コロナ禍で続く企業の「脱首都圏」 2年連続で転出超、移転先は全国に広がり

コロナ禍で、首都圏から本社を地方に移転する企業が止まらない。

企業信用調査の帝国データバンクの「首都圏・本社移転動向調査(2022年)」によると、2022年(1~12月)に首都圏から本社または本社機能を移転した企業は、335社にのぼった。2023年3月15日の発表だ。

転出した企業は2019年と比べて1.4倍に増え、転出が転入を77社上回る「転出超過」となった。転出超過は2年連続。

首都圏の企業吸引力は低下傾向に...

調査によると、2022年に首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)から地方へ、本社または本社機能を移転した企業は335社にのぼった。

調査開始の1990年以降で最多だった前年の351社から16社減ったものの、コロナ禍直前の 2019年から1.4倍に増えた。これは過去2番目の多さとなり、コロナ禍以降、首都圏外へ本社を移転する流れが続いている。

一方、地方から首都圏へ本社を移転した企業は258社。前年の328社から、2年ぶりの減少となった。地方の成長企業などを中心に首都圏へ本社を移す動きが弱まり、過去20年で最少件数を記録した。

この結果、2022年の首都圏の本社移転動向は、転出が転入を77社上回る「転出超過」となった。

首都圏で2年連続の転出超過となるのは、2009~10年以来12年ぶり。また、転出超過の規模は過去20年で最大だった。

帝国データバンクは、「大阪圏や名古屋圏など、他の都市圏における企業転出入と比べても大幅に増えており、首都圏の企業吸引力は相対的な低下傾向がみられる」としている。

BCP(事業継続計画)対策から、首都圏外へ拠点を設ける

振り返ると、コロナ禍の当初は、業績の急変などで、オフィス賃料などのランニングコストの高い首都圏から地方へと移転する動きが急増した。

当時、首都圏外へ移転した企業のうち、移転した年の売上高が前年から減少した割合は、2020年で57%と半数を超え、リーマン・ショック直後の 09年(61%)に次いで高かった。

一方で、現在は状況が異なり、ウェブ会議を活用したビジネススタイルやリモートワークなど、場所に縛られない多様な働き方が半恒久的な働き方として定着。そのため、従業員や勤務地、本社機能の集約する必要性が薄れるなか、これまで課題だったBCP(事業継続計画)対策としてのリスク分散として首都圏外へ拠点を設けるケースが増えている。

加えて、地方で新たなビジネスに挑戦したいといった前向きな移転需要を底上げ。本社移転には該当しないものの、首都圏の本社機能やワークスペースを削減、縮小して地方へ拠点を分散化する動きも、大手・中堅企業を中心として引き続き活発だった。

移転先、最多は「茨城県」の34社

首都圏からの移転先として最も多かったのは「茨城県」の34社で、2018年以来4年ぶりの首位となった。

次いで多かったのは、30社の「大阪府」。3位の「愛知県」は24社で、2年連続で前年を上回り、首都圏からの転出先としては1990年以降で最多。【図1参照】

これまで、首都圏からの本社移転先は大都市部、北関東3県など首都圏近郊エリアが多かったが、2022年は41道府県に広がった。

そうしたなか、リモートワークが定着したことで、遠隔地のほか、人口密度の低い地方、中核都市が本社の移転先の有力候補に新たに浮上している。首都圏からより離れた遠隔地や人口密度の低い中核都市や地方都市も、移転先の有力な候補となっているという。

コロナ前(2017~19年)に比べてコロナ後(2020~22年)の移転社数が多い移転先は「北海道」。コロナ前の28社から、コロナ後は56社と倍増した。

「宮城県」の16社増(17→33社)、「静岡県」の15社増(54→69社)、「愛媛県」の14社増(2→16社)などが続いた。【図2参照】

サテライトオフィスをはじめ首都圏企業の拠点化が進んでいたなか、コロナ禍を契機に本社機能や研究施設、ワーキングスペースなどの受け皿として注目されていることが背景にある。

一方、首都圏に移転した企業の転入元で最も多いのは「大阪府」の57社だった。次いで「愛知県」の27社、「北海道」の19社などが多く、21年に比べて大きな変動はなかった。

首都圏からの転出 ソフトウェア開発が過去最多

また、首都圏から転出した企業の業種をみると、「サービス業」が129社で最も多かった。なかでも、ソフトウェア開発やベンダー、ドローン開発などの先端技術産業も含めたソフトウェア産業が29社あり、サービス産業全体の2割超を占めた。

次いで多かったのは、68社の「製造業」で、前年の51社から大幅に増えたほか、12 年以来10年ぶりに60社超えた。

肉製品やビール醸造といった業種を含む食品産業が12社と多かった。「小売業」(35社)は、飲食店などを中心に転出がみられ、社数でも過去最多だった。【図3参照】

同社は首都圏外への移転の動機について、安価な土地価格や物流アクセスの利便性以外に、食品産業などでは水資源をはじめ自然環境の豊かさ、ドローン産業などでは人家が少なく研究開発に適した閑散地帯など、各産業のニーズに即した新たな基準が加わりつつあるとしている。

一方、首都圏への転入状況をみると、こちらも「サービス業」が98社と最も多かったものの、前年(124社)から26社減と大幅に減少した。

「卸売業」は41社で、1998年(33 社)以来24年ぶりの低水準を記録したほか、トラック運送などの「運輸・通信業」(7社)は前年から半減して5年ぶりに10社を下回る少なさだった。

さらに、移転企業を売上高の規模別にみると、最も多かったのは「1億円未満」の149社で、多くが小規模な企業だった。また、「1~10億円未満」(143社)が前年から大幅に増加し、2001年(145社)以来 22年ぶりの多さだった。

「脱首都圏」企業は、コロナ禍直後に多くみられた身軽な小規模企業から、業績堅調で従業員規模やオフィス規模が大きい中堅企業へと広がりをみせている。

一方、転入企業で最も多かったのは「1~10億円未満」の106社。企業数の多い首都圏に営業機会を求めた成長途上の企業が多く転入している。ただ、前年に比べて社数は大幅に減少した。【図4参照】

帝国データバンクは、

「首都圏に必ずしもオフィスを置く必要性がないという企業の認識は一過性の現象から半恒久的なものへと定着しつつある。テレワークなどコロナ禍に対応したビジネス環境の定着にともない、企業の『脱首都圏』の動きは当面続く」

とみている。

2023/3/23 19:15

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