愛犬家が体験「ペット同伴での海外旅行」が大変すぎた…準備と費用の全記録

 可愛い仕草と愛嬌で、癒しを与えてくれるペット。一般社団法人ペットフード協会が行った調査によると、いまでもペットの飼育頭数は増加傾向にあるそうだ。たとえば2021年全国の推計飼育頭数は、犬が710万6000頭、猫は894万6000頭という結果に。

 最近では「ワンちゃんと一緒に行く旅行」など、ペットも一緒に楽しめるサービスも展開されており、よりペットを「家族の一員」として考える人が多くなっているように思う。

 かく言う筆者も無類の動物好きで、愛犬の溺愛っぷりは周囲の人を戸惑わせるほどである。そんな筆者が今回直面した問題、それが「ペットを連れての日本への渡航」だった。今回は実体験をもとに、筆者が住んでいた台湾から犬を連れて日本へ帰国した時のさまざまなトラブルを紹介したい。

◆「狂犬病」発症後の致死率はほぼ100%

 日本が世界的にも安全な国といわれているのは有名だが、それは動物にとっても例外ではない。日本は世界でも珍しく、「狂犬病」を封じ込めることに成功している国なのだ。

 人畜共通感染症の1つである狂犬病は、ウイルスを保有する野生動物から感染するとされている。名前の通り、野生の犬を介した感染事例が多く、発症後の致死率はなんとほぼ100%。治療法もまだ確立されていない

 日本は1957年以降同ウイルスの発生がないとされており、世界でも稀に見る「狂犬病フリー」の国なのである。狂犬病をなんとしても国内に持ち込ませないため、国外から日本にペットを持ち込むプロセスは非常に複雑な作業となっている。

◆マイクロチップの埋め込みや狂犬病の予防接種

 渡航の準備は大きく分けて6ステップあり、ステップ1は「マイクロチップの埋め込み」。マイクロチップとはペットの認識番号が記録されたチップで、渡航前に皮下へ埋め込む必要がある。専用の読み取り機(リーダー)で番号を読み取り、個体識別を可能にするのだという。

 台湾ではこのプロセスはほとんどの場合、ブリーダーや保護施設、ペットショップなどがおこなっており、すでにマイクロチップが埋め込まれた犬や猫がほとんどであるようだ。筆者の愛犬もマイクロチップはすでに装着していたため、ステップ2の「予防注射や狂犬病の予防接種」をするところから旅は始まった。

 子犬の場合はまず5種混合など、子犬が受ける必要があるとされているワクチンを打たなくてはいけない。筆者が住んでいた国、台湾では3回に分けて必要なワクチンを接種するように推奨されていた。

 1度目のワクチンはブリーダーの元で済んでいたようで、筆者は残り2回を1カ月ずつ間隔をあけて接種した。ちなみにワクチンはそれぞれ間隔を空けて打つことが推奨されており、台湾の獣医には最低でも3週間は空けるようにとのアドバイスを受けていた。その後、本題である「狂犬病抗体検査(血清検査)」の接種が可能となった。

◆「狂犬病抗体検査」で立ちはだかる困難

 ステップ3は「狂犬病抗体検査(血清検査)」で、一番重要なステップ。ここでも子犬である筆者の愛犬は、狂犬病ワクチンの接種歴がないため、短期間に2回打たなくてはならなかった。狂犬病ワクチンの接種が完了後にようやく採血をおこない、抗体検査の測定できる条件が整った。

 しかし、ここでまた一難、狂犬病抗体検査をおこなえる機関は全世界で約30か所ほどしかない。筆者の居住国の台湾には当時、検査をおこなえる検査機関がなかったのだ。他国へ愛犬の血液サンプルを送るか、自身で血液の輸出許可を取って検査可能な国で検査依頼をするしかなかった。

 コロナ禍で他国への行き来が非常に困難な状況下であったため、筆者は仲介サービスをおこなっている獣医へ依頼することに。仲介料(約5万2000円)を支払い、愛犬の血液をアメリカの検査機関へ郵送してもらった。

 通常なら検査結果は1か月ほどで出るらしいが、コロナの関係もあって筆者は約2か月ほど検査結果を待つこととなった。もちろん無事問題ないという結果を受け取れたので、次のステップへ。

◆忍耐強く180日待ち続けるしかない

 血液検査の後にやってくるのが、ステップ4の「輸出前待機」。農林水産省の定めた手引書によると「輸出前待機は狂犬病抗体検査の採血日を0日目として、180日間以上待機をする」とされている。

 要するに約半年間、居住する国から輸出予定のペットを出国させてはいけないのだ。その間、ペットを他の国へ渡航させたらカウントがリセットされてしまうので注意。この間は特にやることもなく、忍耐強く180日を今か今かと待ち続けるより他ない。

 次にステップ5「事前届出の書類作成」に移っていく。手引書によると「犬・猫が日本に到着する日の40日前までに、到着予定空海港を管轄する動物検疫所に、「届出書」を郵送、FAX または電子メールで提出する」とされている。

 筆者は渡航する約50日前から、事前届出の書類準備を整え始めた。輸入の届出は、NACCS(動物検疫関連業務)を利用してインターネットからおこなうことができる。必要書類を用意し、NACCSのサイトに作ったファイル上にワクチン接種日やら種類やらを1つひとつ記入していく。

