「君のことは好きだよ。でも…」半年間、婚活中の29歳女を弄んだ最低な男の本音

空前のゴルフブームが到来している今、ゴルフは男女の出会いの場としても有効だ。

30歳を目前に、いい出会いがなく焦りを感じていた森脇那月(29)も、ゴルフを始めたが…。

東京のゴルフコミュニティーに、ヒエラルキーが存在することを知る。

同じ思惑を抱く女性たちが集うこのコミュニティーで、那月は最後まで勝ち抜き、理想の男性を捕まえることはできるのか―。

◆これまでのあらすじ

那月(29)は、友人の麻由子のアドバイスを受け、自分に思いを寄せるサトルとの決別を選ぶ。そして葛藤の先に、那月が選ぶ結末とは…。

▶前回:一晩過ごした相手に、本命彼女がいることが発覚!ショックを受けた女は思わず…

Vol.10 出会いと別れと、婚活の行方

前に進むために、私はサトル君との決別を選んだ。

出会ってから、決して長い時間を共に過ごしたわけではない。

付き合っていたわけでも、明確な告白をされたわけでもない。

― それでも、自分に好意を持ってくれているサトル君との、何気ない毎日のやり取りで私は癒やされていたんだな。

そんなことに、連絡をとらなくなってから私は気づいた。

知らぬ間にサトル君とやり取りすることが日常に溶け込んでいて、彼からの連絡を、まだどこかで少し期待してしまっている自分がいる。

― でも、出会った瞬間の“この人いいな”っていう直感って、だいたい当たるものね…。

寂しいけれども、この感情は恋愛ではない。

そして、私には、まだ決着をつけなくてはならない問題が残っている。

サトル君と最後に会って帰ってきた日は、なんとなくひとりぼんやりしてしまって、翌日になってようやくスマホを開いた。

『大輝さん、話したいことがあるの』

メッセージを送信したあと、思ったよりも淡白な連絡になってしまったかもしれないと一瞬慌てた。

でも、送信を取り消すほどでもないなと思い、ベッドにスマホを放り投げた。

これまで「どんなメッセージを送ろうか、どのくらいの頻度で連絡しようか」と、私は、大輝さんに好かれたいあまり、彼の顔色をうかがってばかりいた。

― そんな自分、もうこりごり…。

『大輝:今日は予定があるから、来週の平日でもいい?』

1時間ほど経った頃に届いた返信を確認し、日取りを決める返事を送った。

約束の水曜日の19時。

気の張るような畏まったお店でのデートが多かったから、今日は美味しい焼肉を食べたくて、表参道の『よろにく』を予約した。

テーブル席に向かい合うように座り、ビールで乾杯すると、いつもより覇気のない大輝さんが早速切り出す。

「話したいことってなんだった?」

心当たりがあるのだろうか。こんなに不安そうな彼を見るのは初めてだ。

「大輝さんって、彼女がいたんだね」

事実を確認したかっただけなのに、なんだか強い語気になってしまった。

「那月ちゃんと過ごす時間が楽しかったのは事実だよ。でも、那月ちゃんと付き合おう、とまで思えなかった」

これまで煮え切らなかった態度が嘘かのように、大輝さんは正直すぎる言葉を私に投げかける。

でも、不思議と悲しくはなかったし、正直な彼の言葉に、なんだか肩の荷が下りるような感覚もあった。

「気づかなかった私も悪いの。

大好きだったから、無意識で大輝さんの顔色をうかがって、正直に向き合えてなかったし」

「うん、ちゃんと那月の気持ちを、那月ちゃんの言葉で聞いたことはなかったね」

サトル君が私に正直な感情で向き合ってくれたように、今日は正直な気持ちを伝えると決意して来たのだ。

あまり改まって伝えようとすると緊張してしまうから、テーブルに運ばれた美味しそうなお肉をいただきながら、大輝さんに視線を向けないで、言葉を紡ぐ。

「大輝さんは私の憧れだった。でも、自分には相応しくないとも思っていたし、ずっと追いかけ続けて、それでも届かないような感覚があった」

「うん。僕も那月ちゃんの気持ちを、どこか見ないふりをし続けてた」

「大輝さんがなかなか素直な気持ちを伝えてくれないと思って、むっとしたこともあったの。

でも、私も遠い存在の大輝さんに遠慮してて、やっと気づいた。私も、明確に大輝さんに、気持ちを伝えたことがなかったって。

ずっと、あなたのこと好きでした」

「ありがとう、でも…」

「うん、わかってる。それに“好きだった”の。今のあなたにはもっと相応しい、素敵な人がいる。それは“今”の私ではない」

大輝さんのことは、変わらず好きだなと思う。

でも、今の私には…。

「大輝さん、今までありがとう」

「那月ちゃんとの時間は楽しかったし、好きだったよ。でも、自分の大事なものを捨ててまで彼女にしたいとは、思えなかったんだと思う。ごめんね」

「ううん。正直な気持ちを伝えて、聞けて、すっきりした」

