「Kōkiに寄り添って一緒に作りたい」清水崇監督が「この子だ」と感じた理由

  NetflixなどVODが盛り上がる中で、2022年もホラー映画が多く話題になった。2023年に最新作『忌怪島/きかいじま』の公開が控える清水崇監督に、昨今のホラー映画の状況を聞きつつ、年末年始に見たい作品を考えるインタビュー。後編は、2022年公開された『牛首村』のエピソードや舞台裏について聞いてみた――。

前編「『ミッドサマー』のA24作品は質が高いは常識―清水崇推薦のホラー」はこちらから!

ーー『牛首村』を振り返ってみて、思い出深いことはありますか。

清水 やはり主演のKōkiさんですね。キャスティングの発表があったとき、確かに未経験者の大抜擢だったので、周囲の一般の方からいろいろ疑問や質問受けましたけど……。

 最初は僕も、Kōkiさんについて、モデルやってるというくらいのことしか知らなかったので、プロデューサーから話を聞いた時は「いやいやいや……無理でしょ、未経験で主演は……」と言ったんですよ。そうしたら「その気持ちはわかります。じゃあ1回、会ってみませんか」と言われて、会って少し話しただけで、その目つきと言動と物腰で“この子は、単なる18歳じゃない”と低姿勢の内に秘めた勢いと情熱を感じられ「この子だったらやります、一緒にやりたいです」と思いました。ただ演技のコーチにレッスンは受けてもらいたい、と幾つか条件は出した上で。

 撮影に入るとKōkiさんは、周りのベテラン俳優たちが引くくらい、テストの時から全部本気でした。「全て本息だと保たなくなるから、本番まで演技はおさえておいていいから」とこっちから言っても、「私は初めてだから、こうしかやり方がわからないんです。全力でやるしかないから、すみません」と返される。器用では無いですが、人一倍全力投球でした。そういう姿を観ているから、寄り添って、一緒に作り上げたいと思いましたね。

単純な「驚かし」はしたくない

ーーところで、ホラー映画がVODなど時代の潮流に乗っている印象はありますか。

清水 手頃で観易い分、劇場でまで観なかったホラーでもこっそり観てみるか……ってのはああるかもしれませんね。それはレンタルビデオが普及した時にもあった事ですが、ちょっと人目を忍んで……的な見易さも影響していますよね。こういう変革時期には、必ずホラーやエロは注目されるんです。

 ただ、作る側は映画館での画調や音響設備を想定しているので、出来れば劇場で観て欲しいってのはあります。手頃なスマホやタブレット、家庭用モニターでは全く音響も画も違うので。それから、A24の作品群やアジア圏のホラー系の台頭で少しずつ変わりつつはありますが、結局はワーキャーと騒がれる“脅かし”や“刺激”イコール怖い、それがホラー映画だと思われている。そもそも、ホラー映画と聞いた途端に苦手な人はたいてい、“血みどろで残酷に人が死ぬ、ドラマ性のない映画”だと勝手に思われてしまって観ないようです。ホラー映画が好きな人は好きな人で、そこにドラマを求めない。いかに怖いかどうかだけが評価軸で、選び易くするためのジャンル分けが結局は、観客層を狭めているという悪循環があると思いますね。

ーーホラー映画を手がける上で、これだけは大切にしたいということはありますか。

清水 ハリウッドのホラー映画では、何者かの視線が近づいてくる……! 近づいてくる……! ダーン! と大きな音が鳴るけど、振り向いたら友達でしたっていうサプライズのパターンがありますよね。それを観ると僕は「いやいや友達だったらもうちょっと、遠くから声をかけろよ!」ってと突っ込んでしまうんです。それも含めての面白さとも言えますが、正直それはどんな監督でもできる演出なんですよ。もう流石にその手の古臭くチープな演出は、なるべく避けたいと思っています。

ーーそういうのをホラーでは「ジャンプスケア」って言いますよね。確かに、清水崇監督作では、ジャンプスケアはほとんどないように思います。

清水 苦手なんですよね。「やってくれ、やってくれ」と制作側には言われるんですけど。恥ずかしくてできません。でも、そういうのを一般のお客さんは求めるんですよね。わかりやすい「ああ、びっくりした」っていうのを。それは怖さじゃなくて、僕にとってはただの「驚かし」なんです。

 でも、もちろん観る側のせいにだけはできません。びっくりして、思わず「ぎゃあ」って叫んだことで、エンタメとしては高揚感も得られますから。ただそもそも、僕個人がそういうのがなくて、むしろ笑っちゃうし、ツッコんだり、冷めちゃったりするんです。一方で、そう要望してくるプロデューサーの言い分もわかるし、作り手も「こういうものが求められているんだよなあ」と認識して研究しなきゃいけないし、やはり期待にはある程度は応えないといけない……。それでも、その通りにお客さんに媚びたくはない。そんなジレンマがありますね。

