5歳の子ども同士で起こった性被害。大反響の実話マンガ『なんで言わないの?』

 「小さな子どもが性被害にあった」と聞いたら、皆さんはどんな状況を想像しますか?

 おそらく多くの方が思い浮かべるのは、青年期以降の大人による加害かと思います。幼い子どもを持つ親御さんは、常々警戒しておられることでしょう。

 しかし、子どもが受ける性暴力の加害者は、大人だけとは限りません

◆見過ごされやすい子ども同士の性被害

 漫画『5歳の私は、クラスの男子から性被害を受けました。~なんで言わないの?~』(2023年1月下旬発売予定)の作者ゆっぺさんは、ご自身が5歳のときに同級生から性被害を受けた経験を持つ女性です。5歳児同士で性被害? と感じるかもしれませんが、あまり知られていないだけで、子ども同士における性被害が発生することもあるのです。ゆっぺさんは、見過ごされやすい子ども同士の性被害について多くの大人に知ってもらいたいとの思いから、実体験をマンガ化しました。

 子どもたちの世界で何が起きているのか。本作をとおして子どもと性の問題について見ていきたいと思います。これより先は具体的な描写を含むため、フラッシュバックなどの心配がある方はご注意ください。

※ゆっぺさんも作品内で繰り返し明記していますが、この漫画は30年以上前の個人の体験談であり、現在の幼稚園や保育園での対応とは異なります。また、当時の幼稚園や保育士を批判するものでもありません。

◆幼稚園で、ボス的存在の男児に目をつけられる

 本作の舞台は今から30年以上前、当時5歳だったゆっぺさんが通う幼稚園です。

 転入生でおとなしい性格だったゆっぺさんは、クラスのリーダー的存在の男子「ボス太郎」に目をつけられ、弁当に上履きの中のごみを振りかけられたり、私物を隠されたり、制作物を壊されるなどのいじめを受ける日々を送ります。

 おとなしい性格ゆえに「やめて」が言えず、大好きな母親にも打ち明けられないまま、ボス太郎のいじめに耐えていたある日。お昼寝の時間に、事件は起きました。

◆布団の中に手を伸ばし、下着の中へ手を入れてきた

 ゆっぺさんの隣で寝ていたボス太郎は、先生が教室を離れたタイミングでゆっぺさんの布団の中に手を伸ばし、下着の中へ手を入れてきたのです。

 体をよじらせ逃げようとしてもしつこく触られ、不快な気持ちと「恥ずかしいことをされている」という認識もあったものの、「大きい声を出してみんなに注目されたくない、知られたくない」「自分が我慢すれば何事もなく過ぎていくはず」と、ゆっぺさんは最後まで声を上げることができませんでした。

◆行動はさらにエスカレート

 そんなゆっぺさんの態度に味をしめたボス太郎は、お昼寝の時間に毎回触ってくるようになりました。

 それでも声を上げられずに耐えていると、やがて仲間のマネヒロくんを巻き込んで2人がかりで触ってくるようになります。

 そしてついには、ゆっぺさんを教室の外に連れ出して自分たちの性器を触らせたり、さらに仲間を増やして3人で触ってきたり、ゆっぺさんのトイレを覗いたりと、ボス太郎の行動はエスカレートしていったのでした。

◆恥ずかしくて母親にも言えなかった

 ゆっぺさんもボス太郎たちも、5歳で性的な物事を深く理解していたわけではないでしょう。それでも、先生が見ていないすきに行う、外へ連れ出すなどの様子から、ボス太郎たちには子ども心ながらに悪いことをしている認識があったことがうかがえます。

 そしてゆっぺさん自身も、「お昼寝のときの意地悪は性的な意味が含まれているのだと、子どもでもハッキリとわかりました」と、普段の意地悪とは違う恐怖を感じていたのです。

 それだけに、「恥ずかしい自分を知られたくない」との思いから、母親へすら被害を訴えることができませんでした。

◆「女にはお尻のほかにもう1つの穴があるらしい」

 誰にも助けを求められず、逃げることもできずに、ボス太郎たちからの性被害に耐え続けるしかなかった5歳のゆっぺさん。一方ボス太郎たちの行為は、服を脱ぐことを強要してくるまでにエスカレートしてしまいます。

 ボス太郎は歳の離れた兄の影響で、「女にはお尻のほかにもう1つの穴があるらしい」ことを知り、仲間と一緒にゆっぺさんで確認しようとしたのです。

 これまで触られはしても、脱がされたことはなかったゆっぺさん。迫りくるボス太郎たちに今まで以上の恐怖と羞恥心を感じ、そこでようやく「やめて!」と言うことができました。

 ただ、「やめて」とボス太郎の仲間を弾き飛ばしたこと、そして弾き飛ばされた男の子の泣き声で先生が部屋に入ってきたことから、ボス太郎に「許さない」とすごまれてしまいました。

