オードリー若林「まぁ、ナメてますけども」森脇健児をオイシクさせる“共犯関係”

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(11月27~12月3日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

なすなかにし・中西「僕ら森脇さんのこと裏で『足向けて寝れる偉人』って言うてます」

 まさかこんなに笑うとは思わなかった。

 30日の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)に、森脇健児が出ていた。事務所の後輩のなすなかにし(那須晃行・中西茂樹)を伴っての出演だ。なすなかの2人は森脇のセコンド役のような立場だったのか。彼らの話はあまりなく、番組の中心はもっぱら森脇だった。

 そしてそれが、とても面白かった。

 番組冒頭で、なすなかにしは松竹芸能での森脇のポジションを解説した。中西いわく、森脇は「松竹芸能の歴史をつくった方」。しかし、那須によれば「最初お会いするのは緊張したんですけど、だんだん会うたび、ナメてもいいんだこの人って」。そんな森脇を中西はこうまとめた。

「僕ら森脇さんのこと裏で『足向けて寝れる偉人』って言うてます」

 聞く人が聞けば、先輩へのただの失礼な発言である。しかし、当の森脇はこれを聞いても微笑んでいる。オードリーの若林正恭が「笑ってる場合じゃないですよ。なんかパンチ返してくださいよ」と話を向けても、森脇は「ナメられてるのわかるからね」と自虐的に返した。

 足を向けて寝ることのできる偉人。失礼とリスペクトが絶妙に配合された表現である。もちろんその配合の妙は、森脇となすなかにしの関係性に支えられているのだろう。

 これまでも、森脇の“変”なところは、松竹芸能の後輩芸人が面白おかしくトークするなかで視聴者にも伝えられてきた。少なくとも全国区のテレビで森脇イジりの先鞭をつけたのは、安田大サーカスの団長だっただろうか。『オールスター感謝祭』(TBS系)の赤坂5丁目ミニマラソンのコーナーでは、ある時期から森脇イジりが恒例になってきた。

 今回の『あちこちオードリー』のオープニングは、これまでの森脇イジりにスムーズに接続するとともに、あくまでもリスペクトの対象(「偉人」)であるとの前提を押さえるものになっていた。森脇も後輩からのイジりをひとまず“寛大”に受け止める体勢を見せた。これでもう、彼を面白い存在として安心してテレビの前で笑う準備は半ば整ったと言ってもいい。言い換えれば、共犯関係に巻き込まれかけている。

 さらに、森脇は先の「ナメられてるのわかるからね」発言に続けて、「君らもナメてるやろ?」と若林に問い返した。これに若林は「まぁ、ナメてますけども」といたずらっぽく笑って認めた。

 そんな若林の返答に、森脇は大げさに机を叩いて、いま俺は怒ってます的なポーズを笑顔で見せた。怒りを示す動きとは真逆の笑顔、この動きと表情の食い違いが、このやり取りがあくまで“お笑い”であることを見る側に確認させる。森脇の受けが、若林の“失礼”を“失礼ボケ”にする。

 一連の会話を通じて、同じ事務所の先輩後輩にあたる森脇となすなかにしの関係性が、他事務所のオードリー(の少なくとも若林)との間にも延長される。これで、テレビの前で笑う準備は完全に整った。完全に共犯関係に入った。

 こんな導入を経て、森脇は番組で何を語ったのか。そしてオードリーやなすなかにしはそれをどう面白くしたのか。

 番組では、森脇のデビューから振り返られた。1984年、17歳でデビューした森脇は、21歳のときには関西で帯番組のMCを務めた。1990年、23歳で東京に進出。『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のレギュラーになり、森口博子やSMAPと共演した『夢がMORI MORI』(同前)が始まるなど、90年代には全国区の人気者となった。

 しかし、1999年、32歳のころには関西に戻ることとなった。森脇は当時を振り返った。

森脇「何も仕事なくなってね」

若林「それは、なん……」

森脇「事件も事故もスキャンダルもないでしょ。別に僕、何もない。だから結局……まぁ、なんやろ……おもろないのがバレたのんちゃうん?……なんで言わすの?」

中西「自分から言いました」

那須「ご自身で言いました」

 鳴り物入りで上京したあとの“下野”。確かにちょっと話しづらい件ではある。そこを「まぁ、なんやろ……」と逡巡しつつも「おもろないのがバレたのんちゃうん?」と自分からきっぱり言ってしまう感じ、そして言ったそばから「なんで言わすの?」と不本意を隠さない感じ。言わせてないのに「言わせてる」とクレームをつける森脇という構図に笑ってしまう。その構図の成立をなすなかにしが「ご自身で言いました」などとフォローする。

 いや、森脇の言うとおり、若林はたしかに誘導していたのかもしれない。「それは、なん……」と語尾を濁しながら水を向ける若林の感じは、いやらしいと言えばいやらしい。このシーンの面白さは、そのあたりを森脇が実質的にツッコんでる点にもあったのかもしれない。番組ではこのシーンに至るまでにも、若林らの微かな誘導に森脇が追い込まれる流れが繰り返されてきたけれど、そんな流れに対するツッコミにもなっていたかもしれない。

 トーク中に例えを盛り込む森脇、例えのイマイチさを指摘する若林、ボクシングのようにガードを固めて若林の鋭い指摘を耐える森脇――。番組内ではそんな“鉄板”の型もいつの間にか出来上がった。かと思うと、そんな型がなかったかのようにいきなり森脇が「汗かいて、ベソかいて、恥かいて」と例のごとくシャドーボクシング的な動きを見せる。そこにまたオードリーやなすなかにしがツッコミを入れる。そのコンビネーションも面白かった。

 90年代、森脇はたしかにテレビの人気者だった。ただ、本人も認めるように、たしかに面白いとは思えなかった。それを私なんかはつい、“周囲に作られた人気”と振り返ってしまいがちだけれど、今回の『あちこちオードリー』を見ると、周囲が盛り立てた結果として面白くなっているなら、それはそれでいいじゃないかという気にもなってくる。

 番組の前半、森脇は若林をこう評していた。

「若林くんはな、目が笑ってないやろ。鶴瓶さんと同じ目してると思わへん?」

 若林が笑福亭鶴瓶と似ているかどうかはよくわからないけれど、森脇のイジられ方は鶴瓶に似ている気もする。松竹芸能には「足向けて寝れる偉人」が定期的に現れるのかもしれない。

2022/12/7 11:00

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