「まっとうな叱責」「なんか面白くなかった」…“誹謗中傷をやめられない”人々の本音

罰則化が進むネットの誹謗中傷の問題。被害者による注意喚起が叫ばれるなか、加害者は何を思うのか。「やめたくてもやめられない」状態にあることも多いという当事者たちの本音に迫った。

◆「悪いことだと思っていない」無自覚ゆえの根深い問題

近年、深刻な社会問題になっているネット上の誹謗中傷。鋭い言葉の刃は、被害者を精神的に追い込み、最悪の場合自殺するケースも発生している。

国は本格的に対策に乗り出し、’22年7月に侮辱罪が厳罰化され、10月には発信者情報の開示請求や削除請求について規定したプロバイダ責任制限法が施行された。

「誹謗中傷はやめましょう」と啓発キャンペーンが打ち出される一方で、そう簡単にはやめられない人がネットには潜伏している。

◆政治家へのコメントがヒートアップして……

「あくまでも正義感に基づいての行動だったのに、なぜ私が悪者扱いされるのか」

そう語る中田博さん(40代・会社員)は、たびたびネット上で政治思想ゆえのトラブルを起こしている。なかでも揉めたのが政治家に対してだ。

「自分の政治思想を導いてくれた大学時代の先輩が議員になり、ブログで『お前らの政党が不甲斐ないから安倍政権が台頭しているのだ』と“発破がけ”のコメントを匿名でしていました。数か月続けていたらコメントを削除されるようになり、納得がいかなかった。ヒートアップしてより過激になっていきました」

その後は、コメント欄ではなくメールへ移行。議員から届いた返信メールに、びっしりと長文の反論を書き、「私に恐怖を感じるなんてどれだけ臆病なんですか」と無理解を突きつけていた。

「議員から『警察に言う』とメールが届き、これはいけないと思って電話で謝罪しました。『お前だったのか』と呆れられ、警察行きは回避できました。でも相変わらず私は『それは違うだろ』という意見を見つけたら噛みつかずにはいられません。何度もやめようと思っているのですが、ネットを見てはつい意見してしまうんです。相手からすれば誹謗中傷になるだろうけど、的外れや事実無根の非難をしているわけではない。まっとうな叱責だと考えています」

◆うんざりした日々の憂さ晴らしが目的

竹垣靖さん(61歳・無職)が、誹謗中傷コメントにハマり出したのは50歳になった頃。ある女性タレントのツイッターの投稿が彼の心をいたく揺さぶった。

「セクシー系の好みのタレントさんだったんですよ。彼女が『小太りで毛深い男性が生理的に無理』的な投稿をしたのを見て、言いようのない怒りを覚えた。それが、そもそものきっかけでした。彼女のSNSのコメント欄に『生理的に無理とか言ってるお前が生理的に無理』と繰り返し投稿したのを覚えてます」

それから、アイドルやフェミニズムを主張する女性に対し、頻繁に誹謗中傷コメントを書くようになった。#MeTooブームで性被害を告発するようなニュースが配信されるとヤフコメ欄にミソジニー爆発の投稿を連投。「クソビッチ」「腐れマ○コ」というフレーズをよく使っていたという。

◆精神科病院に入院、今は一切ネットをやらない

「離婚した末、カネも友達もない田舎で親の介護の日々。毎日うんざりしていました。息抜きと言ったらネットサーフィンぐらい。ネットを覗いては、コメントを投稿するようになった。誹謗中傷をしてきたつもりはないけど、徐々に内容がエスカレートしていくのは感じてました」

実家で暴れて警察を呼ばれてしまい、精神科病院に入院。今は一切ネットをやらないようにしているそうだ。

◆応援しているから矛盾を突きたい

塚田仁さん(58歳・会社員)は、ある男性YouTuberのファンだった。

「昔から応援してたけど、突然ホストをやると言い始めて。そんな甘いもんじゃないだろうとなんか面白くなかった」

後日YouTuberは1000万円の売り上げを達成したと報告。だが、彼女が800万円、友人が200万円払っていたことが判明した。

「そんなの身内のカネじゃん。おかしくない?ってTwitterでリプや引用リツイートで広めました。応援しているからこそ矛盾点を突きたくなる。ブロックされたときは『よっしゃー!』と思った。だってさ、明らかに嫌がっているのが面白くて」