 この作業が地味に大変だった。獣医が用意してくれた書類は全て台湾の公用語である中国語。しかしワクチンはアメリカ製のため、記載内容は全て英語で書かれている。それを読み解きながら、必要であれば日本語に訳しつつ記入していかなくてはいけないのだ。この時ほど、日本語以外の言語がわかって良かったと思ったことはなかったかもしれない。

 航空券の予約はこの時点でしていなくても大丈夫らしいが、帰国日や便名を記載する欄が用意されている。とはいえ事前届出の提出後に内容を変更する場合、別途書類を用意しなくてはならない。二度手間になる恐れがあったため、筆者は航空券の予約もこの時点でしておいた。

◆「動植物検疫所」に愛犬を連れていく…

 いよいよステップ6「渡航準備」である。ここでは渡航前10日以内の健康診断書が必要なので、かかりつけの獣医に行って診断書を書いてもらう。筆者はここでも獣医に仲介をお願いして健康診断を受診、その後、台北の松山港内にある「動植物検疫所」に同行してもらった。

 動植物検疫所での検査後、輸出国で受理された書類を日本の動物検疫にメール。書類の内容に不備がないか確認してもらう。

 日本の動物検疫所から書類の確認が取れたら、最終ステップ7「渡航」が待っている。現在、台湾と日本間を就航している便にペットを客席に持ち込める航空会社はない。そのため客席のあるキャビンには愛犬を連れていくことができず、受諾手荷物として貨物室で輸送される。貨物室では客席と同様に空調が効いているようだが、環境としては全く同じとは言えない飛行機が多いよう。

◆日系・海外エアラインで対応に差アリ

 実は今回、航空会社を決めるにあたり、全ての台湾〜日本航路でペットの輸送が可能な航空会社に電話とメールをし、「どのような状態で輸送されるのか?」「貨物室の空調について教えて欲しい」など輸送時に関する質問をしていた。中華系の航空会社もきちんと対応はしてくれたが、「WEBサイトに書いてありますけど……」という返答を何度かされてしまった。

 もちろんすでにWEBサイトは何度となく読み、その上での心配を解消したい質問であった。だが相手にとってはウザい客には違いなかったのであろう。しかしペットの死亡例も多数報告されている飛行機での輸送。我が子同然の愛犬に少しでも安心できる環境をという親心を汲み取ってほしかった。

 一方JAL、ANAといった日系エアラインの対応は感動レベルの素晴らしさ。質問に対して1つひとつ丁寧に返答し、わからない質問に関しては専門の部署まで連絡して答えを聞いてくれた。そんな経緯もあり、筆者は日本の航空会社であるJALを利用することに。

◆犬を預ける場合、あくまでも「荷物」扱い

 冬季の渡航では貨物室がとても寒くなるとの注意を受けていたので、愛用のブランケットを下に敷き詰め、愛犬に少しでも暖をとってもらえるよう心掛けた。給水ボトルも漏れない仕様の容器であれば装着することが可能だったので、クレートにくっ付けられるタイプのものを用意。不安は尽きないが、人事は尽くせたと思う。

 犬を預ける場合、あくまでも「荷物」という扱いになるので同意書を書かなくてはいけない。同意書には「運送中に死傷した場合、貴社に対して一切の責任を問わない」旨が記載されている。愛犬命の筆者にとって、万が一にも考えたくないシナリオ。書類にサインをする手が震えてしまった。

 筆者の心配そうな表情を察してか、カウンターのスタッフが「大切にお取り扱いさせていただきますね!」と声をかけてくれる一幕も。日系航空会社にして良かった!と思った瞬間だった。丁寧に網に包まれ、運び込まれていく愛犬のゲージ。見送ったあとに席に着いたが、台湾〜日本のたった3時間の旅がこの時ほど長く感じたことはなかった。

◆かかった費用は合計すると17万円!

 しばしのお別れののち、無事に羽田国際空港へ到着! 荷物受け取りのエリアまで、スタッフの方が愛犬のゲージを丁寧に荷台で運んできてくれた。無事に元気な姿を確認することができた瞬間の安堵は、思っていたよりも大きかったのを覚えている。

 愛犬を受け取った後、羽田空港の動物検疫に行って書類を提出。最後の確認作業をしてもらうためだ。無事書類の確認作業が終わると、晴れて自由の身に!

 筆者が愛犬を連れて日本へ渡航するためのプロセスにかかった時間は11か月。約1年かけて準備をした。ここまでにかかった費用は、仲介料、検査費用、飛行機チケット代など全部含めると、日本円でおよそ17万円ほど

 1つでも日本への輸入条件を満たしていない場合、最長180日間の係留検査、または元いた国へ返送処分とされてしまう。可愛い愛犬のために絶対に間違えられないプレッシャーと、出費にさいなまれた筆者の長く複雑な旅がようやく終焉を迎えた。

 大変ではあったが愛犬のために必死に勉強やリサーチをおこない、病院をかけずり回った1年間。妙な達成感がある貴重な経験をして、人間的にレベルアップできたような気がした。書類作成してくれた獣医、空港スタッフ、援助をしてくれたすべての人たちに「ありがとうございました!」と感謝の気持ちを伝えたい。

<取材・文/田崎麻衣>

【田崎麻衣】

京都府出身。大学卒業後、保険外交員として就職したが、編集プロダクションに転職・独立を果たした。コスメや美容が大好きで、YouTubeを参考に自分で比較してみるのが最近の楽しみ。またファッションにも興味があり、Instagramなどを参考にして研究中。いつか自分のブランドを作りたいという夢がある

2023/3/29 15:52

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