 何もかもが計り知れない恐怖だったのでしょう。翌日、ゆっぺさんは母親に仮病を訴えて、ついに幼稚園をお休みしてしまいます。

 それでも仮病では1日休むのが限界です。休んだ次の日、重たい足取りで幼稚園へ向かったゆっぺさんを待ち受けていたのは、思いもよらない展開でした。この続きは、本書で確認してみてください。

◆今この瞬間にも悩んでいる子どもがいるかもしれない

 幼稚園で受けた性被害を母親にも先生にも打ち明けることなく、大人へと成長したゆっぺさんですが、保育園に通う娘さんが園で流行っている“お友達の下着をズボンごと下ろす遊び”への悩みを打ち明けてきたことをきっかけに、「子ども同士の性被害に気付いていない大人たちに知ってもらいたい」と、マンガ化を決意したそうです。

 これまで、ボス太郎の行為によって「傷ついていた自覚はなく、トラウマにもなっていないと思っていた」というゆっぺさんですが、いざ描き始めると、「悲しくもないのに涙が出てくることが何度もあって、気持ちを封印していただけで、無意識ながらもしっかり傷付いていたのだとわかりました」と、初めて自分の本心に気付いたそう。

 本作は当初、ゆっぺさんのブログで『なんで言わないの?子供同士の性被害』として公開されました。すると、「同じような体験をした」という読者からのコメントが多数寄せられることに。ゆっぺさんは、「こんなにも隠れた被害者がいるということは、今この瞬間にも悩んでいる子どもがいる可能性があるということです」と、子ども同士の性被害について大人に知ってもらいたいとの思いを、より強く抱くようになったといいます。

 そのため、本書では実話を基にした子ども同士の性的トラブルの解決法や、小さな子どもや思春期の子どもへの性教育についてもマンガで紹介しています。

◆健全な成長と、問題行動の区別をしっかりつけよう

「ただの遊びでしょ?」「男の子だから仕方がない」

 子ども同士の性的な問題に、大人はついこのようなセリフを言いがちです。確かに、大人の性犯罪とは意味合いが異なる部分も大きいでしょう。異性や異性の体に興味を抱くのも、成長過程で必ず通る道です。

 でも、内容次第では、不快感や恐怖心などがその後の人生に大きな影を落としてしまうことを、大人は今一度意識しなければならないと、ゆっぺさんはマンガをとおして訴えます。

 我が子が被害者に、そして加害者にもならないために、「自分のプライベートゾーンは触らせない。相手のプライベートゾーンは触らない」「性的な発言、行為は相手に不快感を与えること、なぜいけないのかをきちんと説明する」こと、そして、健全な性的発達と問題行動の境界線を正しく判断できる知識を養うことが、親子ともに必要なのかもしれません。

◆「隠れた被害者がこんなにいるんだと驚きました」

 作者のゆっぺさんは、次のように語ります。

寄せられたメッセージには様々な性暴力、性被害の様子が書かれてあり、中には目を覆いたくなるような体験談も送られてきました。隠れた被害者がこんなにもいることに、ただただ驚きました。

 今回、私が描いたのは『子ども同士』の性被害でしたが、大人から受けた性虐待を含めると、その数は計り知れません。

 被害者は口を揃えて『一生忘れることは出来ない』と言います。

 幸いにも私は、トラウマも無く暮らせていますが、当時の記憶は死ぬまで忘れることはないでしょう。

 でも悔しいことに、加害者は忘れてしまっているんですよね。

 被害者に対して『自意識過剰だ、考えすぎだ』などと本気で言っている大人がいることも事実です。

 一生苦しむ女性がいることなんて、想像できないのでしょうね……。

 日本は性教育に後ろ向きなところがあるので、子どもは被害に遭っても話せないし、そんな子どもがいる事実さえ知らずに過ごしている大人も沢山いると思います。

 でも、子ども同士の性的な問題行動・性被害は起こり得ます!

 まずは大人がそれを理解し、子どもへ教えていかなければならないのではないでしょうか」

◆子どもを守るため、私たち大人にできることは?

 このような性被害が起こらないようにするために、私たち大人にできることはあるでしょうか。また、もし万が一起こってしまった場合には、どう対処するのが望ましいのでしょう。臨床心理士、公認心理師、家族と子どもセラピスト学会認定セラピストとして、臨床・執筆活動を行う木附千晶さんに話を聞きました。

――子ども同士の性被害について、木附さん自身は相談を受けたことはないとのことですが、作者のゆっぺさんによると、子どもは被害に遭っても大人にそれを説明するのが非常に困難だということでした。もしかすると隠れた被害者がいる可能性はありますよね。