YouTuberが炎上すると、別アカウントで「本気でアホだから自業自得!」と煽った。ファンとアンチは紙一重だ。

◆ひどいことを言いたいだけ。別に理由はいらない

「あにまん掲示板というところで荒らししてます。そこは誹謗中傷がすぐ消されるんですよ。侮辱罪のこともあるし、大ごとになる前に消えたほうがいいかなと。基本的に恥ずかしいことだと自覚してますよ。だってやっていることカスじゃないですか」

そう自虐的に語る川下修平さん(20歳・大学生)は、6年前から週3回ほど習慣的にあるライトノベル作品のキャラを叩いている。

「中学の時にその作品を図書館で読んだのですが、暴力的なシーンが目について、途中で楽しめなくなりました。同じような感想を求めてネットを見ていたら、掲示板のアンチスレに行きついたんです。次第に、ファンスレにあえてアンチ的な発言する荒らし行為にハマるようになりました。『〇〇はダブルスタンダードのクソ女だ』とか。当然ファンの集まりなんでめちゃくちゃ怒ってくるんですよ。過激な邪推をして、ファンに『何巻だよ』って言われたり。反応がくることが楽しかった」

実在しないアニメキャラを叩くのには理由があった。

「現実にいないので、直接傷つく人がいない。同じアンチの人と書き込んでいるとなんか一体感を感じることもあります。ひどいことを言う相手にちょうどよかったんです。ひどいことを言うために理由なんて別にいらないので」

◆誹謗中傷するのは人間の性なのか?

誹謗中傷をやめるにはどうしたらいいのか。ネットトラブルの裁判例や対処法を共有するサイト「TOMARIGI」を企画したIT起業家の関口舞氏に聞いた。

「他人の不幸は蜜の味といいますが、残念ながら自分が直接手を下さずに誰かがダメージを受ける様子を見ると脳から快楽物質が出る『シャーデンフロイデ』という現象があります。

本来は自分自身が幸せになることが大事だけど、それが叶わない場合に、幸せそうな人を誹謗中傷することで精神的に上に立とうとしてしまう。あるいは、遠い世界にいる芸能人に自分の言葉でダメージを与えることが楽しくなってしまう。

人間の性がそうさせるなら、『こんな損害がある』『逮捕される』など、きちんとデメリットを浸透させないと誹謗中傷はなくならないでしょう。被害者はもちろん、何の気なしに誹謗中傷の加害者になって後悔してしまうのは、双方にとっていいことではないですから」

誰しも誹謗中傷依存に陥る隙はある。明日は我が身かもしれない。

【IT起業家・関口 舞氏】

IT企業「カヤック」と共同でSNSでの誹謗中傷体験・裁判例共有サイト「TOMARIGI」を運営。番組のコメンテーターなど出演多数

取材・文・撮影/根本直樹 桜井カズキ 吉田光也 ツマミ具依

―[[誹謗中傷する]という病]―

2023/1/13 15:53

この記事のみんなのコメント

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  • トリトン

    1/14 17:28

    確かに読み直したらそう取るしかないですね、だから後のコメント悪いことしたりしようとする議員に抗議しても良いと言うのを全ての議員と取るしかないですね。でも悪いことする議員は誹謗とかはしても良いと思いますね。そしてそう取れるコメントは消しておきます。失礼しました。

  • あと、スミマセン。いつも関係ない話を例え話?にしてらっしゃいますが、逆に何を言っているのかワカラナイときがあります。「ときどき議員を褒めているから今回は誹謗中傷しても良いだろう」っておっしゃっているように読み取れますが、それはダメです。良いことはいつでも良いし、悪いことはいつでもダメなんです。

  • いや、トリトンさんを否定はしていないつもりです。そして、トリトンさんのコメントすべてに賛同したり反対したりはいちいちしてません。ただ、今回のトリトンさんのコメントでは、議員ならばすべての議員に対して誹謗中傷をしても良いのでは?ってコメントしてたので、それは違うでしょう。責められるべき議員もいれば、そうでない議員もいるので、人くくりに語ってはいけないと申し上げています。人くくりに語るなら否です。

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