ーー『牛首村』では「あれっ何か映ってた?」「いまの何?」という演出があり、それでこその、じわじわとくる怖さがありました。やはりホラーでは、お化け屋敷的なエンターテインメントが求められるということなのでしょうか。

清水 社会派を気取るわけじゃないですけど、メッセージとかテーマとかを、ホラー映画ならではのドラマ中に組み込んだりはしているつもりです。

ーーホラーという枠組みの中に、社会的なメッセージを込められたら、それは素晴らしいことだとは思います。

清水 テーマを込めたら込めたで、作り手が語っちゃうと、恥ずかしい部分もありますけどね。やはり、今のホラーの評価軸は、怖いか否か。もちろんそれも大事なことなんですが、それだけでない面でも観ていただけるよう精進します。

ーー「こういう日本のホラー映画が観たい!」という監督の希望はありますか?

清水 『ミッドサマー』や『LAMB/ラム』や『MEN』といった不可思議な、「一般の人に届くの?」と思うような路線の作品が、ホラー以外のジャンルでもいいので、もっと日本でも出てくるといいですよね。ジャンル分けは「ホラーですよ」「SFですよ」「キラキラした恋愛ものですよ」と、観たい人に観やすくするためにつけられているわけですけど、そうじゃない「これどうやって位置付ければいいんだ」「気味悪いけど面白い」という映画があってもいい。例えば、『ゲット・アウト』や『NOPE/ノープ』のジョーダン・ピール監督作がそうですよね。

 そういう意味では『きさらぎ駅』『N号棟』『“それ”がいる森』あたりはその路線に近づいているのかもしれないけど、邦画業界ではまだ、なかなか走りきれていません。おそらく、もっとわかりやすいものじゃないと、企画が通りづらいんでしょうね。

ーーネームバリューがある作品じゃないと、ということもあるでしょうし、だからこそ清水監督がホラー映画の第一人者として頼りにされているのだと思います。

清水 僕や中田秀夫監督が「ホラーと言えば」な監督になっているんですけど、それは有難い事ではあるのですが、かなりヤバいと思っています。僕としては、もっと20代や30代の若手や、女性の監督にも出てきてほしい。若手の人や女性にしかできない感覚のホラー映画は絶対にあると思います。僕が言うのもなんですけど、「いまだにホラーの代名詞が『リング』や『呪怨』だけで大丈夫?」って思いますよね。

ーー新しい才能がもっと出てきて欲しいですよね。

清水 そのほうがいいですよね。そう言う意味では『ミスミソウ』や『許された子どもたち』の内藤瑛亮監督に注目していましたけど、彼の根っこの思想はいじめや弱者で、必ずしもホラーに特化したものではないですね。それを言ったら、中田監督も僕もそうですけど。中田監督はもともと日活ロマンポルノが大好きで、日活に就職した東大出のエリートで、今でもメロドラマが好きって言っていますからね。

ーー清水監督はホラーがお好きですよね。

清水 おそらく中田監督よりは好きですよ(笑)。そこは中田監督にも同意してもらえると思います。それでも、やはり『リング』の人、『呪怨』の人、と言われ続ける。僕はもう50歳ですし、中田監督は61歳。自分から営業妨害しているようなことを言っていますけど、やっぱり僕たちにいつまでも頼っていたらダメだと思います。

 ただ、KADOKAWAさんが昨年から「日本ホラー映画大賞」という、日本のホラー映画を盛り上げようとする企画をやっています。僕も関わっているので、若手の発掘にはお力添えしたいですね。

ーーその若手監督の中で、注目されている方はいますか。

清水 撮影が終わって編集に差し掛かっている、日本ホラー映画大賞で第1回目の大賞を受賞した、下津優太監督の『みなに幸あれ』という映画が2023年に公開されます。古川琴音さんが主演で、僕も総合プロデュースで関わっていますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

 他にも、平岡亜紀さんという、女優業だけでなく監督も始めた方にも注目しています。ホラー映画大賞に応募してきた彼女の短編が、僕はいちばんゾクゾクしました。第2回日本ホラー映画大賞の発表も1月末に控えてますので、たくさんの応募作品を観るのは大変ですが、楽しみです。真新しい感覚や才能に出逢い、悔しがらせて欲しいですね。

 2022年に公開された映画では『夜を越える旅』の萱野孝幸監督にも注目しています。福岡出身。2回観に行って、監督にもお会いしました。もっと撮って、さらに腕試しをしてほしいですね。

 他にも、2021年公開の『カウンセラー』の酒井善三監督がいます。村シリーズで共同で脚本を手がけていただいた保坂大輔さんからお薦めされて、これは凄いとなりましたね。

