「テレワークによる“テレ社畜”が増えている」常見陽平が警鐘。ホンダは再び週5日出社に

 コロナ禍で自粛生活、円安進行で物価高、高齢化に伴う医療費負担の増大……。多くの人が「仕方がない」と受け入れてきた閉塞感は、なぜ解消できないのか? 同調圧力に屈することなく、堂々と「NO」を突きつける気鋭の論客たちが日本の忖度社会を打破する処方せんを提示する。

◆労働社会学者・常見陽平「“どこで働くか”ではなく“どう働くか”だ」

 コロナ禍で働き方が大きく変わったのは、多くの企業で在宅勤務が導入されたからだろう。政府による「テレワーク7割」要請もあり、「在宅が新しくて出社は古い」の空気が醸成された。しかし、「テレワークだけに頼りすぎると逆に、労働者の負担が増えてしまう」と主張するのは労働社会学者の常見陽平氏。

 そう思うようになったのは、コロナ禍での妻の体調不良がきっかけだった。

「妻の会社は’20年の春から完全テレワークでした。1年半ぐらいたった頃、妻がうつっぽい症状を訴えてきて、常に何かに追われているような圧迫感もあると。それで心療内科に行ったら、運動不足やメンタルの問題からくる軽い適応障害だと診断されました」

◆テレワークによるテレ社畜が増えている

 テレワークで生産性が高まると言われているが、逆に仕事の密度が濃くなりすぎて、疲弊してしまった。

「外資系IT企業で働く妻の場合は、通勤時間がなくなったのに以前よりも働いている状況になっていた。家にいれば仕事も子育ても両立できるなんていうのはきれいごと。その頃は保育園もテレワークに理解が低く、楽しているのだから早く迎えに来いと言わんばかりだった。妻のように、テレワークによる“テレ社畜”は増えていると思います」

 世間との繫がりが遮断されてしまい、孤独・孤立に陥るケースも少なくない。

「各大学の調査を見ても、オンライン講義は好評ではあります。ただ、心を病み、そのまま中退する学生が各大学で増えました。また、テレワークばかりだと相手が何を感じているのかがわからないので、白熱した議論にならない。結果的に自分だけが取り残されたように感じてしまい、無気力になってしまうという声も多かったですね」

◆会社と社員にとっての最適な働き方とは

 海外に目を向けると、’22年11月にツイッター社のCEOに就任したイーロン・マスクが同社のテレワーク廃止を表明。SNSで批判が集まり、炎上する事態となった。

「言い方は問題だったと思いますが、彼の発言が炎上する前からアメリカのIT企業では『出社』と『テレワーク』のバランスに関する議論は何度もありました。日本人からすると、『テレワークしない会社は古い体質の会社』だと決めつけて批判的な人が多い。気持ちはわかりますが、その会社と社員にとっての最適な働き方が何かという背景を考えないのはおかしいです」

◆日本でもテレワーク減少の企業が増加

 日本企業でも、'21年11月に楽天グループが週3日から週4日の出社に増やし、’22年5月からホンダは完全に週5日出社に戻した。このようにテレワークを縮小する動きが活発化している。

「テレワークはもともと働き方改革の一環だったが、皮肉なことにコロナの感染対策で広がった。ですから、そもそもコロナ前に戻す・戻さないだけが論点になるのはおかしい。『オンラインでも仕事が回る』と言う人はいますが、仕事が〝進む〟こととは意味が違う。回るだけで新たなものが何も生み出されない環境になってしまっては、元も子もありません」

 そんななか、日本マイクロソフト社は、“ハイブリッドワーク”を掲げて品川オフィスの改修を行い話題になった。

「テレワークをするかやめるかじゃなくて、自分で環境を選びながら働くのは合理的だと思います。今はムダを省く部分と、あえてムダをつくることが重要な時代を生きている。そうじゃないと社員の発想も同じになって、新しくて面白いものは生まれなくなってしまう危機感はありますね」

◆担当業務と自分に合った働き方に更新するべき

 これからの働き方をどう考えたらいいのだろうか。

「出社再開で〝コロナ前に戻る〟という表現はおかしい。なぜかというと、コロナ禍でさまざまなことが進化したから。ペーパーレス化も進みましたし、会議のあり方も変わり、オフィスに出社しても環境は変わっている。今後、担当業務と自分に合った働き方を更新することが求められるでしょう」

◆常見氏「無理して働かないことが大事」

 常見氏が意識して更新した新たな働き方は「無理して働かないこと」だとか。

「ただでさえ疲れる時代に生きているので、睡眠時間を増やしています。テレワークも場所を変えてやるようにしていて、都内のビジネスホテルの日帰りプランをよく利用してます。あとは、コロナ禍ではネット上でやりとりしていた人たちを食事に誘って、リアルな場で人と接する時間を多くもつようにしてます」

 在宅勤務にとらわれて作業効率ばかりを追い続けていると、テレ社畜から抜け出せなくなってしまうことを肝に銘じるべきだろう。

【常見陽平】

’74年、宮城県生まれ。労働社会学者、働き方評論家。’15年から千葉商科大学国際教養学部専任講師(現准教授)。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)などがある

取材・文/週刊SPA!編集部

―[日本の忖度社会にNO!]―

2023/1/30 8:51

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