― これで、大輝さんとは終わった。

そして、自分はもっと魅力的な自分になって、もっと素敵な人との出会いを手に入れるんだ、という覚悟もできた。

大事な彼女さんを不安にさせるような人には興味がない、なんて、最後に一言言ってやりたい気持ちもあったが、そっと胸にしまった。

「もう、大事な人を傷つけないでくださいね」

聡子さんの顔が浮かんで、その言葉だけは伝えた。

しっかりとうなずく大輝さんの姿を見て、自分の中に渦巻いていたいろいろな悪い感情が、スルスルと流れ出ていくような感覚がした。

「聡子さん、最近彼氏さんとはどうですか?」

聡子さんの友人とのゴルフに誘われた帰り道、彼女の運転する助手席から尋ねる。

2ヶ月前に、大輝さんと会ったあの日から、彼とは連絡を取っていない。

サトル君との最後の食事の時の言葉を借りるように、今日は最後まで楽しみましょうと、あの話をした後も美味しいお肉を楽しんだ。

伝えたい言葉をすべて出し切れたからか、大輝さんへの想いは、簡単に整理がついた。

サトル君との連絡がなくなったことの方が、ぽっかりなにかがなくなってしまったような虚無感を抱いたほどだ。

ただ純粋に知りたかった。悩んで、悲しそうにしていた聡子さんの恋愛事情が。

「具体的に何があったわけでもないんだけど、これまでぼんやりと抱いていた不安が減った気がするの!」

嬉しそうに答える聡子さんに、私は胸を撫で下ろす。

― だってお似合いだもん。聡子さんには幸せになってほしい…。

「那月ちゃんは、最近どうなの?」

「絶賛恋人募集中です」

「那月ちゃん、なんだか吹っ切れたようないい顔してる。さらに可愛くなった!」

聡子さんは人を疑わないタイプだ。

でも、女の勘みたいなものは鋭いのかもしれない。

― たしかに、私、色々と吹っ切れたのかも。

「私、ずっと追いかける恋愛をしてきたんです。

でも、それってきっと、自分は彼より下だって思い込んで、どんどん自信がなくなって、悪循環だったんだと思うんです」

「うん、そうだね。自信がある女の子の方が、可愛いもん」

そう言って笑っている聡子さんも、大輝さんとの関係がよくなったからなのか、前よりも自信があるように見えて、もっと素敵になったように感じられた。

4ヶ月後

「で、最近どう?」

私の30歳の誕生日に、麻由子に食事に誘われた。

ワインで乾杯すると早々に、麻由子のお得意の言葉が飛び出し、思わず笑ってしまう。

「那月、なんで笑ってるのよ」

「“那月の恋愛事情が気になって仕方がない”っていう麻由子の思いが、伝わってきたの」

大輝さん、サトル君との決別から約4ヶ月。相変わらず絶賛婚活中だ。もちろんゴルフ場で。

結局恋人ができることなく30歳を迎えてしまったけれど、後悔も焦りもない。

「彼氏はいないけど、いいなって人とか、デートに誘ってくれる人は何人かいるわ」

「そうそう!私も聞いたのよ。ゴルフ友達に、那月のこと気になってる人がいるって!モテ期来てるんじゃない!?」

大輝さんに素直に思いを伝えてから、捕らわれていたしがらみから吹っ切れたかのように、なにかが変わり始めた。

ゴルフを楽しむことに邁進しているうちに、なんだか恋愛も順調だ。

「最初は、“婚活の場としていいからゴルフを続けてる”って意識が自分の中にあったの。そのバランスが変わったら、いろんなことが好転した気がする」

「ゴルフを楽しむことに重きを置いたってこと?」

「そう、純粋にゴルフを楽しんで、そんな自分を好きになったら、恋愛も付いてきた、って感じかな?」

届かない誰かを追いかけようだとか、いい出会いのためにゴルフを頑張ろうだとか…。

そんな考え方を、ふたりの男性との出会いと別れが、変えてくれたような気がするのだ。

「婚活はゴルフ場で、なんて言ったら、婚活優先になって、私みたいに葛藤が生まれそうだから、安易に勧められないけどね」

「たしかに。ゴルフの魅力を知った人だけが足を踏み入れられる出会いの場って言った方が、正しいかも」

ゴルフを楽しんだら恋愛も付いてくる。趣味と婚活が同時に叶うなんて、これ以上とない一石二鳥だ。

「30歳。ゴルフがうまくなって、那月に“ついでに”いい彼氏ができますように!」

「ありがとう。“ついでに”くらいが、私にはちょうどいいのかも」

婚活はまだ実ってない。

でも、ゴルフ好きだけが知っているこの最高の出会いの場で、たくさんのいい出会いがありそうな予感がしていた。

Fin.

▶前回:一晩過ごした相手に、本命彼女がいることが発覚!ショックを受けた女は思わず…

▶1話目はこちら:「イイ男がいない」と嘆く29歳女が見つけた、最高の出会いの場とは

2023/1/30 5:04

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