ーーそれら若手の監督のことを失礼ながら存じ上げなかったので、ホラー映画ファンとして、しっかり追いたくなりました。

清水 そのように、若手で実力のある監督はいるのですけどね、なかなか気づかれない現状を考えるとやはり、ホラーが流行ってるとはいえない。僕も推薦するなどして、なるべく力にはなれるようにしたいですね。一方、メジャーに公開されている映画で「なんでこんなにひどいものが世に出るんだ」と、文句を言いたくなる例も山ほどあったりもします。

ーーそれは、若手で努力をされている監督の映画をたくさん観ている清水監督ならでは、なのだと思います。

清水 我ながら本当によくないと思うんですけど、その文句を言いたくなる映画について、検索をしちゃうんですよ。調べれば調べるほど、「自分の映画もこうやって言われたり調べられたりしているんだろうな」って、ブーメランとして返ってくるので、怖いんですけどね。

 実際『呪怨』の、オリジナルビデオ版の時にも、心無いことを言われまくりでしたよ。僕はあまり気にしないほうですし、気にしたら作れないですよね。でも“村”がシリーズ化されて「『犬鳴村』でやめときゃ良かったのに」という声もあったのは、悔しかったですね。

ーーそういう文句は、監督の立場だと、より公には言えないですよね。

清水 ライターやコメンテーター、ましてや映画監督や俳優は、あまりネガティブなことを口にはできませんよ。もちろん僕もそうで、同業者や先輩や後輩、同期の監督やプロデューサーもいるから、個人的には「これはひどい!」と思っても、言えないということは業界にいる人ほどあります。かと言って、監督に良いも悪いも含めて直接言ってくれるのは、とても貴重ですから、そういう人がいなくなってほしくないという気持ちもあるんです。

ーー監督はショックを受けることもあっても、批判の声も受け入れるのですね。

清水 何しろ妻なんて、最初は「清水さんの映画、何回観てもつまんなくて寝ちゃうんだよね」という悪口から始まって、「この人面白いな」と興味が湧いたことが最初のきっかけですよ。でも、いざ結婚してパートナーになっちゃうと、遠慮もするし、そもそも作品に興味を持ってくれなかったりする。でも、それも、なんとなくわかるんですよ。

 監督という立場は、どうしても遠慮されちゃうし、率直な感想を言ってくれる人はいない。それは出演してくれた役者でも。まぁ、そりゃ正直に「あなたのこんな映画に出たくなかった」とは言えないですよね。言ってくれたら悔しいけど「じゃあ次は絶対にキャスティングして、次は出て良かったと思えるようにしてやろう」というモチベーションは生まれますけどね。もちろん、そこまで言ってくれる人なんて、ほとんどいないのですけどね。

「ちゃんと観てよ!」と言いたくなることもある

ーー先ほどホラー映画が怖いか否かだけが評価軸になりやすいという話がありましたが、確かにジャンルとしてひとくくりにされすぎる傾向があるかもしれませんね。

清水 ホラーが苦手な人、絶対無理ですという人こそ、勝手なイメージが固まってるかもしれませんね。「人がいっぱい死んで血まみれ」というものもあるし、そういうのもいいけど、いやいや、そういうのばかりじゃないから、とは伝えたいです。基本はバカにされたり差別されたりで、偏見があって当然なのが、実はこのジャンルかなと思いますね。エロティックな路線の映画もそうだと思います。

ーー偏見が生まれやすい土壌があるからこそ、作り手は多様性を意識する必要があるかもしれないですね。

清水 ホラーがベースにあって、ジャンル分けされるからこそ、ホラーでないと描かれないテーマや、アプローチはあるとは思います。でも、「苦手だから観ない」と言われて、「無理にでも観て」とも言えないですよね。僕も中学生の時には、ホラーは苦手でしたから。

 でも、自分の村シリーズにも、初めて劇場で観た、試写で観た、という方の中に「ホラーの見方が変わりました」や「こういうホラーもあるんですね」「怖いのに観たら感動して泣いちゃった」「なんですかこの気持ち。こういうホラーがあるんですね、他のホラーも見てみようと思います」といった感想をいただいたりはします。元々ホラー好きでもなんでもない、むしろ苦手な人から、そういう言葉をいただけるのが一番嬉しいですね。それが自分の映画じゃなくても、あの人の心の内の何かを開いたと思える。その瞬間が一番嬉しいです。

