「喫茶×酒場」なぜブームに?中高年には懐かしく、Z世代には新しい

昭和の風情を残した喫茶店でお酒を飲むスタイルが近年、ブームになっている。喫茶文化と居酒屋文化の融合はどのようにして始まったのか?

◆SNS映え、懐かしさ……新旧要素が絡み合い人気

スターバックスコーヒーやタリーズといった、いわゆるシアトル系カフェが日本に上陸したのが平成時代。ところが令和元年あたりから、一時代前の懐かしの「昭和喫茶」や「純喫茶」が徐々に勢いを取り戻しつつある。

一方で酒場に目を移すと「立ち飲み」など安価で気軽に飲める店が主流になっているが、そんな喫茶と酒場ブームを明確に合体させた業態が人気を博している。

◆令和の新発想「クリームソーダハイ」

飲食店等運営のWackwack Creative・井川裕介氏は’20年、35年前からある喫茶店をお酒も飲める「不純喫茶ドープ」という名で蘇らせた。

「僕は幼少時に純喫茶でナポリタンとクリームソーダを食べた体験のある世代。あの空間や世界観が好きで、それをわかりやすく再定義したいというのが発想の原点です」

令和の新発想とも言えるのが、クリームソーダに焼酎を入れた「クリームソーダハイ」だ。これが「不純喫茶」の看板メニューとなっているが、かつて経営していた別の店舗でもすでに大人気だったとか。

利用客は「映え写真」を撮影するZ世代だけでなく、BGMのヒップホップと酒を楽しみに来店する客や、喫茶店として利用する中年世代など、幅広いという。

◆幅広い年代が利用。趣味の世界観とも合致

’21年に開店した大阪の「喫茶酒場 ウラハラ」は、アメリカの禁酒法時代をコンセプトにした昭和風飲み屋と喫茶店の合体。店長は、もともと客だったというSido氏。

昭和歌謡からヒップホップ、ブルースをレコードで流し、サイフォンコーヒーやナポリタン、酒入りのクリームソーダといった昭和喫茶のメニューをそろえている。

「30代から70代まで幅広いお客さんが利用してくれます。西成にこんな店があったんや!と喜ばれていますよ」

◆日本酒とケーキのマリアージュに舌鼓

東京の「西浅草 黒猫亭」は’17年開店。ケーキ職人だった店主・宇都木由美さんの趣味が詰まった喫茶酒場だ。

「着物、日本酒、作家の横溝正史が大好きでその世界観を凝縮したら昭和モダンというかたちになりました」

何より、日本酒とケーキが合うことに着目。それらを目当てに来店する20~30代は男女問わず「おばあちゃんちみたい」と喜び、中年世代の横溝ファンからは「気分次第で酒やコーヒーを注文できる。世界観がいいしファン同士で仲良くなれる」と評判だ。

◆老舗も続々と喫茶酒場に。Z世代の支持急上昇

山口県で昭和を生きてきた石本京子さんは’21年、長年スナックを経営している新橋で、通い続けた昭和の喫茶と酒場を再現すべく「喫茶気まぐれ」を開店した。

朝はモーニング、昼はランチ、夜は酒にカラオケと、ライフスタイルに合わせて利用する中高年世代の中に、最近はZ世代も交じってきたという。

◆中高年には懐かしく、Z世代には新しい

「SNSで評判になった『焼きめん』を目当てに来てくれるのですが、ナポリタンや、コーンフレークでかさ増ししていないチョコレートパフェも気に入って通ってくれます」

昭和31年創業の「銀座みやざわ」は、喫茶・酒場・レストランの三位一体。もともと近隣のクラブやバーを利用する客が、同伴や食事、飲み会後の一杯といった感じで利用していた店だが、最近は名物の「たまごサンド」やフロート、プリンなどが目当てのZ世代の客も増えてきたと、現店主の清水千歳氏は言う。

「若いコはメニューではなくインスタを見て注文して、写真も撮影していますね」

利用の仕方はさまざまなれど、中高年には懐かしく、Z世代には新しい「喫茶酒場」は、今後も盛り上がりそうだ。

◆喫茶×酒場に欠かせない3大要素とは?

昭和をコンセプトにした喫茶、および喫茶×酒場がブームになった理由のひとつに、SNSの普及が挙げられる。来店した客のほとんどは、店内やメニューの写真を撮影していく。いわゆる「映え写真」を撮って、インスタグラムやTikTokで紹介するのがひとつのトレンドだ。

では「映える」要素は何かというと、一つはグラス。昭和を思わせる形状に、古めかしい書体で店名が書かれている。そこに、ポップな色合いのソーダが注がれれば「かわいい!」の完成だ。令和に登場した昭和レトロ系の店のほとんどは、こうしたグラスをオリジナルで作っている。

「ほぼグラスやカップ目当てで来ている」(30代女性)と話す喫茶酒場ファンもいる。

◆Z世代にとっては「レトロ=新しい」

2つ目は、昭和喫茶から脈々と受け継がれているメニュー。アメリカの治療薬が明治時代の日本で最新ドリンクになったという由来を持つクリームソーダ、太麺で濃い味のナポリタン、トロトロブームに逆行している硬めのプリンなどが定番だ。

3つ目は、昭和レトロな内装。古びていて雑然とした風景、ネオンサイン、ちょっと暗めの店内照明、酒場タイムで使用される簡素な丸椅子などが、いかにも昭和の雰囲気を醸し出している。

「子供の頃、親に連れていってもらった喫茶店の雰囲気そのまま。そこで今ではお酒を飲んでいるというギャップがいい」(40代男性)。Z世代にとっては「異世界感がいい」(20代女性)という。

取材・文/加藤 慶 和場まさみ 撮影/杉原洋平 加藤 慶

―[[喫茶×酒場ブーム]の正体]―

2023/3/17 8:50

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