気になる彼との初デート。食事を終えて店の外に出た直後、男が放ったまさかの一言は…
高いステータスを持つ者の代名詞の1つともいえる、都内の高級タワーマンション。
港区エリアを中心とした都心には、今もなお数々の“超高級タワマン”が建設され続けているが…。
では果たして、どんな人たちがその部屋に住んでいるのだろうか?
婚活中のOL・美月(28)と、バリキャリライフを楽しむアリス(28)。2人が見た“東京タワマン族”のリアルとは…?
▶前回:気になる彼の家で、キッチンを使おうとして…。お呼ばれした女がとった、NG行動とは
美月「私じゃあ、満足できないってこと…?」
金曜24時の赤坂。私は地上から、先ほどまで過ごしていたタワマンを見上げる。
「はぁ…。なんでだろう」
目と鼻の先にあるTBS本社ビルは、こんな時間でも煌々と輝いている。
それなのに私は、部屋から1人きりで放り出されたのだ。仕方なくタクシーを拾うために、大通りへと向かうことにした。
「うう、寒すぎる…」
今夜の風が一段と冷たいのは、気のせいだろうか。
― さっきまで、あったかい部屋にいたはずなのになあ。
34階にある海斗の部屋から見える夜景は素晴らしくて、彼とワイングラスを傾けながら「私もいつかここに住むのかな…!」と胸が高鳴っていた。
今日で海斗の自宅を訪れたのは、何度目だっただろう。
赤坂の一等地にありながら広々とした造りのエントランス。入るたびにお辞儀をしてくれるコンシェルジュ。それらに相応しい女になれたと思っていた。
でも結局、彼は私に対して「付き合おう」という言葉を言ってはくれなかったのだ。
Case2:遊び足りない赤坂タワマン独身貴族
海斗と出会ったのは、会社の同期が開催してくれた食事会だった。自身で会社を経営しているという彼は34歳。背が高くて、奥二重の切れ長な目が印象的だった。
この会で海斗は私のことを気に入ってくれたらしく、帰り際にこっそり耳打ちされたのだ。
「美月ちゃん。今度、ご飯行かない?」
彼からの甘い誘いに、私はもちろん笑顔で応じた。
「はい。ぜひ!」
そんな海斗が初デートで予約してくれていたのは、赤坂にある『焼肉 思食』だった。
赤坂にある、凛とした佇まいの焼肉店。実は以前から、ずっと来てみたいと思っていたお店だった。
店内には韓国の骨董品が飾られている。そしてコースで出てくる料理はすべてが絶品だった。
「美味しい…!」
「だよね。赤坂って美味しいお店がたくさんあるんだよ」
フッと笑う海斗に、思わずこの街を重ね合わせる。
赤坂には独特の空気が流れている。老舗の料亭が点在し大人な雰囲気が漂うかたわら、3丁目にはサラリーマンが集う賑やかな居酒屋もある。
それに焼肉店や、24時間営業している韓国料理店も多い。
その一方で5丁目にはTBSや博報堂が入るBizタワーなどアイコニックなオフィスビルがあり、9丁目まで行くとまた空気感が変わって檜町公園や『東京ミッドタウン』がある。
「赤坂って面白いエリアですよね」
「そうなんだよ。あと意外に便利で」
「このお店、よく来られるんですか?」
「うん、そうだね。ここから家が近いからさ」
その言葉に私は「赤坂 タワマン」で脳内検索をかけてしまう。
赤坂には無数のタワマンが乱立している。赤坂見附側なのか、千代田線の赤坂駅界隈なのか。もしくは六本木へ向かうほうなのか…。
そんなことを考えているのがバレたのか、食事が終わり外へ出ると、海斗が私の顔を覗き込みながらどこか少年のような顔になった。
「2軒目、うちでもいい?いいワインがあるんだ」
そして気がつけば、自然に彼の家へと導かれていた。
そうして到着したのは、赤坂でも有名なタワマンだった。
「ここですか…?」
「うん。歩かせちゃってごめんね」
綺麗に整備されたエントランスの中央には警備員がいる。彼らに軽く会釈をしながら、私たちは建物内に入っていった。
― 綺麗だし雰囲気もいいな。
天井が高いエントランスは開放感があり、何より美しい。そして海斗の家に入るなり、私は思わず感嘆の声が漏れてしまった。
「わぁ、綺麗!」
「ここからの眺め、いいよね。ちなみにちょっと寒いけど、外にも出れるよ」
「え!?バルコニーがあるんですか?」
タワマンなのにバルコニーへ出られる造りになっているのは、なかなか珍しいのではないだろうか。
煌めく東京の夜景をうっとりしながら見ていると、いつの間にか海斗が赤ワインを用意してくれて、そっとグラスを差し出された。
「はい美月ちゃん。乾杯」
「乾杯!」
凛とした空気が、私を包み込む。夜景がより一層輝いて見えた。
赤坂タワマン独身男のリアル
この日から、海斗と頻繁にデートするようになった。いつも高級店へ連れて行ってくれて、2人で楽しい時間を過ごす。
2軒目は立地もいいし快適なので、彼の家へ行くことが多かった。
「本当に素敵な家だよね」
「そうかな?この程度なら、東京にいっぱいあるでしょ」
「成功者って感じだね」
「恥ずかしい話だけど、タワマンに憧れがあって」
そう言って海斗は、少し照れながらぽつりぽつりと話し始めた。
「昔はお金がなくて女性にも相手にされないことが多かったけど…。28歳で起業して、ようやく認められたというか。それにこの景色を見るたびに、こういう家に住めた高揚感みたいなのは感じるよね」
そんな話を素直にしてくれる彼に、私は会うたびに惹かれていった。
どこか不器用そうで「LINEが苦手」という海斗は連絡の頻度も低い。けれども会っているときは私をとても大事にしてくれる。
「海斗といると楽しいな」
「僕もだよ」
リビングに置いてある、バイオエタノールの暖炉の炎の揺らぎを見つめながら、私たちはそっと抱き合った。
けれども、海斗から本当に聞きたい言葉はずっと聞けないまま。
「ねえ海斗、私…」
「うん?送って行こうか?」
「いや、そういうことじゃなくて…」
何度も問いかけたい衝動に駆られる。でもその度に、うまくはぐらかされてしまう。それに朝になる前に、私はいつも彼の部屋を後にしていた。
何となく、朝までいるのがはばかられたから。
― 朝までいたら、重い女って思われそうだな。
会っているときは親密だけれど、会っていない時間は海斗が何を考えているのかわからない。
そして何度か会ううちに気がついてしまった。
― この人、誰か1人の女性に落ち着く気がないんだ。
カッコいいし、モテるだろう。赤坂のタワマン在住。自分で会社を経営していて、グルメ偏差値も高い。寄ってくる女性はきっとたくさんいる。
そもそも初デートから家の近くのお店を指定してきていた時点で、気がつくべきだった。2軒目でこの綺麗な夜景を見せられたら、思わず落ちてしまう人も多い。
そしてそんな状況を彼は今、最大限に楽しんでいる。
これが悪いことだとは思わない。すべてタイミングだし、人は皆一度は遊びたい時期もあるだろうから。
ただ付き合う気がない男性を追いかけるほど、時間の無駄なことはない。
「いい人だったんだけどな…」
その後も何度か海斗から連絡が来たけれど、私は心を鬼にして会わないことにした。
こうしてまた、私の婚活は振り出しに戻ってしまったのだ。
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青山一丁目のタワマン在住セレブ妻が、見せた顔とは