ーーやはりネガティブではない、観客からの率直な意見は嬉しいですよね。

清水 でも、僕の映画に限らなくても、「ちゃんと観てよ!」と言いたくなることもありますよ。先にもあげた『ミッドサマー』では「今年イチ気持ち悪い映画だった」という単純すぎる感想を知人の女優さんから聞いた時は「あの映画の価値を何にもわかっていない!」と思ったし、『パラサイト 半地下の家族』では「え~○○だけで○○?(クライマックスのネタバレにつき伏せ字)」という一般客女性の声を劇場で聞いて「今まで何を観てたんだ!?」などと、その鑑賞眼というか映画偏差値の低さにがっかりしました。……が、感想や印象はホント人それぞれだし、それでいいはずなので、こう感じた! という人にアレコレ訴える程、野暮なことはしたくないし、自分が作り手だからこそ、何も言えませんしね(笑)。

ーーそれは映画の内容は受け止めているけど、本質を上手く言語化できていないだけかもしれませんよ。

清水 お客さんの感想を捻じ曲げてまで、あれこれ言う立場でもないんですよね。こう言ってみて、改めて作り手の自分は、正直すぎる評論はできないし、しないほうがいいと思いました。

ーーその他で、ホラー映画を観る観客に思うことはありますか。

清水 日本人で特に思うのは、良くも悪くも「こんなに行儀のいい観客はいない」ということですね。読めない言語のエンドクレジットまでちゃんと観たりするんですから。でも、笑ってもいいところに声出しちゃったとか、怖くて「ギャっ」と言っちゃったかと、そういうのを気にせずに、ありのままに笑ったり、叫んだりしていい、自分の感情を人前で恥ずかしがらずに出せばいいじゃんと思いますね。そのくせ、こんなに行儀のいい国民に向けて過剰なまでに劇場でのマナーのお知らせもありますから。山田洋次監督も同じこと言ってましたよ。「映画を観て存分に笑って泣いてほしいのに、どうしてあんなにマナーばかり気にするんだ」って。

ーー外国で映画を観ると、リアクションが楽しいという話はよく聞きますね。

清水 海外の映画祭に行くと、日本とは反応がぜんぜん違って、わかりやすいので嬉しいですね。でも、アメリカで映画を観にいくと。お前ら大概にしろよっていうくらい散らかすんですよ。それはそれで「おいおい、日本人だったら幼稚園の子でもちゃんとお行儀よく観ているぞ」と文句を言いたくもなります。彼らはそれだけ楽しんでいるということでしょうけどね。国によって極端過ぎて(笑)。

ーー2023年公開の清水崇監督最新作『忌怪島/きかいじま』のビジュアルが、ものすごく禍々しく、怖いです。どのように生まれたのでしょうか。

清水 『忌怪島』のあのビジュアルは、実は劇中に出てくる掛け軸を使っているんですよ。でも、この掛け軸は僕が日本画家の方に、電話越しに「もっと目がこう、腕がもっとこうとか、胸元はもう少しこう見えて」と、細かい指示を出して、逐一直してもらいながら描いていただいた、渾身の作品なんです。

 今はまだ公開日も、キャストもいまだに発表されていない段階ですからね。宣伝部かティーザーのビジュアルとして「掛け軸の絵が怖いから使いましょう。どうです監督?」って言われて「ああいいんじゃないですか」と思った、という感じですね。

ーーまだ情報がほとんど解禁されていないですから、『忌怪島』のことは何も言えないですよね。

 出演者すら、まだ発表されていませんからね。言えるのは、メタバースを題材としていて、ある島でそれを開発しているチームが「何か」に触れてしまうという内容、ということです。あとは、村シリーズでは都市伝説を元ネタにしていて、今回の『忌怪島/きかいじま』も実際にある伝承を元にはしているんですけど、あまりにマニアックすぎて、その島でもほとんどの人は知らないくらい。でも一部の人はいまだに口にするのも恐れている、というものを見つけ出したんです。この掛け軸のビジュアルにも、その伝承を反映していますね。

ーー改めて、このビジュアルがめちゃくちゃ怖くなりました。先ほどあげた、若手の注目監督の作品も含めて、公開を楽しみにしています。

前編「『ミッドサマー』のA24作品は質が高いは常識―清水崇推薦のホラー」はこちらから!

(プロフィール)

清水崇(しみず・たかし)1972 年生まれ、群馬県出身。『呪怨』シリーズ(99 ~06)がヒット。同作の US リメイク版でハリウッド進出、全米ナンバー1を記録。近作に『犬鳴村』(20)、『樹海村』(21)、『牛首村』(22)の“恐怖の村シリーズ”3部作。ホラーを軸にファンタジーやコメディ、ミステリー、SF、サスペンス、青春ドラマなども手掛け、『魔女の宅急便』(14)、『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』(17)、『ホムンクルス』(21)など。3Dプラネタリウム『9次元からきた男』(16)が日本科学未来館にて上映中。2023年には最新作『忌怪島』が公開予定。

2023/2/5 12:00

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