさを覚え、プレーするまでに至らない可能性も高いはず。高校球児をはじめとした子供たちが伸び伸び、楽しそうにプレイできるような環境を整備することが、子供の野球離れ改善に繋がりそうなものだが。

「確かにWBCでの優勝は、野球離れに歯止めをかけるかもしれないという意味で好影響を与えるでしょう。実際、他の競技と比べて“規律”が厳しいことが野球離れを起こしている一因になっているとは思います。また、高野連自身が『時代に適した規律であるか』を常に意識するようになると流れは変わるかもしれません。

 そのためには、例えば、30代だけで構成される委員会を高野連に新設して、海外の高校から、練習方法や試合形式、社会との関係の取り方など学びながら、規律を柔軟に緩められると良いように思います。もちろん、簡単ではありませんが」

◆「日本と韓国くらいしかない」習慣も

 高校球児が伸び伸びとプレーするため、高野連が取るべきアクションを提案してもらった。

「私としては指導者に対する研修の充実を求めたいところです。怒鳴り散らしたり暴言を吐いたりする指導のもとでは、本当の意味で楽しくスポーツすることができるはずもないので。また、厳格すぎる先輩後輩関係も日本と韓国くらいしかない習慣ですし、この人間関係のあり方にもメスを入れてほしいです。

 他にも、ノックアウト形式のトーナメントはなくす方向にすることで、『勝ち続けなければダメ』という考え方から指導者と子供達を開放しなければいけません。そして、『トップアスリートを目指す次元』と『生涯スポーツとして楽しむ次元』を分けた環境を用意できると良いと考えています」

 野球に打ち込んでいる高校球児であれば、プロに憧れを抱き、その何気ないプレーでさえも真似したくなるのは当然の心理だ。野球に限らず、厳しい規律を重んじるより大事なことがある気がしてならない。

<取材・文/望月悠木>

【望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

2023/3/30 8:50

この記事のみんなのコメント

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  • トリトンさん、その通りだと思います。結局、審判や高野連は自分たちの考えや古い風習を押し付けてるだけの、それこそ老人ハラスメントなのかと思います。時代の変化についていけないだけの人たちの“ワガママ”にも見えてきますね・・・『棺桶に片足入れた老人…アダルトのビデ倫』笑えた。

  • トリトン

    3/31 14:14

    ↓自分もそう思う棺桶に片足入れた老人が何十年前からのを頑なに守らせようとしたり。例えばアダルトビデオも老人が息子がしなびてるから未だにアダルトのビデ倫今やスマホで見れるのにやらなくしてアダルトビデオを壊滅に追い込んでるからねそして天下りの小遣い稼ぎ高野連も無くせば老人の小遣い稼ぎのために頑なに守らせようとしてるからね。老害が、蔓延る日本と馬鹿な若者が多いから海外から不思議な国だと思われてますよね。

  • “伝統”と“時代にそぐわない慣習”の見極めは難しいのかもしれない。個人的には、高野連は考え方が古すぎるかとは思う。もう少し柔軟な考えも必要ではないかな?時代に沿う考え方の育成も教育だと思うよ。

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