木附千晶さん(以下、木附)「小さな子どもが大人に説明するのは、ほぼ100%無理だと言ってもいいでしょうね。子どもたちは大人がいけないと思っているようなこと、特に性的なことは、人に言ってはいけない、隠さなきゃいけないと思っています。だからたとえ性被害を受けても、何が起こっているのかわからないから説明できないうえに、大人に話してはいけない、知られてはいけないと思い込んでしまう。まして、自分より体の大きな大人に『秘密だよ』なんて口止めされたら、ますます誰にも言えなくなります」

◆「何かあったら言ってね」「いつでもあなたの味方だよ」

――こういう被害を減らすために、また万が一のときにも子どもが大人に打ち明けやすくするために、私たち大人はどうしたらいいのでしょう。

木附『生まれてきてよかった』と子どもに思ってもらえるような性教育が、本来は必要です。これは被害者、加害者、どちらの子どもにも言えることです。

 加えて、日頃の子どもとの関わり方で、子どもの目線に立ち『あなたが大事だよ』と尊重することを忘れない。たとえば子どもが何かいけないことをした時、理由も聞かずに頭ごなしに叱っていては、子どもは怒られるのを恐れて、大人にものを言えなくなってしまいます。叱ることも大切ですが、そのときに理由もちゃんと聞いてあげること。大人から見ると『悪いこと』でも、子どもは何らかの意味があってやっていることも多いです。子どもの小さな思い、願いを大切に受け止めて、そのうえで何がいけないか、どうすればいいのか、ちゃんと説明してあげるのが良いと思います。

 子どもたちには普段から『何かあったら言ってね』『いつでもあなたの味方だよ』と繰り返し、言葉や態度で伝えることが大切ですね。自分が大事にされていると確信できている子どもは、嫌なことを嫌と言いやすい。自分を大事にされる経験を積むことが、将来、その子自身を救うかもしれません」

◆子どもにポルノを見せることも性的虐待

――こうした“事件”が起きてしまった際、“加害者の”子どもや保護者にはどのように対応をするべきなのでしょうか。子どもに責任を負わせることはできませんが……。

木附「その子の親がどこまで話してくれるかはわかりませんが、家庭環境についてヒアリングが必要だと思います。というのも、加害者の男の子もある種の性被害を受けている可能性を感じるからです。それを何らかの形で表現しているのではないかという印象を受けました。

 子どもが性に興味を持つようになり、ごっこ遊びをしたりということは健全な発達の中でありますよね。おもちゃの聴診器を持って、お腹を出してソフトなお医者さんごっことか。でも、今回の加害者の男の子の行動は、明らかに自然な発達の中では生まれない内容です。これは周りの人間、きょうだいなのか親なのかわかりませんが、年上の誰かに影響を受けています。

 たとえ子どもに直接触らなくても、子どもの見える場所にポルノなどを置いたり、性的な行為を見せたりすることも、性的虐待です。子どもはいけないものだとわかっていても好奇心から見てしまい、その内容から、個人的な問題を抱えてしまうことになります」

◆万一のことが起こったらどうすればいいの?

――今回の話は30年以上前ですが、もし今、木附さんのところにゆっぺさんのようなケースの相談が来たらどう対応し、保護者にどんなアドバイスをしますか?

木附「性被害に遭った子どもに話をしてもらうことは非常に難しく、残酷なことです。警察に子どもを連れて行けば事情聴取で二次被害、三次被害が起きかねないので、そういった事態は何とか避けたいですね。保護者と一緒に、子どものケアを最優先に、どうしたら子どもが安心・安全だと感じてくれるかを第一に考えます。

 親御さんからは『気づかなくてごめんね。言ってくれてありがとう。これからはずっと味方だから、1人で頑張らなくていいよ』と子どもに伝えてあげて欲しいです。その上で、外部からできる精神面のケアとしては、幼い子どもの場合は(会話をする)カウンセリングは難しいでしょうから、言葉を用いない心理療法、たとえば箱庭療法などを行うと思います。

 しばらくは、他人のいる場所自体が怖いと思うんです。保育園は転園させると思いますが、新しい園にも、無理にすぐ行かせなくていいと思います。その子が安心・安全と思えるのを待ちます」

【ゆっぺ】

趣味はお菓子作りと絵を描くこと。娘2人を育てながら「ゆっぺのゆる漫画ブログ」の管理人として「なんで言わないの?」をはじめ多数の漫画を発表。

【木附千晶】

臨床心理士。「CAFIC(ケフィック) 子ども・おとな・家族の総合相談 池袋カウンセリングルーム」主宰。子どもの権利条約日本(CRC日本)『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『子どもの力を伸ばす 子どもの権利条約ハンドブック』など。著書に『迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生のものがたり~』、『いつかくるペットの死にどう向き合うか~16歳の愛犬を亡くした心理カウンセラーが考えるペットロス~』など。

<マンガ/ゆっぺ 文/千葉こころ コメント/木附千晶 取材/女子SPA!編集部>

2022/12/1 15:44

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